第14話『聖女様は自己紹介がしたい』


 途中参加で一年生も加わったため、掃除は予想していたよりもほんの少し早めに終わった。

 六時まで三十分くらいある。まぁ早く切り上げるってのもありだが、折角の第一回目の部活動ということもあり、もう少し何かしたい。

 部活動と言っても、まだ部室の掃除しかしていないが。


 そんな時、珍しく小野寺があることを提案した。



「部員が集まったということなので、まず自己紹介といきましょう! ね、阿澄くん!」


 いきなり振られても困るんだが。

 小野寺のその提案は確かに良い。後輩の名前はついさっき知ったが、後輩からすれば俺たちの名前は知らないだろう。

 もちろん小野寺だけは別だが。


 まぁせっかくだし、自己紹介をするか。掃除して終わるよりは部活らしいとは思う。



「小野寺の言う通りだな。一年生もいるし、名前だけでも覚えてもらいたいな」


「葵様の言う通りでござるよ!」


 俺の言葉に続き、村田も大きく頷いて、小野寺の提案を賛成を示した。


「んじゃあ、まぁ最初は部長の小野寺から自己紹介を頼む」


 指名されて驚いたのか、小野寺の座る椅子が小さく揺れた。

 そして間もなくして、小野寺は立ち上がった。


 掃除の際に開けた窓から入り込んだ風が、小野寺の髪を揺らし、差し込む太陽が髪を銀色に照らす。


 なんだろうか、たまにぼーっとしてしまうことが最近よくあるな。


 そんなことはどうでもよくて。

 小野寺はぼーっとしていた俺の方を怪訝な表情で一瞥し、大丈夫そうだと判断したのか自己紹介を開始した。


「あ、一番最初は私ですか……コホン。小野寺葵と言います! 趣味はゲームで、最近はライトノベルというものを読んでます! これからよろしくお願いします!」


 三人は拍手する。村田だけ力加減を間違えているのは無視しよう。音が無駄にうるさい。


 次は副部長である俺の番だ。


「あー、俺は阿澄伊織だ。趣味は読書で、特技は大してないな。ちなみに、ゲームはグラモンしか知らない。よろしく頼む」


「僕もグラモンやってます! ランクはまだ2ですんごく弱いですが……」


「俺は二週間やってランク1だ。気にするな」


 隣に座る村田が気まずそうに俺の耳元に寄ってくる。


「かっこついてないでござるよ……」


 わざわざ耳打ちで言ってこなくても自覚してるわ。


「次は誰だ?」


「あ、じゃあ僕が! 青葉いつきです! みなさんと同じで、趣味はゲームです! 年下ですが仲良くしてもらえたら嬉しいです!」


「もちろんだよ! 青葉ちゃん!」


「ありがとうございます! 小野寺先輩!」


 一年生にしてはしっかりしてるよなぁ。

 小野寺に関しては青葉に『先輩』と呼ばれただけで、満面の笑みだ。まぁ可愛い後輩に先輩って呼ばれたら嬉しいよな。

 よくあるラノベのラブコメ展開だ。今回に関しては、その可愛い後輩とやらが男子だが。


「よし、最後は村田だ」


「最後は拙者でござるな。拙者の名前は村田――」


 ――コンコン。

 と、部室の扉をノックする音が、村田の会話を遮った。


「またでござるか!? なんでいつもこんなタイミングよく邪魔が入るでござるかぁ!」


「まぁ落ち着け。確認が終わったら、自己紹介の続きを再開してやるから」


「わかったでござるよ。それで? 誰でござるか?」


 俺は席を立ち、扉をノックした人が誰なのか確認しに行く。

 小野寺たちは後ろで怪訝な視線を扉に送っていた。


「はーい。って、夏目先生か」


「ひっ! へ、変な声を出してしまってごめんなさい、いきなり出てきたものだから……」


「は、はぁ。それで? どうしたんですか? もうすぐ部活は終わりますけど」


「別に大事な用事ってわけじゃないのよ? こ、顧問として部活内容を見たいなぁって思っただけで」


 とは言っても、本当にもうちょっとで終わりなんだけどな。


「あ、夏目先生!」


「葵ちゃん!」


 小野寺は夏目先生に今気付いたのか、嬉しそうに声をあげた。

 毎日会ってるし、つい数時間前も顔を合わせてただろう……。

 そして男子である俺との会話の温度差。俺の場合、出会い頭の第一声が「ひっ!」だったからな。


「そうだ、夏目先生! 一年生もいることですし、夏目先生も自己紹介しておきますか!」


「そうね。そうさせてもらうとするね。ゲーム部顧問の夏目あかりです」


 夏目先生は綺麗に九十度、腰を曲げた。完璧とも言えるお辞儀を披露し、夏目先生は顔を上げる。

 そして、さらに言葉を続けた。


「まだ正式名称はゲーム同好会だけど、これから部に昇格できるといいですね。先生も応援してます!」


 夏目先生の自己紹介が終わり、時刻はちょうど六時になった。

 一先ず、第一回目の部活動は終了だ。


 部屋は見違えるように綺麗になったし、それなりにくつろげるような空間になったんではないだろうか。図書室が隣ということもあり、完全に俺得ではあるが。


 なんか忘れている気がするが、とりあえず部活動は終わったことだし、忘れ物だけ注意して帰り支度を済ませるとするか。

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