第6話


「それで捕獲した追跡者は誰だか分かりましたか?」




夕刻、城下町にある建物の一つに入りながらその人物は虚空に向かって尋ねた




「はい。追跡者の名はクシナ クノ様でこの国の神官たちが召喚した異世界人の一人です。」




その人物の質問に答えた"声"は姿こそ見えないがその人物の近くにいるようである




「・・・なるほど異世界人ですか。それなら秘密の抜け道から出てきたのは姫様方の後を尾行してきたということですね。それにしてもなぜ尾行などしていたのでしょうか?」




その人物は独り言のように呟くと顎に手を持っていき考えるような仕草をする




「クシナ様が魔族側に寝返っていて姫様やリュウザキ様を暗殺する隙を伺っていたと考えるのはどうでしょうか?姫様はこの国の王位継承者ですし、リュウザキ様は神が選んだ『勇者』の称号を持つ者の一人です。魔族側にしたら邪魔者以外に他ありません。」




"声"はその人物に自分の意見を言ってみた。


しかしその人物は首を横に振った




「それは多分あり得ません。召喚者様は召喚されて以来全員監視されていますし怪しい行動をしていたら報告に挙がるでしょう。」




「では、彼は何故?」




「それは私にも分かりません。面白がって尾行していたか、私たちのように姫様の護衛を影ながらしていたのかもしれません。」




会って本人に聞いてみないと本当のことは分かりません。その人物はそう続けた




「クシナ様の持ち物には何か手掛かりになりそうなモノは入っていましたか?」




「こちらに、」




"声"がそう言うと部屋の隅に設置されていた机の上のランプが灯った


その人物は机に近づき物品を調べる




「小さい籠・・・これはヒラシゲ様が作っていた魔道具の一つですねぇ。


 クシナ様が依頼した物だったとは。後はペンと紙に財布ですか」




籠は籐の様な植物を編んでできたもので中のものは見えないようになっていた。


その人物が籠の蓋を開けようと試みたが開かない。どうにも見かけよりもかなり複雑な魔道具になっているようだ




「クシナ様は捕獲される前その紙とペンで何かを書こうとしていました。


 きっと魔族にリュウザキ様と姫様が城内にいないことを知らせようとしたんです。」




「もしくは兵士に姫様とリュウザキ様が無断で城内から抜け出したことを知らせるつもりだったのかもしれません。憶測だけで裏切者と判断してはいけませんよ。




 さて、見る物は見ましたし本人に会ってみましょうか。」




机の隣にあるドアを開けると狭い下り階段になっておりその人物はランプを持って下に向かった。






_____________________________




何かが起こるまで待とうと思って体感的に一時間程たった。流石に待つのにもしんどくなってきたから本格的に脱出の糸口を見つけようと思ったその時扉が開きそこからメイド服を着た女性が入ってきた。




・・・そう言えばこの世界のメイドさんの服はどっかの電気街で見かけるようなミニスカートではなくロングでフリルなどの装飾はない地味な服装で、二、三人の男子が「認めんぞぉ!!」とか意味の分からないことを言いながらミニスカートタイプのメイド服作ってたな。うん、今はどうでもいい






扉から入ってきたメイドさんも例にもれずロングスカートを着ている。歳は俺より少し上ぐらいか?若そうだけども・・・なんだかおばさんぐらいの年齢にも見える




「女性を前にそんなこと考えてはいけませんよ」




考えていることを読まれただと!?


コイツ、何者?




「顔に書いてありましたので・・・


 それよりもこちらへ、お茶の準備が整っています。」




そう言うとメイドさんは俺に扉から出るよう促してきた。




















扉の外にはこれまた窓のない一室ではあったが先程までいた部屋とは段違いで地面には茶色の何か高級そうな毛皮が使われた絨毯に覆われ、壁には趣味のいい皿や調度品が置かれたボードや落ち着いた雰囲気の絵が掛けられている。部屋の中央にはこれまた高そうな丸テーブルと椅子が一脚が置かれていた






「自己紹介が遅れましたね。私はプルト、トアル王国王室でメイド長を務めております。」




俺が椅子に座るなりメイドさん・・・プルトさんはそう言うとお茶の支度を始める


数分後、俺の目の前には高そうなカップに入った液体が置かれた。




液体と表現したのはこれがお茶かどうか少し心配だったからだ


色はダージリンの様な薄いオレンジ色をしており、香も何の植物を使ったか分からないがどことなく柑橘系の果物が入ったような匂いでおいしそうだ。


だが状況が状況である。ひょっとしたら毒や睡眠剤が入っていたらと思うと怖くて飲むことができない。




「どうしました?毒などは入っていませんよ?」






プルトさんは不思議そうに首を傾げている。




傾げたいのはこっちの方だよ!!

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