第18話『部室に流れる不穏な空気』

「なんだ」


 隣からの視線が鬱陶しい。得意げな笑顔を浮かべ、こちらを見てくるのは小野寺教の村田だ。


 小野寺教というのは小野寺を崇拝している奴らの集団で、この学校の男子生徒の大半を占める。

 自分で言うのはあれだが、俺は結構小野寺とよく話す。そのせいで、小野寺教の奴らから目をつけられているのだ。



「阿澄伊織はゲームが『下手』でござるな。さっきからモンスターに吹き飛ばされてばっかでござるよ」


「いちいち『下手』を強調するな。お前に言われなくても分かってる」


 ゲーム部に入り、小野寺とゲームするためだけに、村田は俺たちが今やっている『グラモン』を買った。

 買ったのはつい先日らしいが、実力で言えば俺より上。こいつもゲームはあまり得意ではないらしいが。


「阿澄くん、村田くん、喧嘩は良くないです! ゲームは仲良くやるから楽しいのですよ!」


「葵様の言う通りでござる、阿澄伊織!」


 村田と話すとなんか疲れるな。まぁ俺のことが嫌いらしいから、絡みが面倒くさいのは仕方ないことだが。


 小野寺からの注意を受け、村田は一旦落ち着いた。ちょいちょい村田にゲーム内で回復を邪魔されるのは気のせいだろうか。


「青葉、回復薬をくれないか。誰かさんに邪魔されて手持ちが無くなった」


「阿澄伊織、言い訳はよくないでござるよ。モンスターに攻撃を受けすぎただけでござる」


 このゲームのシステム上、回復薬を使っている最中にモンスターなどによる攻撃で中断されると、回復できないまま個数が減らされるのだ。

 村田から邪魔されていたせいで、回復できないまま手持ちを使い切った。


「僕回復薬の素材沢山持ってきてるので大丈夫ですよ。これくらいでいいですか?」


「おお、助かる」


 青葉が使っている武器は弓だ。中距離から攻撃しているため、あまり攻撃を受けない。

 俺も中距離、遠距離の武器を使うか最初は悩んだのだが、やはり一番かっこいい大剣に落ち着いた。

 そのせいで死ぬ回数が格段と増えているが、それは練習あるのみだ。



 青葉から回復薬を受け取り、村田から隠れて回復する。

 なんか俺だけしてるゲームが違う気がする。


「小野寺先輩、なんでこの二人ってこんなに仲が悪いんですか?」


「私も分からないんです。でも喧嘩しているように見えて、案外仲良いんですよ、この二人」


 前に座る二人が耳打ちで何か話している。よく聞こえないが、多分俺達のことを話している気がする。

 理由は青葉がちらちら、こちらを見てきているからだ。

 大したこと話してないだろうから、聞く気もない。



「そういや、明日どうするんだ? 休日も学校に集まるのか?」


 明日は土曜日だ。基本部活は土曜日もやっている。部活によれば、土日どちらもやっていると聞く。


「それぞれの用事なども配慮して……。休日の活動は部員四人の予定が合う時でどうでしょうか! 前日にでも話し合いをして、集まれそうなら集まるという感じです!」


「僕はそれでいいと思います! 基本僕家では休日関係なくゲームしかしてないので、えへへ」


「拙者も葵様の提案に賛成でござる」


 特に俺も反対する理由もない。


「りょーかい。んじゃ、明日どうするか話し合うか」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日。土曜日。

 午後一時に集合し、午後五時に解散するという予定で、今日の活動は始まる。

 始まるとは言っても、まだ一時前で、部室には俺と小野寺と青葉しかいない。


 部室に男一人に、美少女二人。

 この光景、傍から見ればラノベでよくあるハーレムなんだけどな。


 なんとも言えない感情をため息として体外に放出する。

 深呼吸を挟み、気を取り直して俺はある物を机の上に置いた。


 小野寺が視線を落としそれを見ると、怪訝な表情を浮かべたまま次はこちらに視線を向けてきた。


「なんですか? これ」


「トランプ」


「それは見たら分かります! いきなりトランプなんて出してどうしたんですか?」


「村田が来るまで暇じゃないか? 少し簡単ゲームをしたいと思ってな」


 青葉も小野寺も、頭の上には『?』のマークが浮かんでいる。


「ゲーム部なんだから、ゲームするのは普通だろ? それに一概にゲームと言っても、機械を使うものばかりじゃ味気ないだろ?」


「阿澄先輩の言う通りですね! なら、TRPGとかもいつかしてみたいです!」


 TRPGは聞いたことはあるものの、どういったものなのかよく知らない。

 そういう未知のゲームも部活を通して知っていけたら楽しいと思う。



「言われてみればそうですね……私『グラモン』しか頭にありませんでした……っ」


 小野寺が悔しそうな表情を浮かべる。

 じゃあいっそ『グラモン部』でよかったんじゃないかって思う。まぁ許可が通るはずもないが。


 そんな冗談はさておき、小野寺も俺の意見には賛成の様子だ。


「今日トランプを使ってやるゲームは――」


 今日、俺がわざわざトランプを持ってきてまでやろうとしたゲームは、みんな知っているゲーム。その名も――


「そう。神経衰弱だ!」


 自分で言うのはあれだが、俺はこう見えて記憶力だけは大いに自信がある。

 グラモンのセンスはないが、こういう記憶力の試されるトランプゲームならまだ勝算が見える。

 というか、勝てる気しかしない!


「よし、やるぞ!」


「「…………」」


 あれ、なんか二人とも苦笑い浮かべて黙ってるんですが。

 もしかして神経衰弱が嫌いなのか。

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