第15話『後輩と二人でゲーム』
「おい、妹。人の部屋でぐうたらするな。俺は今から大事な用事が」
「お兄ちゃんに大事な用事……嘘はよくないよ、お兄ちゃん」
人の部屋のベッドで寝転がって、スマホゲームをする乃依。そんな乃依を睨みながら、俺はため息を挟んで答える。
「あのな、俺にだって大事な用事くらいできるんだ。それに最近色々と忙しくなったし」
「瑞斗さんと、何かあった?」
「なんであいつが絡むこと前提なんだ」
俺の返答に、乃依は怪訝な表情で小首を傾げた。
「部活に入ったんだよ」
「お兄ちゃんが部活。分かりやすい嘘……」
「ほんとだっての。ゲーム部っていう新しくできた部活だ」
「もしかして小野寺葵って人も、その部活にいるの?」
「あー、いるな。ていうか、小野寺が部活を作ったやつだ」
乃依はスマホから視線を俺へと向ける。
「お兄ちゃん、昔言ってた。俺の中で一番大事なのは乃依だよ、って」
「いや、別に今もそれは変わらんぞ」
なんか言った覚えのあるセリフだな。俺の記憶も曖昧だというのに、なんで乃依がそれを覚えてるんだ。
基本的に乃依は口数が少ない。毎回言葉足らずで、何が言いたいのか読み取るのに苦労する。
なんでも一言で済ませようとするのは癖なんだろうか。
早めに直しておかないと、好きな人ができたりした時大変だ。
乃依の場合は中高一貫の女子校なので、好きな人なんてあまり関係なかったりする。
「何が言いたいのか全く分からんのだが?」
「もういい。寝る」
「おい。寝るのはいいが自分の部屋で寝ろ」
「じゃあ連れてって。お兄ちゃんの大事な乃依からの、お・ね・が・い」
「せめて感情を込めろ」
仕方なく乃依を隣の部屋まで連れていく。
本人たっての希望で、お姫様だっこだ。別に俺がしてみたかったわけじゃない。
それにしても軽すぎるだろ。中学三年生の女子ってこんなもんなのか?
大した疲労感もなく、乃依を隣の部屋に運び、自室へ戻ってきた。
今日はやけにわがままだ。乃依こそ何かあったんじゃないかと不安になる。
時計を確認しようと視線を上げた時、机の上に置いてあるスマホからメッセージの通知音が鳴った。
相手は青葉いつきだ。名前のところには『ituki』と書かれている。
『阿澄先輩! グラモンしましょう!』
もちろんこの時間に、青葉から連絡が来ることは分かっていた。
というか、これが俺の大事な用事である。
小野寺曰く、明日から本格的に部活を始めるらしい。つまりゲームをするということだ。
だが、俺も青葉も初心者。俺に至っては、グラモンが初めて遊ぶゲームだ。
初心者とは言え、小野寺の前でいつまでも醜態を晒すわけにもいかないので、基本的な操作だけでも青葉に教えてもらうことにしたのだ。
一応村田も誘ったのだが、断られた。
『拙者の初めては葵様でござる!』とか言ってた気がするが、忘れた。
『とりあえず通話するか』
『はい! 通話の方が教えやすいですしね!』
そんなやり取りをした数秒後、青葉から電話が来た。
「あー、もしもし?」
「阿澄先輩、今日はよろしくお願いいたします!」
「ゲームするだけだぞ。そんな畏まる必要ないだろ」
「えへへ、そうですね」
声では性別が判断できない。男にも聞こえるし、女にも聞こえる感じ。
青葉は果たして声変わりしているのだろうか?
「まず簡単なクエストに行ってみます?」
「そうだな」
「星一クエストの最上位行きましょ!」
「おう」
青葉が集会所に入ってきた。これで協力プレイの準備は完了だ。
近くにいる人としかできないかと思っていたが、こうやって離れていてもできるということを今日青葉から聞いて知った。
とりあえず星一クエストに出発した。星は多いほど難しい。
星は一から八まであり、星一は一番難易度の低いクエストというわけだ。
十五分くらいでクエストは終わった。一応一人でもクリアしていたクエストだったので、どうにかゲームオーバーにならずには済んだ。
「阿澄先輩、ほんとにやり始めて二週間ですか……?」
これが初めて俺と協力プレイした人の感想らしい。
もちろんこれは悪い意味だろう。
「まぁ、そうだな。これで二週間だ」
「なんで抜刀せずに敵に突撃してるんですか!」
いや、これに関しては言い訳させて欲しい。
俺は大剣と武器を使っているのだが、この武器は他の武器と比べて抜刀と納刀の切り替える時間が長い。
抜刀したつもりでモンスターに突撃しても、逆に納刀していたりなど。そんな操作ミスが多々ある。
「この武器、初心者向けだと聞いたんだが……」
操作方法以前の問題かもしれないが、まぁゲームも所詮は慣れだ。場数を踏めば、俺だっていつかは小野寺や瑞斗みたいに上手くなれる。……はず。
「先輩、星二クエストって一人で勝てます…?」
「いや、無理」
「なるほど。じゃあとりあえず星一クエストで練習しましょうか」
後輩にゲームで気を遣われる日が来ようとは……。
でもまぁ、なんかこういうのも楽しい。
結局そのあと何時間も青葉とゲームをした。というか、なんでこんなゲームのセンスがない俺と一緒にずっとゲームをしてくれるのだろう。
青葉はもしかしたら女神なのかもしれない。男らしいけど。
気付けば十二時前だった。もう少しで日付が変わる。そろそろ終わるとするか。
「阿澄先輩! そこです! トドメです!」
電話の先で楽しそうにしている青葉。本当にゲームが好きなんだなぁ、と思う。
俺の目は狂っていなかったようだな。
「待て! やめろっ、死ぬっ――」
星一クエストのモンスターに、逆にトドメを刺されてしまった。
また納刀しながら突撃……。
「阿澄先輩……」
「それ以上は言わないでくれ……」
これからの課題はこの操作だな。
「そろそろ終わるか。疲れたしな」
「はい! 後半死にまくってましたもんね、阿澄先輩」
「言うな……」
青葉も後半は俺が死ぬ度に楽しそうに笑っていた。
最終的には星三クエスト連れていかれて、雑魚モンスターにも殺される始末だったが。
やはり、この状態は小野寺に見せられない。
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさいです!」
俺は通話を切った。
やはりゲームは難しいな……。
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