第5話 悪夢の目覚め

そこには、魔族達に囲まれた魔人の少年と、美しい黒髪の少女の姿があった。


「もう一度聞くけど、君はどこで誰と戦っていたんだい?」


 銀色の髪を頭の後ろで縛った吸血鬼の男が、ニヤニヤと嘲笑を浮かべながら少年に質問を投げかける。


「だから、俺はずっと【幻想の勇者ブレイブ】と戦ってたって、さっきからそう言ってんだろ?」


 少年の真剣な答えに、男は腹を抱えて笑い出す。


「君さぁ、寝言は寝ていいなよ? ね?」


 男につられ、周りの魔族達もクスクスと笑い出した。吸血鬼の男は、少年を見下すようにして尚も続ける。


「幻想の勇者はずっと戦場で指揮をとっていたんだよ?


 だいいちこの私でも敵わない相手に、君なんかが敵うはずないじゃないかい?

 ――分をわきまえたまえ、劣等種」


 ぶわっと、笑い声が一段と大きくなった。


『臆病者』『大嘘つき』『最弱の勇者』『劣等種』


 黒髪の少年の言葉を信じる者は、その場にいなかった。



 何かを叩く大きな音が聞こえ、俺はベッドから飛び跳ねるようにして目を覚ました。額には大粒の汗が浮いている。


「……なんだ。夢か」


 だが、何かを叩く音は止む気配がない。音の質からして、誰かが扉を叩く音だろう。


「ったく、うるせぇな……」


 右手の裾で額の汗を拭い、気持ちを入れ替えるため軽く深呼吸をする。

 ベッドから起き上がろうと身体にかぶさっている布をずらした時、隣の部屋からガタンと物音が聞こえ、数秒もしないうちにドアを勢い良く開ける音、そして階段をドタドタと走る音が聞こえてきた。


「はぁ!? 忘れてたぁ!?」


 突然の男の大声。何事かと思い、急いで部屋を出ると、下の階からフィーナの声が聞こえてきた。


「ほんとうにすいませんっ! すぐに支度するので、待っててください!」


 トタトタと階段を登る可愛い足音が近づいてくる。


「どうかしたのか?」


「えへへ、寝坊しちゃったみたいです……」


 フィーナは頭に手を当て軽く愛想笑いを作った後、俺の横を通り過ぎて自室に駆け込んでいった。


 その直後、玄関からドア越しに声が漏れてきて。


「――ったくよぉ! これだからあの"最弱"の妹はパーティーに入れたくねぇって言ったんだよっ!」


「いいんだよ、あいつ使えるから。せいぜいゴブリンのように働いてもらおうぜ?」


 あはははと耳障りな笑い声が聞こえてきた。きっと昨日フィーナが言っていたパーティーメンバー達だろう。


 寝起きの頭が冴えていくのを感じた。それと同時に、俺の中で昨日の怒りが込み上がってくる。


 気づくと、俺は玄関に向かって歩き始めていた。

 フィーナは身支度を整えているのでしばらくは部屋から出て来ないだろう。それに、フィーナの兄として、妹のパーティーメンバーに挨拶をしておくのが礼儀だよな?


 玄関まで来ると、フィーナが揃えてくれたのか、左横にきれいに揃えてある黒い革製のブーツを履き、玄関のドアノブに手を掛けた。

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