第4話 普通の幽霊と悪霊

 そうだな、幽霊な。


 マンガみたいに、ぺらぺらおしゃべりして、自由に行動している幽霊ってのは、

 いないんじゃないかなあ? 少なくとも俺は会ったことない。

 いるとすれば、そうとう特殊な例だと思うぜ?


 一番一般的なのが、

 よく言われる、自分が死んだことに気づいていない、ってタイプ。

 そういうのは本当に普通の姿をしていて、先輩が「幽霊って気づかない」ってのも分かるな。

 道路の「事故多発地帯」って所で、フルフェイスのヘルメットの下からダラダラ血を滴らせながら歩いてるライダースーツの幽霊にはビビったな。


 小説とかマンガで、同じ一日を延々とくり返す、っての、あるじゃない?

 ああいう感じじゃないかと思うんだよな。

 主人公たちも最初は自分たちが同じ時間をくり返しているって気がつかないで、同じことをくり返してるじゃない。

 でさ、なんかおかしいなあって、だんだん疑問に思ってきて、焦って、もがいて、また同じ時間をくり返して…………

 精神的に壊れていくんだよな。


 自分が死んでる事に気がつかない……ふりをしている幽霊、ってのをけっこう見たな。

 街中とかでそういうのを見つけると、周りの普通の生きている人たちと同じように振る舞っていながら、やっぱりどこかおかしい、途方に暮れたような、ひどく落ち込んだり、怯えたり、苛立ったような、そういうのが多いように感じたな。


 そういうのとはね、決して目を合わせないように気をつけなくちゃならない。


 うっかり目が合っちゃったら、慌てて目を逸らしたりしないで、視線を向こうに突き抜けさせて、こっちに寄ってきても、話しかけてきても、徹底的に無視。見えてない、聞こえてない、って態度を徹底するんだ。

 でないと、取り憑かれてしまうからな。

 徹底的に無視してると、諦めて元の場所へ戻っていく。

 中には諦めが悪くて、しつこく付いてくる奴もいるけれど、しばらくするとやっぱり付いてくるのをやめて、その場に立ち尽くしていたり、元の場所へ戻っていったりする。

 ……幽霊って言うのは、たいていは「場所」に憑いていて、行動範囲がだいたい決まっているみたいだな。

 思うに、生前の記憶のない場所には行けないんじゃないかな?

 幽霊ってのは、記憶の中にしか存在出来ないんじゃないかなあ?……


 ま、それは「普通の」幽霊の場合。

 特に誰に対して悪意を持っていない、ただ単に成仏出来ないでいる可哀想な幽霊の場合な。



 一方で、自覚的な、積極的な悪意を持った、「悪霊」って危険な奴もいる。


 こういうのは、半分人間である事をやめちゃって、鬼とか、化け物とかに近くなっちゃってるんだろうな。

 これが、貞子とか、伽倻子みたいな、おっかない幽霊だよ。


 一般の成仏出来ない霊が、生前の思い出のある「場所」に憑いてるのに対して、


 こいつらは、「人」に憑いてるんだよ。


 今現在、人に憑いてなくて「浮遊」していても、チャンスがあればすぐにも人に取り憑こうと、常に取り憑く相手を捜してるんだ。

 ああ、貞子は「井戸」、伽倻子は「家」か。

 あれは死んだ場所にそのまま居るだけで、別に「井戸」とか「家」に執着があるわけじゃないんじゃないか?

「ひどい死に方をした」、「殺された」、っていう事情に固執してるんで。

 それが現在の自分のアイデンティティの根っこになってるんだろう。


 ともかく、

 その目的は、取り憑いた相手を不幸にして、場合によっては死に至らしめる事だ。

 なんで?って言えば、そうしたいから、としか言えないな。

 人とか世の中に対する憎しみの固まりみたいなもんなんだろう。

 理解なんて、したくもないな。


 こういうのは絶対関わりになってはいけない。


 触れてしまったら、アウトだ。


 と言うわけで、そういう奴のいそうな所は先輩が避けてくれるんで、俺は遠くからちらっとしか見てない。


 でも、そこまでひどい「悪霊」でなくても、危険な霊はいて。


 いわゆる「心霊スポット」って所にいるのが、「場所」と「人」の間にいる、積極的な悪意があるわけじゃないんだけど、危険な霊たちなんだなあ。

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