第13話『聖女様は部室の掃除を励む』
俺は今、一人で図書室に向かっていた。
先程、新入部員になる男子生徒のため、一年の校舎に行ったのだが、その生徒は少し前に帰ってしまっていたらしく、会えなかった。
とりあえず、明日の放課後に部室に来ることは伝えるように、クラスメイトの他の子に伝えておいた。
嫌だが村田にも、明日来るように伝えないとな。明日言うか。
どうせあいつ、予定なんて入ってないだろ。
なんやかんやしているうちに、図書室についた。
静かだ。先に来ていると思っていたが、小野寺はもう帰ったのだろうか。
正直どっちでもいいけどな、なんて思いつつ、図書室の扉を開けた。
「――すぅすぅ……」
寝息?
いつも座っている席に向かうと、そこには小野寺の眠っている姿があった。
机に読みかけの本が置かれている。
「あ。阿澄くん来てたんですね……おはようございます……」
気持ちよさそうに寝ていたのに起こしてしまった。
欲を言うと、小野寺の寝顔を見てみたかったり。
顔を逆側に向けてたので見えなかった。
「あぁ、悪い。起こしたか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
小野寺は眠たそうに上体を起こすと、小さく伸びをする。
そして思い出したかのように、突然問いかけてきた。
「そういえば、図書室に来る前、どこに行ってたんですか?」
「新入部員に会いに行ってた」
「えぇ! なんで言ってくれなかったんですか! 私が部長なのに!」
「まぁ俺も会えなかったから。それと明日から部室を使えるらしいしな、部長さん」
『部長』と呼ばれてうれしかったのか、小野寺は得意げにいつもより大きく頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日。時間は放課後。
最初に部室に足を踏み入れたのは、もちろん小野寺だった。
二番目に俺、そしてその後ろに村田がいる。
「これが拙者たちの部室でござるか!」
四人にしては十分に広い。真ん中に机をおけば、部室らしくなるに違いない。
ゲームをすると言っても、やるゲームによって必要な機器が変わる。
中にはテレビを使うゲーム機だって存在するわけだし、いつかはこの部室にテレビも置かないといけない。
そういうのは追々考えるとして、まずはこの部屋の掃除をしなければならない。
時間を確認する。使われていない教室といえど、さすがに時計は動いていた。
現在の時刻は四時。六時を目処に終わらせるか。
「よし、とりあえず掃除だな」
「阿澄伊織! 葵様に掃除させる気でござるか!」
「いや、俺らもやるけどな?」
「阿澄伊織は何もわかっていないでござるな」
「あぁあああああ、この罪深き拙者の行為をお許しあれぇ!」と言って、小野寺からほうきを回収する村田。
こいつの好きな小野寺が、若干引き気味にお前のこと見てるぞ。
演技に集中しているせいか、その視線に気付かないようだ。
「葵様、こういう雑用は拙者か阿澄伊織にお任せするでござる。掃除が終わるまで図書室の待機を求めるでござる」
「え、大丈夫です……」
ガチで引いてるっぽいな。
村田、責めすぎだろ。掃除を変わるなんてアピールをして何になるんだ。
「しょうもないことしてないで、さっさと始めるぞ村田。ほうきを小野寺に返せ」
「おのれ、阿澄伊織! 葵様に様付けするでござる!」
「阿澄くん、私は棚の掃除をしますね!」
村田の発言を見事にスルーし、小野寺はそう言って水で濡れた雑巾を持った。
多分小野寺は無意識だろうけど、スルーされた村田の顔が最高に面白いのでつい笑ってしまった。
「何を笑ってるでござるか?」
「今んところ、すごろくで言うところのマイナスばっかりだぞ村田」
お互い、小野寺に聞こえない程度の音量で会話する。
そのあと一時間くらい、小野寺との会話も交えながら掃除を続けた。
「てか、いいのか?」
俺は小さな声で塵取りを構える村田に問いかけた。
「お前、これ小野寺教の中でもかなりの抜け駆けだぞ? 他の奴らに怒られたりとか」
「他のやつらには潜入調査と言ってあるでござる」
「それで納得したのか、他の奴らは……」
まぁ大丈夫そうならよかった。
小野寺教の中でもゴリゴリでムキムキな、如何にもやばそうなやつだっているからな。
極力そういうやつとは関わりたくない。実際村田とも関わりたくないのに。
「そういえば阿澄くん、一年生の子が来ませんね?」
「そういえばそうだな。伝え忘れとかかもしれないな」
さすがに一時間経っても来ないということは、多分帰っていると思う。
昨日だって、終礼を終えてすぐに一年のところに向かったのに帰っていたからな。
「明日昼休みにでも行ってみるか。小野寺も来るか?」
「はい!」
「では拙者も!」
「いや、村田まで来たら圧力がすごいだろ。お前は来るな」
村田から殺意に満ちた視線を無視し、俺たちは掃除を再開させる。
ラストスパートに入った時、部室の扉が開いた。
「お、遅くなってすみません!」
「えっと……」
ゲーム部の部室に来たのは、可愛い顔立ちをした女子だった。
なんとなく違和感を覚えたが、とりあえずどういう状況なのかが理解できない。
女子なんて呼んでいないはずだ。
「青葉いつき、です! 男です! 今日からよろしくお願いしまイテッ!」
頭を下げる勢いが強すぎたのか、青葉はバランスを崩し、そのまま部屋の扉に頭をぶつけた。
俺の違和感は少女、否、少年の制服から感じたものだった。
可愛い女の子が男の制服を着ているのだ。実際には男らしいが、見た目も声も、さらに言えば仕草さえ、完全に女の子のそれだ。
髪型はミディアムショートで、身長はパッと見、小野寺と同じくらいか。
俺と村田は困惑を隠せなかったが、その場にいたもう一人はこの状況をすんなり受け入れていた。
「青葉ちゃん! よろしくー!」
自己紹介でも性別を強調していたんだから、せめて『くん付け』にしてやってやれよ……とは思いつつ、今でもこの子が男だということを、俺の頭は理解できていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます