第二章:ロリ聖女は部活を夢見る
第10話『聖女様は部活がしたい』
ちょうど二週間後。夏休みが始まる。
そのせいか、昼休みの教室がいつもより騒々しい。
まぁその実、俺も楽しみにしていたりする。カレンダーを何度見ても予定なんてものは見当たらないが、俺には大好きな本がある。
今年も去年のように、ゆっくりと長期休暇を謳歌したい。
今朝まではそう思っていた。
「阿澄くん、私決めました」
「お、おう? いきなりどうした?」
「私、部活をしたいと思います!」
どういう風の吹き回しだ。
藪から棒にそう言ってきた小野寺の目は物凄く輝いている。
「別にそれはいいと思うが、何の部活に入りたいんだ? 正直この時期に部活に入るのはあんまりおすすめしないぞ」
「入るんじゃないですよ。私が作るんです!」
「いや、どういう理由でその結論に至ったかは知らないが、そんな簡単に作れるもんなのか? 部員の数がどうとか、顧問がどうとか。色々面倒なんじゃ」
まぁ小野寺が部活を作ると知れば、部員なんて一瞬で集まる気がする。顧問に関しては怪しいが。
まぁ俺には関係ないが、どうしても作りたいというのなら、手伝ってやってもいい気がする。小野寺が俺の手を必要としているかは不明だが。
「そこらへんは大丈夫です! 夏目先生に聞いたら、夏休みの一週間前までに部員さえ集まれば、夏休みにはちゃんと部活動できるみたいです!」
「顧問ってもしかして……」
「はい! 夏目先生が承諾してくださいました! あとは部員だけですが……」
部活なんてそんな簡単に作っていいものなのか……。
夏目先生というのは俺がいる三組の担任をしている女性の教師だ。教師だというのに、男の人が少し苦手という、教師として致命的な欠点が存在する。
基本的にぼーっとしていて何を考えているのか分からないが、生徒からの評判はかなりよく、たまに生徒からの声に可愛らしい反応を見せる。それもあってか、男女ともにトップレベルに人気の高い先生だ。
「他に二人、入ってくれる人いないですかね……」
…………ん?
確か部活って、小野寺含めて最低四人、部員を集めないとダメなんだよな。
「あと三人じゃないか? 部員って小野寺さんを含めて最低四人は必要なんだろ?」
「はい、そうですよ。私と阿澄くんです。瑞斗くんはサッカー部に所属してるのでダメみたいですが」
この学校、兼部はダメらしいしな。
って、なんで俺が入ってるんだ。まだどういう部活かも聞いてないぞ。
「すまん。まだどういう部活なのか、聞いてないんだが」
「あ、言ってませんでしたね! ゲーム部です!」
「えっと、聞き間違いじゃなければ、ゲーム部って……」
「阿澄くんの聞き間違いじゃありません! ゲーム部です!」
「あはは、そうだよな。ゲーム部……」
なんでゲーム部なんて許可してるんだ、あの教師……!
教師というか、部活作るには校長の許可だって必要なはずだぞ。
俺が少し渋い顔をすると、小野寺は怪訝な顔で訊いてくる。
「阿澄くん的には、あんまりでしたか? ゲーム部」
いや。正直、内心では楽しそうだと思った。
学校で他の部員とゲーム。しかも部員が四人いれば、ちょうど協力プレイだってできる。
「具体的の何をするんだ? 俺グラモンくらいしか知らないんだけど」
「グラモン以外にもたくさんのゲームを部活内で共有したりしたいです! もちろんグラモンも一緒にしましょっ!」
割としっかり考えているようだ……。
まぁ超が付くほどのゲーム好きである小野寺がここまで言うんだ。せっかくだし俺もやろうかな。
どうせ、募集かければ今日には部員が集まるだろう。入部条件を厳しくしないと人数がすごいことになりそうだ。それほど小野寺の人気は高い。
「まぁせっかくのお誘いだしな。俺も部活に入るとするよ」
正直、冷房の効いた部屋でゲームは苦じゃないからな。
サッカー部に入れとかなら即刻拒否するが。
「ありがとうございます! じゃあ明日から一緒に部員集めしましょう!」
「おう。そういえば、部室とかもらえるのか?」
「はい! 図書室の横の空き教室を使わせてもらえるみたいです」
ほう。それは完全に俺得だな。
とはいえ、小野寺には小野寺教がいるからな。もし小野寺教なんかが部活に入ってきたら、俺は生きていけるだろうか。というか、小野寺教が入らないわけがないよな。
部員募集ポスターの端っこに小さな文字で、『小野寺教拒否』とでも書いといてやるか。
まぁどちらにしろ、平和に部活動、と言い難い状況に陥る気がするんだが。
◇ ◇ ◇ ◇
唐突に決まった部活動の入部。
それも、入るのは小野寺の作るゲーム部。
もちろん今日決めたことなので部員はまだいないが、顧問はいるし、活動部屋もある。小野寺の人気を見るに、部員はどうせすぐ集まるので、現段階で部活はほとんど完成したようなものだ。
小野寺は事前に三組の担任教師――夏目先生に部活を作るに関して色々相談していたようだが。
部活というより、どちらかといえば同好会という呼び方の方が正しい。
なので、ゲーム部改め――ゲーム同好会。
「てなわけで俺、ゲーム同好会に入ることになった」
「満更でもなさそうだな、伊織」
「まぁな。少なくとも、体力的にしんどそうじゃないからな。お前もサッカー部から移籍するなら今のうちだぞ」
「遠慮しておく」
俺の冗談に、瑞斗は笑いながら答えた。
と、それを言い終えたと同時に予鈴がなった。昼休みがあと十分で終わるということを意味しているそれを聞き、俺は箸を動かすスピードを上げた。
「遅い」
「仕方ないだろ。お前の質問攻めするから」
「いやぁー、最近葵と伊織がどんな感じなのか、気になって夜十時しか眠れないんだよ」
「健康体じゃねーか」
何笑ってやがる、こいつ。
「そういうお前こそどうなんだ? 部活ばっかで彼女と話してんのか?」
「もちろん。俺は部活より彼女の方が大事だからな。ついこの間デートしたばっか」
堂々と言えるのがいいよな。
俺は彼女ができたことないので分からないです。はい。
「まぁとりあえず、お前の周りで部活やっていなくて、ゲームが好きそうなやつが一人でもいたらまた言ってくれ」
「おー、了解だ。今のうちに葵と二人っきりを堪能しておけ」
何が二人っきりだ。他人事だと思ってなんでもかんでも好きに言いやがる。
こちとら、小野寺教に目をつけられないように必死だってのに。
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