第22話『またまた来客』

『グラモン』を初めてから二週間ちょっと。とっくの昔に自覚したが、俺は『グラモン』のプレイセンスが大きく欠けている。

 初心者が下手なのは仕方ないとしよう。だがつい先日『グラモン』を始めた村田にさえ、笑われるほどのプレイヤースキル。


 今日の目標は、そんな俺をランク2に上げるというものだ。

 正直、ランク2の昇格クエストなんて小野寺一人で十分だが、さすがにそれではゲームとして楽しくない。俺は死なないように立ち回るしかない。


 昇格クエストといっても、最初から存在する訳では無い。いくつかの決められたクエストをクリアすることで出現するのだが、俺のクエスト一覧には表示されていない。つまりまだ挑戦すらできないということ。


「やる気がなくなってきたわ」


「なんでですか、阿澄くん! せっかくゲーム部のみんながいるんです、力を合わせましょ!」


「確かにな。正直小野寺だけでも勝てる。けど、それじゃあ俺の能力が一向に伸びないままだろ?」


 ゲームが上手くなるための努力はそれなりにしてるはずなんだけどな。

 ゲームは一日一時間まで、と妹に釘を刺している以上、俺が破るわけにはいかないので、必然と俺のプレイ時間も少なくなる。

 言い訳するならそのプレイ時間の少なさを抗議したい。


「大丈夫です、阿澄くん。い、いつかは上手くなりますから」


 目を逸らしながら言われるとすごく悲しいんだが。


 ――コンコン。


 再び誰かが部室の扉をノックした。

 また瑞斗たちかもしれない。扉のガラスは透明度がないため、誰が来たかは確認できない。


 人影は二つ。その影が瑞斗だと予想しつつ、俺は扉の元まで行き、開けた。


「なんだ。まだゲーム部に用、か……?」


「そうだね。ゲーム部に大事な用があってね。たまたま今日活動していると耳に入れたから来たんだよ」


「生徒会長……?」


 扉を開け、そこに立っていたのは生徒会長の島永澪。勉強はもちろん、運動だってできる完璧人間。顔立ちもよく、かなりモテると聞く。

 そんな生徒会長の後ろには副会長の姿もある。腰まで伸びた黒髪を後ろで結んでいる。両者共に生徒たちからの人気は高い。


 どちらも三年生で先輩だ。朝礼とかで生徒会長は毎回挨拶するため、名前と顔は知っていたものの、喋ったことすらない。


「少しお邪魔していいかな?」


「どうぞ。お茶とかは出せませんが」


 とりあえず二人を部室に招き入れた。

 小野寺たちもそれを無言で見守る。わざわざ生徒会長がゲーム部になんの用なのか。

 副会長が隣にいる時点で、生徒会絡みなのは明らかだろう。


「ありがとう」


 席を用意すると、生徒会長はお礼してから腰を下ろした。


「会長、早くしてください。マイペースも程々にしないと、腕折っちゃいますよ」


「急かさないでくれよ、紗奈くん。君が言うと説得力あって怖いんだ」


「どういう意味ですか、それ。返答次第では ――」


 一体何をしに来たのか予想ができない。雰囲気からして、急用ではなさそうだ。


「ゴホン。まぁ気を取り直して、いきなりだけど本題に入るね」


 副会長の言葉を遮り、本題に入ろうとする会長。横に座る副会長に殺意混じりの視線を向けられているが、会長は知らないフリをして話す。


「ゲーム部って普段ゲームをしてるんだよね?」


「はい、そうですね」


「それ、わざわざ部活作ってまでやる必要あるかな?」


 ご最もだ。『グラモン』に関してはやろうと思えば家でも協力プレイは可能だ。わざわざ休日にこうして集まる必要も無い。


「夏目先生からのお願いと聞いたから仕方なく許可を出したんだよ。でも蓋を開けてみたらこの有り様。別に馬鹿にしているわけじゃないけど、遊びたいだけなら勝手にやってくれないかな、と思ったんだ」


「会長、いつもの癖が出てます。もう少しオブラートに包んでください」


 小野寺の方を見ると、少し俯き気味になっていた。作りたいと言ったのは小野寺だ。会長にここまで言われて何も思わないはずもない。


 副会長は咳払いすると、会長の言葉を補足するようにもう一度説明した。


「つまりですね、わざわざこうして部室を借りてまでやる必要性を考えると、やはりゲーム部は」


 昨日本格的に始めた部活が、翌日に廃止されそうになっている。これはさすがに予想外だ。

 生徒会から部費は出ない上に、使っていない部室を使っているだけなのだから、正直支障はないはずだが。


「このままダラダラゲームを続けるのであれば、こちらとしても考えなければならない。とはいえ、最近ゲームの影響力は大きい。何かゲーム関連で功績を残せれば、少し考えてもいいんだけどね」


「その功績とやらはなんでもいいんですか? 例えば何かしらのゲーム大会に出て優勝、とか」


「簡単に出来ることではないからね。もし君たちゲーム部が出来たら僕たち生徒会としてもこの件は考え直す所存だよ」


「やります……」


 小野寺が小さく呟くように声を出した。

 さすがに部長としてこのまま廃部の一途を辿るのは嫌みたいだ。


「ぼ、僕もやりたいです。まだ始まって間もないのに、もう終わりなんて嫌です!」


「二人に賛成でござる。このチャンスを逃せば、葵様との接点が途切れてしまうでござるからな」


「二人とも!」


 最後のやつに関しては欲望だったけどな。

 まぁどちらにしろ、俺も賛成だ。


「てなわけです、生徒会長。まだめぼしいゲームの大会はないですが、近いうちにでも探して――」


「これはどうかな? 君たち知っているかい?」


 俺の言葉を遮り、会長はポケットから折り畳まれた紙を出した。

 書かれたゲームの内容は――


「FPS、ってやつですか……」


「開催は今からちょうど一ヶ月後。どうするのか、じっくりと考えるといいよ。もし優勝できなくても、一ヶ月はゲーム部として過ごせるんだから、参加しないわけにはいかないよね」


 生徒会長から紙を渡され、俺は思わず息を呑んだ。


「では私たちはこれで。健闘を祈りますね、ゲーム部の皆様」


 二人はすぐに部室から去っていった。

 小野寺たちは机の中心に置かれた紙を静かに眺めている。


 また大変なことになってしまった。

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