幕間・下『小野寺白葉は密かに再戦を望む』

 私は村田を使って、あの二人に接触することにした。

 今は村田を加えた三人でお姉ちゃんたちを尾行している。

 人が多すぎて、二人の後ろをついて行かないと見失ってしまうため、こうして隠れながら作戦を立てている。


「おのれぇ、阿澄伊織! 葵様と土曜日に堂々とデートとは! 極刑に値するでござるぞ!!」


 今の状況を村田に説明した。

 村田は小野寺教の一人。阿澄伊織とお姉ちゃんが付き合うことに対して、見過ごすわけにはいかないはず。


「いい? 村田。接触する時は感情を抑えて、さりげなく声をかけるのよ」


「わかったでござる。それと先程から気になっておったのだが、白葉様の隣にいた黒髪ちゃんはどこに行ったのでござるか? 見当たらないでござるよ」


 ござるござる、うるさ! なんか腹立ってきた!

 まぁ協力してもらってるんだし、ここは一先ず我慢よね。


 というか、村田の言った通り、乃依が見当たらない。

 私たちが見つけるより先に、乃依があの二人に見つかったらまずいわ。


「村田! 先に乃依を見つけるわよ!」


「でもあの二人を監視しないと!」


 私たちの視線の先に二人はいる。


 お姉ちゃんたちは今、施設内にあるゲームセンターでUFOキャッチャーをしている。

 多分すぐにはあの場から動かないはず。今のうちに乃依を……。


「って、村田! あそこ!」


「あれは! 黒髪ちゃんでござるか!」


 お姉ちゃんたちが遊んでいるUFOキャッチャーの反対側の台に、乃依の姿があった。

 もしかすると、我慢できずに自ら接触をしようとしているのか。


「村田、バレないように乃依をここに連れ戻してきてちょうだい」


「む、難しいことを言うでござるな……」


「応援してる。挙動不審な動きをしたら、誘拐犯に見えるから気を付けてね?」


「さりげなく容姿をディスられた気がするでござるが、とりあえず行ってくるでござるよ!」


 ゲームセンターに背を向け、近くのベンチに座る。

 あ、そうだ。変装するの忘れてたわ。

 

 家から持参したマスクをつけて、パパから借りてきたサングラスもかけてっと。帽子も被って……よし、完璧な変装ね! これでもうバレることはないわね。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ふぅ。行くでござるよ……」


 阿澄伊織と葵様にバレないようにゲームセンターに侵入できたでござるが、二人と黒髪ちゃんの距離が近過ぎて危険でござるなぁ。

 だが、ここは拙者の奥儀を使って……。


「――気配消し!」


 よし、バレずに黒髪ちゃんの横に来れたでござる。

 次は二人にバレないように声をかけるでござるよ……。



「く、黒髪ちゃん! 早く白葉様のところに戻るでござるよー!」


「…………」


 聞こえていないでござるか。

 無表情でUFOキャッチャーをしているでござる……。


 あれは最近最新作が出たと噂の『グラモン』のマスコットキャラクター、猫太郎のぬいぐるみでござるか?


「黒髪ちゃんー!」


「ん、変な人?」


「へ、変な人!? まぁ気付いてくれてよかったでござる。早く白葉様のところに五区でござる」


「やだ、これが欲しい。取れるまで動かない」


「なっ! ……わかったでござる、取ってあげるでござるよ」


 こう見えても拙者の特技はUFOキャッチャー。

 どんなものも一発で取れるでござる。


 コインを入れる。

 ボタンで調整する。横から覗くと二人に存在がバレるでござる。

 長年の勘を頼りする時が来たでござる。


 ――ふぅ、一発で取れたでござる。


「あ、やったー。ありがと、変な人」


「拙者は変な人ではなく、村田――」


「景品おーめでとうございまーす!」


 店員がいきなり拙者たちの隣で叫んだ。

 その声に周りの視線がこちらに集まる。もちろん反対側の台でUFOキャッチャーをしている葵様たちも横からこちらを覗いている。


「やっ、やめるでござるよ!」


「あ、お前確か瑞斗と同じクラスのやつだよな」


 やばいでござる!

 バレたでござるよぉおおおお! 白葉様!


 白葉様の方を見ると、何故か変装していた。


 これは拙者への試練……ということでござるか、白葉様!

 ここは何としても黒髪ちゃんの存在を隠し通すでござるよ!



「一人か?」


「そ、そうでござるが!? お、お前こそ! なんでこんな場所で葵様と二人でいる! 答えろ、裏切り者め!」


「へっ! わ、私のこと知ってるんですかっ!」


 揺れる銀色の髪に、宝石のような青い双眸。

 あぁっ! 見るだけで癒されるでござる!


「お前、まさか小野寺教の……」


「ふっ、やっと気付いたでござるか? 拙者の名前は村田――」


「阿澄くん! なんですか、小野寺教って! 私初めて聞きましたよ!?」


「あ、いや。それはだな」


 あぁ。この反応を見られるなんて。拙者も裏切り者の一人なのかもしれぬ……。

 葵様の笑顔を一つ見られるなら、極刑さえも喜んで受け入れてしまうでござる。


「阿澄伊織! 共犯ということで、今日は見過ごしてやるでござる……だが、次はないでござるぞ!」


「お、おう?」

 

 今日のことは見なかったことにしてやるでござる。


「あ、阿澄くん。あのぬいぐるみ、私も欲しかったりします……」


「あぁ。あの形だと一回で取れそうだな。これ取ったら帰るとするか」




 阿澄伊織。拙者も葵様の可愛い反応を見てしまった罪があるでござる。今日のところは許すでござるよ。


 そういえば、黒髪ちゃんのこと忘れていたでござる。

 まぁ黒髪ちゃんに、白葉様の場所は伝えておいたでござる。

 拙者は満足してしまったので、今日のところは帰るとするでござる――。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「あぁ! 村田ったらどこに行ったのよ!」


「分からない。お兄ちゃんたちと楽しそうに、話してた」


「というかお姉ちゃんたちも見当たらなくなったんだけど!」


 失敗で終わってしまった……。

 この人の数で見つける方が難しい。もしかしたらもう帰っちゃったかもしれないし……。


「乃依、もう帰りましょう……」


「ん。乃依もぬいぐるみもらって満足」


 心なしか、乃依は嬉しそうに笑っている。いつも無表情の乃依がこんな表情するなんて。それほど猫太郎のぬいぐるみが取れて嬉しかったのね。


とはいえ、今回の尾行作戦は失敗に終わった。

 次までに村田より心強い味方を用意して、次こそは阿澄伊織からお姉ちゃんを取り返す!

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