第2話 共に歩む仲間たち




4月24日16時。


学校も終わり、初瀬川もなかは友人に別れの挨拶をして教室からダッシュでアイドル事務所まで向かっていた。



(楽しみ…!!私、アイドルになるんだ…っ!!!)



どんな歌を歌うのかな。



どんなレッスンをするのかな。



どんなアイドルたちが待ってるのかな。



今にでも声に出そうなくらいの嬉しさやさまざまな期待を胸に心を弾ませ、新人アイドルの初瀬川もなかは都会の街を走っていく。



「あら、もなかちゃん。そんなに急いでどこへ行くんだい」


八百屋のおばさんに話しかけられると、初瀬川もなかは少しブレーキをかけ、くるりと回り、おばさんの顔を満開の笑顔で見て、


「アイドル!アイドルの初レッスンに行くんですっ!」


と言った。八百屋のおばさんは目を点にして、不思議そうな顔で走り去って行くもなかを眺めていた。



いつの間にか、初瀬川もなかは事務所の前に立っていた。



「わあぁぁぁぁ…っ!」



もなかは目をキラキラと輝かせながら、その事務所を見上げていた。自分の身長の何倍も高い。外観はかなり綺麗で大きくて、とてもしっかりとした建物だった。

事務所看板には、778プロダクションと書かれている。

それを見るともなかはハッとしたように制服のあらゆるポケットに手を突っ込み始めた。

ある程度探すと、小声で「あった!」と発したと同時に、スカートのポケットからプロデューサーから貰った名刺を取り出した。その名刺には、事務所看板と同じく778プロダクションと書かれている。



「ここだ…!」


言葉にならない想いを抱え、いざ中へ入ろうとすると、



「あの……こ、こんにちは」


と、女の子の声が背後から聞こえた。もなかが振り向くとそこには、青みのかかった短い髪に、綺麗な顔立ちをした少女が立っていた。制服を着ているから、おそらく高校生だろう。


「あ、えっと!こんにちは!!」


もなかは大きな声で少女に挨拶を返すと、その少女はもなかの大きな声に驚いたのか、少しビクッとした。


「君…ここのアイドル、かな?」


「そっ、そうです!!!貴方も、ここのアイドルさんですかっっ!?」


「うん、今日が初レッスンなんだ」


「えっ!?わわ、私もなんですっ!」


「えっ…そうなんだ」


「はいっ!あの、よかったら一緒に中まで行きませんか?」


「え。い…いいの?」


「はいっ!貴方が良かったら、是非!」


「じゃあ、行こっか」


こうして、二人は事務所の中に入っていった。



778プロダクションの中に入ると、すぐそこはとても広いフロントだった。天井は高く、サイドには机や椅子が並んでいる。


「わぁ…!すごい!!すごいですね!!!」


「うん、広いね…」


二人は感動している様子だった。二人がまじまじとフロントを見渡していると、奥からプロデューサーが出てきた。


「あっ!プロデューサーさん!!」


「こんにちは。初瀬川もなかさんと、志澤凛音さんでいいかな?」


「はっ、はい!……あ、凛音ちゃんって言うんですね!」


「うん。君も、もなかっていうんだ。よろしくね」


「よろしくお願いしますっ!」


「二人は知り合い?」


「あっ、い、いえ!ついさっきすぐそこの入り口で出会って…。一緒に入ってきただけですっ!」


「そっか。じゃあ、とりあえず付いてきてくれる?」


「はい!」



778プロダクション。

もなかと凛音はプロデューサーに誘導され、3階までやってきた。

プロデューサーに付いていっていると、とある部屋でプロデューサーの足が止まった。



「ここにこれから君たちがお世話になる事務員さんがいるから、挨拶しておいで」



そこには事務室と書かれてあった。もなかは息を呑み、折り曲げた人差し指でコンコンとノックをした。

中から「はい、どうぞ」と女性の声が聞こえたので、事務室のドアノブをひねった。もなかが緊張しながらドアノブを引き、凛音が少し中を覗く。


そこには、スーツを着こなし、紫色の髪をサイドにまとめたメガネの女性が立っていた。もなかが完全にドアを開け、プロデューサーの顔をチラッと見る。するとプロデューサーは優しい顔で頷いた。



「こんにちは。新アイドルの方々ですか?」


「あ、はい!!そうです!あのっ、初瀬川もなかと言います!これからお世話になります!!!」


「志澤凛音です。よろしくお願いします」


「しっかり挨拶のできる良い子なんですね。ふふっ、私はここの事務員で、名前は泡霜千早と言います。これから精一杯お二人のサポートをさせて頂きますので、よろしくお願いしますね♪」



