第8話 実は……

 俺が最後にまともに幽霊を見たのは…………

 実は…………

 夏休みに先輩とデートする前に、

 俺は例の心霊スポットに行っていたんだ。

 先輩に、あそこはやめておけ、って忠告されていた、ラブホテル近くのゴミ小屋にな。


 なんで行ったかって言えば、暇で、普通の幽霊を見るのに慣れちゃって、舐めてたんだな。

 心霊スポットってのがどんなもんだか、ちょっと見てやろう、

 ってな。


 行ってみて、最初は特に何もなくて、なあんだ、って拍子抜けした。

 蝉がジージー、ジージー、やかましかった。

 ところが、最初は用心して離れて眺めていたんだけど、何もないんで近づいていくと……

 急に空気が変わった。

 全身に鳥肌が立って、ブルッと体が震えた。

 蝉の鳴き声が急激に遠のいていった。

 草まみれの廃家電の積み重なりの、そこかしこの隙間の暗がりから、いくつもの目が覗いているのを感じた。

 眠っていた奴らが、一斉に目を覚ましたんだ。

 暗がりが、じわりと外に滲み出してくるように感じて、それがいくつもの人の影になって迫ってくるのを感じて、

 俺は慌てて後ろを向くと、全力でダッシュした。

 明るい表通りに出て、橋を渡って、さらに向こうのコンビニまで、全力で走り続けた。

 触れてはならない物ってのは、確かにあるんだと、身を以て実感したよ。


 それから怖くなって、ちょっと気配を感じると顔を背けて決して見ないようにして、幽霊は見ていなかった。

 先輩から電話が来たとき、内心ギクッとしたんだ。

 俺が、止められていたあの場所に行った事がバレたんじゃないか、ってな。

 実際そんな事はなくデートを楽しんだわけだが、俺は先輩に怒られるのが嫌で、あの場所に行った事は黙っていた。


 …………それが、

 先輩の自殺と関係あるんだろうか?…………


 時おり感じる嫌な気配、

 それは先輩が来ているんじゃないか?、

 と、実は考えていたんだ。

 俺に何か恨みがあるか、伝えたい事があって、やって来ているんじゃないか?

 ってね。



 以前先輩は霊の存在に関してこんな事を言っていた。


 霊ってのは電波みたいなものだ。

 だから、受信してくれる者がいなければ形をなす事が出来ない。


 霊は肉体を持たない、つまり、考える脳もないから、

 意味不明の、単調な事しか出来ない。


 例えばイタコとか、霊媒となる人間に取り憑いて、上手くマッチングすれば、

 その人間の脳を借りて、考えて、しゃべる事が出来る……んだろう、多分。


 てなことをね。



 今先輩は、霊になって、考える脳がないから、訴えたい事があっても、俺や家族に危害を加えたり、物を動かしたり壊したりっていう、訳の分からない事しか出来ない状態なんだろう。

 上手く考える事が出来なくて、伝える事が出来ないから、ひどく苛立ってるのかも知れない。


 さて、そこで俺に何が出来るか?

 いわゆる霊能者っていうプロに相談すればいいんだろうけれど、

 当の先輩いわく、本当に実力のある霊能者は表に名前を出して宣伝なんてしてない、つまり、表に派手に名前を売り出してる霊能者なんて、……偽物とまでは言わないまでも、実力なんて知れたものじゃない、ってことで、当てにならない。

 そもそもいくら相談料を取られるか、一介の高校生である俺にそんな財力はないしな。


 じゃあどうすればいいかって言うと……、

 自分で解決するしかない。


 失ってしまった霊感を、もう一度取り戻して、先輩の霊にアクセスするしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る