第三章(3-1) サクライレイジ 18歳

「っしゃあ~!入ったあ~!ジュースゲットオオーー!」

楓馬は右手拳を高くつき上げ、調子に乗った顔でこちらを見てきた。それから、まだバウンドしているバスケットボールをそのまま手で弾ませてキャッチした。

「まあ、昨日は俺がジュースゲットしたし、おあいこだな」

内心めちゃ悔しいけど、ちょっとだけ強がってみた。


俺と楓馬は、放課後の時間、毎日のように、今にも折れそうな錆びたバスケットゴールがある体育館裏に来て、ジュースを賭けて、フリースロー対決をする。理由は簡単。暇だからだ。


「ん~じゃあ今日はコーラにしようかな!!」

「ほいよ」

ほとんど生徒が行き来しないこの体育館裏の自販機は、ほとんどの売り上げが俺らの「賭け費用」だろう。正直いつ回収されてもおかしくない。体育館で汗水たらして頑張っているバスケ部やバレー部たちもこの自販機には見向きもしない。


 楓馬は俺の金で買ったコーラをもったいぶらずに一気飲みする。

「っぷはああ~。どんな時期でもやっぱコーラはうめえな~ゲッ」

「きったね」

「うるせえ。ゲッ」

いくら汚いゲップをしても、こいつのかっこいい顔は乱れない。うらやましい限りだ。だから、頭のてっぺんにオレンジ色の小さい落ち葉が刺さっていることは、あえて言わないでおく。でも茶髪だからあまり目立たないし、結局は顔がイケメンだから許される。白いワイシャツの裾がズボンからはみ出てもイケメンだから許される。腰パンでパンツ丸見えでもイケメンだから許される。うらやましい限りだ。

 

 「そういえばさ、おまえ進路先、正式に決めた?」

楓馬にそう言われて、思い出した。もうそんな時期か。よく考えてみれば、センター試験まであと3か月を切っていた。

 「うーーん、まだ決めてない。とりあえず受験勉強だけしてるって感じかな」

だよな~と言って、彼は安心した表情をみせた。

 「てか今から、大学どこにする、学部どこにするだの言われたってわかんねえよな。特にやりたいこともねえのに。かといって勉強も嫌いだし。何したらいいかわかんねえよ」

彼は今の僕の心境を100%の形で口にしてくれた。彼も今同じ状態にあると知って、少し安心した。


 「ま、とりあえず適当に大学はいって、女の子といっぱい遊んでやろ」

 「はは、お前らしいわ」

 「うるせ」

笑いながら、バスケットゴールを後にした。

やっぱり大学って俺が思っている以上に「遊び場」と化しているんだろうな。そんな場所に入って、キャンパスライフというものを堪能するのも案外悪くないかも。なんとなく自分の明るい未来が見えた気がした。

 

 体育館裏を抜け出して、校門へと向かう。その途中で楓馬とはお別れだ。

 「じゃ、俺は恵美が教室で待ってるから迎え行くわ」

恵美は楓馬の彼女だ。高2の春から付き合っている。

 「おけ。じゃあな」

 「瑠奈ちゃんとイチャつかないで、ちゃんと塾行けよ~」

 「うるせえ」

そうからかって彼は昇降口へと消えてった。僕は小走りで校門へ向かう。校門の横にある桜の木の葉がオレンジ色をしていてとてもきれいだ。その下に一人ポツンと立っている女の子がいる。瑠奈だ。瑠奈と付き合ってちょうど3か月くらい。今日もその桜の木に劣らず、きれいだ。彼女がこちらに気づいて手を振ってきた。僕も手を振って、それに応える。

 「ごめん待った?」

 「ううん大丈夫。行こ」

進路もろくに決めず、ただただ塾へ向かうこのストレスを和らげてくれる時間が始まった。



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