泡霜千早と名乗った女性はにこやかにそう言った。とても優しそうな方で、もなかと凛音はホッとし、力んでいた体からすっと力が抜けた。



「じゃあ、あと一人新しいアイドルが向こうで待ってるから、そこに行こう」



プロデューサーに声をかけられ、二人は千早さんにお辞儀をし事務室から出て行った。千早はもなかと凛音の姿が見えなくなるまで、胸元で小さく手を振っていた。



「私達以外にもう一人新しいアイドルがいるんですね」


「うん。君たちより1つ上だけど、とてもフレンドリーな子だ」


「あれっ?ということは、私達二人は同い年なんですか?」


「そうだね」


「わー!凛音ちゃんも高校1年生なんですね!てっきり年上かと思ってました!」


「同い年なんだからタメ口でいいよ」


もなかの圧に少し戸惑いながらも、凛音は苦笑いでそう言った。


「ここがレッスンルームだ。この中にトレーナーさんともう一人のアイドルが待ってる」


「事務室から近いんですね!レッスンルーム!!ここがレッスンルームかぁ…えへへ……」


「黄昏れてないで、入るよ」


「わっ、待って〜!まだ心の準備が…」


凛音が急かしてドアを開けようとすると、中から金髪の少女が飛び出してきた。



「いーらっしゃあ〜〜〜…いいいいいいぃぃっ!?!?!!」


「うわっ!?」


凛音と金髪の少女がぶつかり、凛音に覆いかぶさるように金髪の少女が倒れ込んだ。


「いってててて……ってうわっ!?ひかりんの下に可愛い女の子が!?ご、ごめん!変なことしないから許して!!声が聞こえたから飛び出てきちゃった…☆」


凛音に覆い被さった金髪の少女は慌てて凛音から離れた。


「凛音ちゃん大丈夫…?」


「う、うん……大丈夫」


もなかの手を借り、凛音はゆっくりと起き上がった。



「おいおい。レッスン中に抜け出すなんて、失礼な娘だな」


中からジャージを着崩したトレーナーが出てきた。黒髪を一つにまとめて結んでおり、運動が得意そうなのが見てわかる。

呆れたように叱ったトレーナーに金髪の少女は舌を出して謝った。


「まあいい。お前たちがこいつと一緒に入ってきた新アイドルか?」


「はっ、はい!初瀬川もなかです!」


「志澤凛音です」


「ふむ。初瀬川、志澤、これからよろしく頼む。私はトレーナー声田朔弥(コエダサクヤ)だ。ボーカルレッスンの担当をしている」


ボーカル担当のトレーナーさんは、声田朔弥というらしい。


「「よろしくお願いします!」」


「トレーナーは私以外にもあと三人いる。まあ出会ったときに挨拶をすれば良いだろう」


「ふんふん。なるほど!」


「お前には先に言っただろう」


「てへっ☆ごめんごめん!」


今日初めて来たであろう金髪の少女とトレーナーはとても仲が良さそうだった。


「じゃ、ひかりんも自己紹介させてもらおっかな〜!私の名前は蜜久光莉!ひかりんって呼んで欲しいゾ☆17歳で、二人より1つだけ年上だけど、そんなのカンケーなしに仲良くしてくれ!」


この金髪の少女は、蜜久光莉と言うらしい。瞳が常にキラキラしていて、暑苦しいほど元気だ。一緒にいるだけで元気を貰えそうな女の子だった。

光莉はニヤニヤしながらもなかと凛音の挨拶を聞いた。


挨拶し終えると、もなかはトレーナーさんに向かって、


「今日はボーカルレッスンですよね?よろしくお願いします!」


と張り切った様子で言った。



「ああ。今日は声出しの基本をやってもらう。なんせ、お前たちはユニットライブが控えているからな」



「「………え?」」




ユニットライブが控えている?

耳を疑った。今日は初レッスンで、もなか達はアイドルになったばかりだ。なのにもうユニットのライブが決まっている。


「……えっ、ユニットライブ?どういう事?」


凛音が問うと、光莉が回答してきた。




「私と凛音ともなかの三人でユニット組むんだって!それで、そのユニットのライブがもう決定してるらしいゾ☆」





数秒の沈黙の後。




「「ええええええええええええええええええええええっっっっっ!?!?!?!?!」」




もなかと凛音の驚きの叫び声が。



778プロダクションに響いた。

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