最終章(4-2)

 大学の授業みたいな就活説明会が終了。なんだか言ってることは、会社がする説明会と同じ気がした。これ、時間の無駄だった説濃厚。

 「なんだよこれ。履歴書とボールペン貰えただけで、さっきの会社説明会の話2回目聞いたみたいなもんじゃねえか」

 「ほんとそれだわ」


優雅と愚痴を言いながら、多目的ホールを出る。外に出た瞬間、2月の寒さが僕たちを襲う。

 「うーーーわ。さみぃぃぃぃぃぃ」

優雅がそう言いながら、首の後ろについてたジャケットのフードを頭に被る。

僕はフードがついてないので、とりあえず手をポケットに突っ込んで、足をバタバタして、熱を起こそうとする。無理だけど。


そこで僕は思いついた。

 「あ、部室いかね??」

 「うわ、進、ナイスアイデアだわ」

 「だろ?ついでに長岡先生にも会いに行こうよ」

演劇サークルは、「サークル」だけど、部室を持っている。大道具やその他の演劇アイテムを置くためだ。その部室には、贅沢にも暖房がついている。就活を始める前までは、よく部室で時間を過ごしていたが、最近は行ってすらいない。

他の友人や顧問の長岡先生にも会っていない。


僕は部室へ行くついでに、長岡先生に会って、就活の相談をしようと思った。


こうして僕と優雅は、泥棒のような走り方で長岡先生がいるところへと向かった。





「お、二人ともスーツ着てる。なんか違和感あるな~」


2か月ぶりくらいに会った長岡先生は相変わらず笑顔が眩しい。演劇の顧問といったら、こわもてなおじさんってイメージが強かったが、この人は真逆だ。すごく優しい近所のおじさんって感じ。もちろん、僕たちの演技になかなか納得がいかない時はイライラしていたが、基本的には優しい先生だった。


「どうだ?説明会とかたくさん行ってるのか?」

「たくさんかはわからないけど、それなりに行ってます!」

いやいや優雅はたくさん行ってるだろ。

「進は?」

「僕も興味ある会社はとりあえず行ってみてるって感じです」

先生は僕たちを見てクシャっと笑った。まるで息子を見てるかのような優しい笑顔。僕たちがちゃんと就活をしてるのを知って、安心したのだろう。


先生は立て続けに質問してくる。

「やってみたい仕事は見つかったか?」

先生、よくぞ聞いてくれた。

「…実はそのことで、今日は先生に会いに来たんです」

僕は即答で先生にそう伝えた。

先生は、表情を変えず、笑顔のままで、うんうんうんと3回ほどうなづいた。まるで僕がここに来た理由を既にわかってくれていたようだ。さすが演劇の指導者。人の心が読める。

僕は自分の今思っていることを素直に打ち明ける。


「企業説明会に行っても、自分のやりたいことがわからないんです。どの業界の説明を聞いても、違うなって思っちゃうんです。このまま説明会に参加してても、結局自分に妥協して、適当に就活をして終わってしまうような気がするんです。そんなもの何でしょうか。結局、就活ってそんなに深く考えすぎず、なんとなくで面接受けて、なんとなくで企業に採用貰って、入社するもの何でしょうか…」


ちょっと長すぎたかな。先生も、隣にいた優雅も黙り込んでしまった。さっきと比べたら、先生の笑顔が薄れている。やば、しらけたかな?今の話、理解してくれたかな?ちょっと焦る。


でもそんな必要はなかった。先生がやっと僕の長すぎた質問に反応してくれた。


「進が言ってることは正しいかもしれないね。社会経験も積んだことないのに、やりたいことなんてわかるはずがない。だから、なんとなくで採用貰って、入社するってのは事実かもしれないね。実際にそういう人はたくさんいる」


やっぱりそうなのか。大人になっても、そんなものなのか。

僕の顔が自然と下を向く。それと同時に先生は話をつづけた。


「でも、進は何か大事なことを忘れてる気もするな~」

「・・・大事なこと?忘れてる?」

敬語も使わずに、思わずそのまま先生の言ったことを復唱してしまった。


「うん。そーだなあ~。進は、自己分析をもっとやるといいんじゃないかな~」

「自己分析・・・」

さっきの大学の説明会でもちらほら耳にした言葉だ。

「そう。小学校から高校までの今までの学生生活を振り返るんだ」

「・・・学生生活・・・ですか・・・」

学生生活を振り返るか…あまりやりたくないことだ。


「うん。進は小学校の時何してた?」

突然の質問に戸惑う。

「え?えっと・・・友達とサッカーしてました」


「お、おう・・・じゃあ中学は?」

「水泳部で副部長として活動してました」


「おお!いいね!!じゃあ高校は?」

「・・・・なんもしてないです・・・」

「あ、そ、そうなんか。まあ自分なりに学生生活の事をもっと振り返っていけば何か見えてくるかもな!!」

「は、はい・・・」

先生は悪くない。でもなんとなく的外れなアドバイスであるような気がした。


先生は用事があるからと言って、そのまま去っていった。


部室でしばらく優雅と進路のことを話した。でも、これといった新たな収穫はない。彼がすでにやりたいことを決めている分、逆に落ち込む結果となった。


「進、さっきの先生が言ってたこと、あながち間違いじゃないと思うぜ」

「そうかなあ」

「そうだとも!長岡先生だぞ?だまされたと思って、自己分析やってみ!!」

「・・・うん・・」


そういって彼と大学でバイバイして、家に帰った。




家に帰った後も部屋のベッドで寝転がりながら、考えっぱなしだった。


自己分析か・・・


僕はなんとなくスマホを手に取り、「自己分析」とググってみた。

検索結果、6億件。いや、ありすぎか。


なんとなく、上から3番目にあったサイトにアクセスしてみた。

タイトルは、

「自己分析!自分の学生時代を振り返るための質問集」


今まで自己分析なんて意味ないと思っていた。

でも気づいたら、ググっている自分がいた。


僕はこのサイトを使って素直に学生生活を振り返ることにする。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る