第二章(2-1) マエカワオサム 15歳

はああああ・・・・

独りで長めのため息をついた。湿った風がそれをオレンジ色に染まった空に運んでくれたような気がした。梅雨が明けたとはいえ、僕の心はまだ雨模様だ。

今日はヘルメットをかごに入れて、自転車を押して歩いている。さびた自転車から鳴り響くいつもの雑音が聞こえない。その代わり聞こえるのは、風によって揺れる稲草たちの擦れる音だ。四方八方から聞こえるその音が僕を包み込んでくれる。とても居心地がよい。稲草たちが「そんな日もあるさ。明日も頑張れ」とささやいてくれてる気がした。それくらい僕とここの稲たちの信頼関係はあつい。小さいころから長年つちかってきたものだ。


「あら、お帰りなさい。今日は遅かったのね」

「・・・・・・ただいま」

「ちょっと、手洗ってきなさい!いつもやってるじゃないの!」

母親の言葉をそのまま無視して階段を上がってしまった。頭がふわふわとしている。自分の意志で体が動いていない。僕の体は、自分の部屋へと吸い込まれていった。

 部屋に入るや否や、持ってたスクールバッグと手提げバッグをベッドに向かって投げた。スクールバッグは見事にベッドの上に着地したが、手提げバッグは角に当たり、そのまま床に墜落。中に入ってたものがすべて出てきてしまった。僕は床にまき散らされたものを一つずつ見つめる。水筒、タオル、、、、水泳着、、、、はあああ・・・・。また、ため息をついた。そのため息はどこにも行かず、今度は部屋に充満する。

 僕はスクールバッグがあることなんてお構いなしにベッドにダイブする。うつ伏せだと目を開けていても何も見えない。何も見えないからこそ、今日起きた出来事が走馬灯のように浮かんでしまった。──────


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