第5話 心霊スポット

 学校のあるエリアに、地元で知る人ぞ知る心霊スポットがあってな。


 T湖って言う、けっこう大きい湖があって、

 古いラブホテルがあるんだ。

 数年前、そのラブホテルで殺人事件が起きた、って噂が立ったんだ。

 上司と不倫関係にあったOLが、別れ話のもつれで殺された、って。で、


 湖の周りには所々、昔からの雑木林が残ってる所があるんだけど、

 そのラブホテルからすぐの雑木林に、ゴミ屋敷があるんだ。

 ゴミ屋敷と言いつつ、屋敷なんて立派なもんじゃなくて、ちょっとした作業小屋って感じなんだけど、その小屋に、ぎっしりと、どこから持ってきたんだか冷蔵庫とかテレビとか電子レンジなんかの家電品が、積み上げられて、詰め込まれているんだ。

 ぎっしり詰め込まれて、表にも積まれていて、中に入る隙間なんかなさそうで、

 そんなゴミ小屋が、雑木林の中にあって、周りに草が生えて、蔓植物が網みたいに覆って、埋もれているんだ。

 そこに、ラブホテルで殺されたOLの死体が隠されている、って噂が立って。で、

 実際にひどい悪臭がして、通報を受けた警察がやって来て、調べたんだ。

 調査の結果、見つかったのは、大型犬の腐乱死骸だった。

 OLの死体は見つからなかった。

 ま、殺人事件も死体遺棄も、面白半分の悪趣味な作り話だったってオチなんだけど。


 でも、先輩は、


「ここは危ない。特に霊感のある人は近づかない方がいい」


 って言うんだ。


 そのゴミ小屋は、多分、元々廃品業者が借りて、倉庫代わりに使っていたんだろうけれど、その後商売をやめたのか、何年間も放ったらかしで、家電類はあらかた錆びだらけで、もはや不法投棄以外の何ものでもなく、前々からなんとかしてくれって市役所なんかに苦情が寄せられていたんだと。

 警察が調査に来て、この機会になんとかしてくれればいいものを、調査が終わったらそのまんまで、数年経った今もそのまんま。

 警察の調査はいい加減で、犬の死骸を見つけたらそこまでで、積み重なった家電の奥まで調べたわけではない。やっぱり殺されたOLの死体が隠されているんじゃないか?、なんて、しつこく噂が残っているほどで。


 そういう噂自体も良くないって言うんだ。

 よく、怖い話をしていると霊が寄ってくる、って言うだろう?


 ラブホテルってのも、……怪談の舞台の定番だよな?

 どろどろした情念の掃き溜めって感じで。


 水辺ってのも良くない。

 綺麗な水がさらさら流れているような川ならいいんだけど、流れの弱い湖で、ちょうどそこ、湖の端っこで、その先は川になってて、

 ……湖って言っても高原の森の中じゃなくって、平地の、普通に周囲の住宅から生活排水が流れ込んでる池だからな、

 湖全体の色んな物が、流れてきて、ボトルネックで溜まっているみたいな、そんな所なんだ。


 そんな所にある、廃家電のみっしり詰まったゴミ小屋で……、

 電気、電気製品ってのも、霊と馴染みがいいんだって。


 そんな風に霊の集まりやすい条件が重なり過ぎで、


「ヤバイ」


 んだそうだ。



 で、心霊スポットってのはさ、霊にとっては静かに暮らしたい我が家みたいな物で、

 最初からそこに住んでいる者もいれば、他所から流れ着いた者もいて、

 そういう所にいるたいていの幽霊は、ひどい死に方をしたり、現世に強い恨みを持っていたり、でも、たいていは受け身なんだよな。

 ひどい死に方……殺されたり、

 強い恨みってのも、積極的に呪ってやろうってんじゃなくて、むしろ悪意ある人々から逃げてきた、悲痛な気持ちが強いんだろう。

 どっちも成仏出来ればいいんだろうけどね、やっぱり現世、自分の人生に対する負の思い、未練、後悔が強すぎて、離れられないんだろうね。

 そんな……まあ、ひどい言い方をすれば、負け組の幽霊たちが、それでも静かにひっそり暮らしたくて、しがみついてるのが、


 心霊スポット


 っていう、そういう霊にとっては「優しい場所」なんだろう。

 だから、

 生きてる人間が、現世っていう彼らからすれば外の世界から、ズケズケ入ってきて、面白半分で大騒ぎなんてすると、

 ものすごく怒るわけだよ。

 だから心霊スポットの怪談ってのは、そういう怖い話になっちゃうんだよ。


 と、言うのが、先輩の分析。

 霊感のある人間がそういう場所に近づかない方がいいって言うのは、

 仲間が来た、と思われて、あっちに引き込まれたり、

 本音では幽霊の苦しさから逃れたい霊に頼られて、取り憑かれたり、

 特にその場所に固執している大ボスみたいな強力な霊には、敵として攻撃されたり、

 しやすい、んだそうだ。



 いずれにしろ、生きた人間はそういう場所には近づかない方が無難だね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る