第12話『聖女様の知らない間に』

 翌朝。

 学校に着くと、夏目先生に呼び出された。

 用件は予想していた通り、ゲーム同好会についてだ。


 渡されたゲーム同好会と書かれた入部届けの山。

 募集をしたのが昨日。その翌日の朝でこの量は、正直予想外だ。

 とはいえ、副部長の俺に入部届けを先に渡してほしいと、事前に夏目先生に言っておいてよかった。

 これだけの数の入部届けを小野寺が見たら、全員採用しそうだからな。


 ま、生憎そういうわけにはいかないので、これらは俺が一通り目を通し、独断と偏見で採用不採用を決める。

 この中のほとんど小野寺とあわよくば、という気持ちで入部を希望しているに違いない。


「どれどれ……?」


 入部届けにはいくつかの項目がある。

 まず入部したい部活の名前だ。その次に部活に入りたい生徒の名前。

 その他にも特技や簡単な自己紹介も書かれている。


 名前から見るに、ほとんど男だ。小野寺の人気は男女両方にあるが、一応部活内容はゲームなので女子は比較的に少ない。


 俺は自分の席に座り、隣に小野寺がいないことを確認する。いないな、よし。

 俺は自分の机に入部届けの山を置き、それ見て静かにため息を吐いた。


 全員採用をした方がいいのだろうが、あくまでゲーム部だからな。とりあえず入って、消えていきそうなやつも極力避けたい。

 この点に関しては、俺の判断では難しいところだ。


 よくを言えば、面接のようなものを行いたいが、そんなことをしたら『お前何様だよ? あぁ?』とか言われかねないの、ここは我慢する。

 それに、面接なんかすれば小野寺に分別しているのがバレるからな。今は文面から判断するしか方法はない。


 とりあえず、ペラペラと全部に目を通す。


「一年もいるのか」


 名前の横に学年が書いてある。

 特技、ゲーム……。ほう。

 

「名前は青葉いつき、か」


 名前を書く欄の一番右。性別は男の方にマルがしてある。

 自己紹介欄には可愛らしい文字で結構長々と文が書かれている。


『僕は毎日ゲームをしています! 最近はグラモンというゲームをずっとやってます! すごく下手なので、ゲーム部に入って上手くなれたらなぁって思ってます!』


 よし、採用だ。まぁ顔を見てないから分からないが、放課後にでも一年の教室に寄ってみるのもいいな。

 開始二分で一人目の合格者だ。この調子でいい感じの部員をいい感じに増やしたら、小野寺もいい感じに喜んでくれるはず。


「――阿澄伊織! 聞きたいことがあるでござるよぉっ!」


 その声は、突然教室に響き渡った。聞き覚えのある語尾に、俺は一瞬でその人物が誰か理解してしまった。

 教室の後ろの扉の方に目をやると、そこにいたの隣のクラスの村田だ。


「くそ面倒くさいやつが来た……」


 村田は小野寺教の一人だ。

 そしてこの間、小野寺と一緒に買い物をしているところを運悪くこいつに見られた。

 理由は分からないが、何故か突然退散してくれたのが不幸中の幸いだった。


「はぁ、なに?」


「見たでござるぞ! 阿澄伊織!」


「朝から教室で騒いでどうしたんですか? 村田さん。……あ、阿澄くん。おはようございます」


「あっ、あああああああああ葵様ぁああああああ!?!?」


 あが多すぎる。そこまで驚くことはないだろ。

 小野寺だって朝は登校してくるんだぞ。


「部活のことで少し聞きたいことがあるでござるよ、阿澄伊織」


「はいはい」


 入部届けの山を机の引き出しに入れ、俺は村田の方へと向かった。

 ついでに小野寺に挨拶を返す。




「で、なんの用だ?」


 場所は同階、男子トイレ。俺たちの他には誰もいない。

 神妙な面持ちで、村田は言う。


「拙者をゲーム部に入れるでござる。小野寺教却下と小さく書かれていたので、直談判しにきたでござるよ」


 結構小さく書いたんだけどな。見えたんだな、と感心する。


「無理って言ったら?」


「土曜日の件を、他の小野寺教に伝えるでござる。敵が一気に増えるでござるなぁ」


「ちっ。なんとなく分かってたが、ここまで卑怯なやつだったとは」


「卑怯とはなんでござるかぁ! 葵様と二人で遊んでいる阿澄伊織に言われたくないでござるよ!」


 うるさい。多分こいつの声、廊下まで聞こえてる。

 何はともあれ、こうなってしまった以上、こいつをゲーム部に入れる他ないな。仕方がない……。


「村田……名前分かんねぇや。採用だ」


「拙者の名前は村田――」


 と、ちょうど朝の予鈴が鳴った。

 一応こいつにも確認しておくか。小野寺目当てなのは目に見えてるが。


「脅されて、強制的にゲーム部に入部することを許可してやったが、お前ゲーム好きなのか?」


「いや、やったことないでござる。でもアニメは好きでござるよ!」


「はい、退部な」


「なっ! 待つでござるよ、阿澄伊織っ!」


 朝のうちに村田と青葉いつきの二人を採用した。

 そのあとも追加で来る入部届けを見たが、ほとんどのやつが小野寺目当てだということは、文面からすぐに分かった。


 その謎の仕事は放課後まで続いた。

 結局、今日の一日で採用したのは村田と青葉いつきの二人だけだった。初日ということもあり、こんなもんだと思う。

 夏目先生も『男だらけの部活だと小野寺さんが可哀想だから』という理由で、数多くの不採用を許可してくれた。


 まぁ一先ずは、同好会として認められる人数には達したのでよしとする。

 今から一年生の教室に一人で行き、青葉いつきを見に行く。そのあとはゆっくりと図書室で本を読む。

 静かで落ち着いた時間を図書室で過ごせるのは、多分今日で終わりな気がするしな。

 最後のひとときを楽しむとするか。

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