第17話『聖女様はみんなとゲームがしたい』
「本当に放っておいて大丈夫ですか? あとで怒られちゃいますよ?」
「あれは自業自得だ。気にしなくていい」
「そうですか……。よくわからないですが、阿澄くんがそう言うなら大丈夫ですね!」
教室への向う途中、小野寺が心配そうに言った。
一度足を止めたものの、俺の返答に渋々納得して、再び隣を歩き始めた。
瑞斗と小野寺は幼馴染だ。瑞斗がどういう人間なのかは、多分小野寺の方が知っていると思う。
「そういえば阿澄くん! 今日グラモン持ってきましたか!?」
「あぁ。ばっちりだ」
昨日、メッセージアプリ内でゲーム部のグループができた。
話したことといえば、今日の活動内容を決めたくらいだ。
その話し合いで決まったのが、グラモンだ。ゲーム機の持ち込みを『部室内だけでの使用』という条件で、夏目先生に許可を貰った。
「それにしても、今日は平和だな」
「毎日平和ですよー」
テスト当日ということもあり、みんな教室で勉強をしているようだ。
おかげで、殺気混じりの視線を感じることも無い。
もちろん小野寺は毎日色んな生徒から俺がそんな視線を向けられていることは知らない。俺の言葉の意味が理解できていないようだ。
平和な廊下を進み、俺たちは教室に着いた。
教室の後ろの扉から入り、全体を見渡す。黒板には今日の時間割が書かれている。
「みんなとゲーム! 放課後が楽しみですね、阿澄くん!」
「そうだな」
小野寺が笑顔で嬉しそうに言う。その様子に、こちらも無意識に笑みがこぼれてしまう。なんというか、例えるなら遊園地に連れていく前の自分の娘を見ている感じだ。
テストは全部で五教科。一教科五十分のテストのため、今日はほんの少し早めに部活ができる。
一先ず席に座り、俺も復習を始める。
基本、頭のいいやつは朝のうちにも勉強をしている。こういう時に怠らないからこそ、成績上位者は頭がいいのだ。
別に俺が今勉強しているからと言って頭がいいってわけではない。成績に関しては良くも悪くもなく、平均。
やりたいことも、思い描く夢もない。高校二年生の夏休み前だと言うのに、進学か就職かも決まっていない。
「小野寺はやりたいこととかあるのか?」
「? いきなりどうしたんですか?」
「いや、今ふと考えててな。将来のこと。そういえば俺やりたいことないなーって」
「ふむふむ、なるほどなるほど……」
小野寺は俺の返答に目を瞑り、深く何度か頷いた。そして、パッと閉じた目を開ける。
「人生相談なら私におまかせください!」
「お? いきなりどうした。今までそんなキャラじゃなかっただろ」
「キャラとはなんですか! 悩める子羊を導くのが私の運命……! さぁ、私になんでも言ってください、阿澄くん!」
本物の聖女みたいなことを言い始めたな。自分が裏で聖女と呼ばれていることを自覚した可能性も否めない。
「俺のことはどうでもいいから、小野寺の方はどうなんだ? 将来やりたいこととか」
「私はゲームが作りたいです。みんなが笑って楽しめるような!」
無邪気な笑顔を浮かべる小野寺。青い双眸の奥に灯る赤い炎が、その想いを強く肯定しているような気がする。
「そうか、小野寺もあるんだ。思い描く夢が」
俺も何かやりたいこと見つけようかな。
なんてことを、小野寺の言葉を聞いて思い始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
無事テストが終わり、放課後を迎えた。
テンションの高い小野寺に急かされ、俺たちは部室へとやって来た。
「おーっす。ってさすがに誰もいないか」
部室には俺と小野寺が一番乗りだったようで、殺風景な部屋だけが視界に入ってきた。
「青葉ちゃんと村田くん、遅いですね」
「俺達が早すぎるだけだ。それにそんな急ぐ必要ない。協力プレイなら、家に帰ってからでもできる」
「ゲームはみんなで集まってした方が楽しいに決まってます!」
そういうもんなのか?
高校生活は今まだ一人で本しか読んでこなかったから分からないが。
と、ちょうどその時、部室の扉が開かれた。
入ってきたのは村田と青葉だ。
部室前に鉢合わせたのか、二人同時に入ってきた。
「おー。おつかれおつかれ」
「部室で葵様と何をしてたでござるか、阿澄伊織! 返答次第で明日はないでござるよ」
「別に何もしてない。というか、俺たちもついさっき来たばっかだ」
村田の小野寺愛も毎日変わらないな。
そんな村田の横には笑顔の青葉が立っている。
「どうした、青葉。そんな笑顔のまま突っ立って」
「い、いえ! なんかすごく仲良いなって!」
「どこが」
「どこがでござるかぁ!」
俺の声と村田の声が被る。
「そういうところです」
と、冗談めかして青葉は笑う。
俺も村田も、その言葉に納得してしまい、押し黙る。
青葉と村田も、あらかじめ決まっていた自分の席に着くと、小野寺が手を叩いた。
「はい! みなさん集まったことなので、早速ゲームをしましょー!」
小野寺の前にはとっくにゲーム機が置かれており、準備は万端のようで。
「よし、やるか」
小野寺に促されるまま、俺達もカバンからゲーム機を取りだし、電源ボタンを押した。
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