第三章(3-2)

「今日も楓馬君とバスケしてたのー?」

 「うん、今日は完敗だったわ~」

二人で他愛もない話をしながら、狭い路地を歩いていく。ここを抜けると、車がビュンビュン走る大通りに出る。その両脇に小さなビルがコンビニや薬局とともに、たくさん並ぶ。そのほとんどが塾だ。小学生向けのものから、難関大学を目指す人向けの高レベルなものまで、いろんな種類の塾が並ぶ。おかげで僕たちが歩くこの歩道は学生だらけだ。僕が通ってる塾はもっと先を行ったところにある。そこにつくまでは瑠奈との楽しい楽しい時間を過ごす。

 

 「ねえねえ、そういえば進路先決めた?」

瑠奈は塾に入っていく学生たちを見ながら、俺に質問してきた。せっかくの幸せな時間を進路の話でつぶしたくなかったが、素直に俺は答える。

「うーーーん、決まってはないかな。とりあえずそれなりの大学に入ればいいかなーって」

ふぅーん、と興味なさそうな返事をしながらも、次の質問を投げかけてくる。

「大学行って何を勉強したいの?何かやりたいことでもあるの?」

「うーーん、特にないかな…自分でも何がやりたいのかわかんないわ」

さっきの楓馬との会話を思い出す。さすがに「大学行って女の子と遊ぶ」なんて彼女に言えるわけがない。これから先、どの友達と喋っても進路の話ばっかなのだろう。もうそんな時期なんだよな…


「ちょっとどうしたの??ずっと下向いて」

気づいたら、瑠奈の事そっちのけで自分の足元を眺めていた。進む方向を見ずに、ただただ今の自分の居場所を見つめていた。

「ああ、いや、なんでもない。瑠奈はもう進路決まってるんだもんね」

「うん、いくつか調理師専門学校受けるつもり。今は家でひたすら試験勉強」

瑠奈が調理師になるのは想像がつく。見た目も家庭的だし、よく作ってきてくれたお菓子も店を開けるんじゃないかと思うくらい、すごいおいしかった。あきらかに才能がある。

「瑠奈はいいよな。ちゃんと自分のやりたいことが決まってて」

「うん。でも大丈夫だよ。大学行ったら、やりたいこと見つかるよ」

「、、、そうだよね」

彼女からそう言われて、少し前を向いて歩けるようになった。


 いつの間にか僕の塾の前に着いていた。ストレスを和らげてくれる時間の終了。たった15分ほどの時間だが、今日はなぜだかいつもより長く感じた。

「じゃあ、また明日ね」

「うん。塾頑張って」

「瑠奈も勉強頑張って」

そういって、お互い目を合わせて、手を振った。

彼女は笑っていた。


でも何かが違った。笑っているというより、頬を無理やり上にあげているように見えた。

寒くなってきたから、顔を動かしづらいのか?いや、まだ冬にもなってないし、そんなはずはない。


彼女はそのまま僕に背を向けて、駅へ向かった。2つの小さいビルの隙間から覗いている西日の光が彼女の背中を照らし出す。

その背中がなぜかいつもより小さく見えた。どんどん遠のいていくその背中に「寂しさ」を感じた。

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