第9話 修行のやり直し

 俺は霊感を取り戻すため、もう一度あのゴミ小屋に挑戦する事にした。

 俺が唯一知っている、身近な「最恐心霊スポット」だからな。


 行くのはかなり怖かった。

 あの時のゾワゾワした恐怖感が甦ってくるんじゃないか、

 いや、甦ってきて、それで霊感が復活してくれないと困るんだけどな。


 俺は相当身構えてゴミ小屋に近づいていった。


 …………

 結果を言うと、何も起こらなかった。

 もうじきに十月になろうというのにまだ夏の名残の暑い空気がむんとしていて、ゴミ小屋を睨みながらずっと待ってたけれど、ゾクリとする寒気が立ち上ってくるような事はなかった。


 俺はガッカリして、本音ではちょっとほっとして、その場を去った。


 それから、先輩が自殺した林に行った。

 整備された道路から一段地面が下がった雑木林で、もう進入禁止のテープもなくて、表の雑草をかき分けて入る事が出来た。

 せいぜい住宅四軒くらいの広さで、ざっと歩いたけれど、どれが先輩が首をくくった木なのか分からなかった。


 先輩の家の前にも行ったけれど、そのまま通り過ぎた。

 とても家族の人に会う勇気もなかったからな。


 俺は歩きながらずっと思ってたんだ、


 先輩。いるなら姿を見せてください。

 なんなら俺に取り憑いてくれたっていい。

 言いたい事があるなら、言ってくださいよ。


 ってね。



 以上は土日の話。

 成果のないまま、月曜日、学校に行ったんだが、

 階段を上がって、踊り場を通った時、

(えっ)

 と思った。

 彼女がいたんだ。

 いっつもそこで、壁に向かって立っている、幽霊女子が。

 一学期以来だった。

 驚いて振り返ると、いつもは向こうを向いている彼女が、こっちを向いて、

 ぬっ、と、

 腕を突き出してきて、俺の左目に、ぐりっと、指を突き刺しやがった。

 よく映画で幽霊とぶつかると、そのままスッとすり抜ける、って描写されるだろ?

 普通はそうなんだけど、この時はちょっと違った。

 突き刺されて、目玉を、「グリッ」てする、生々しい感触があったんだ。

 痛くはなかったけど、ものすごく気色悪かった。

 幽霊女子は指を引き抜くと、

(ざまあみろ)

 って感じに笑って、消えた。

 なんだったのか訳が分からなかった。

 俺はせっかく治った左目がまた見えなくなるんじゃないかと焦った。

 視界がおかしくなる事はなかったけど、目玉をグリッとされた嫌な感じはずっと残った。


 ともかく、俺は霊感を取り戻したらしかった。


 そして気がついたんだが、

 俺はもう既に幽霊を見ていたんじゃないか?


 普通に見え過ぎて、それが幽霊とは気づかないでいたんじゃないか?ってな。


 それは道路を血まみれの男が歩いているのを見て確信した。

 おそらく交通事故に遭ったんだろう、頭と腕からダラダラ血を流しながら、途方に暮れたように、通行人たちの間を歩いているんだ。

 その男が何かに気づいたようにこっちの方を見て、

 俺は慌てて顔を背けた。

 そんな俺を、通行人たちの間からじっと見ている別の男がいるのに気づいて、俺は思った、こいつも生きている人間じゃない、ってな。

 俺は、奴らに取り憑かれないように、逃げた。


 また一つ気がついたんだが、

 俺はずっと左目を眼帯で隠して、右目だけで見ていて、

 当然、幽霊を見るのも右目で見ているつもりだったんだけど、

 実は、左目で見ていたんじゃないか?

 ってな。

 片目を隠しても、その片目は休んでるわけじゃないじゃない?

 休もうとしても、どうしても見えてる片目に釣られて、眼球がグリグリ動いちゃってるじゃん?

 見てないつもりで、実は見てたんだよ、見えない左目で。

 それが俺の霊感の秘密だったって事だ。


 さて。


 どうやらパワーアップした霊感を得てしまったような俺は、

 これで先輩の霊とコンタクト出来ると思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る