第5話『聖女様は超が付くほどのゲーム好き』
俺は今、小野寺の件で瑞斗を問い詰めていた。だが当の本人は呑気に欠伸をしている。
「どうして隠してたんだ?」
「いや、別に隠してたわけじゃねぇよ。お前さ、俺が小野寺葵と幼馴染だって周りにバレたらどうする? 俺は生きていられると思うか?」
「確かに、そうだが。俺に言うか言わないか、また別の話だろ」
「というか、なんで伊織が怒ってるんだ?」
俺もなんで今怒っているのかが分からない。
というか、この感情は怒りというよりも……。
「まぁ安心しろって。二歳の時から葵とは一緒にいる。九割兄妹みたいなもんだ。それに俺には今彼女がいるからな」
「はぁ、なんか完璧に言い包められた気がする」
「気にすんな! ほら、さっさとゲームやるぞ」
そう言って、いくつもゲームソフトたちが並べられた棚の上から、ゲーム機を持ってきた。
「久しぶりにお前の家来るけど、前よりゲーム増えてないか?」
「そうか? まぁ面白そうなものがあればすぐ買ってるからな」
「どんだけゲーム好きなんだよ」
「近くに超が付くほどのゲーム好きがいるからな……」
俺も乃依から借りてきたゲーム機をカバンから取り出す。ボディはピンク色。ゲーム機専用のペンは無くなっているらしいが、グラモンでは必要ないらしい。
「よし、繋がったな。いや、なんで防具付けてないんだ」
「え? 必要なのか?」
見ると、瑞斗のキャラは全身防具で覆っている。それに対し、俺のキャラは薄いタンクトップ一枚。明らかに俺の方が俊敏に動けそうだが。
というか、あんな全身に棘の付いた防具って、回避したとき、逆にダメージ受けそうな気も。
「超大事。てか、お前雑魚のモンスターの素材しか持ってないじゃん。
「だって勝てないし」
「はぁ。分かった、とりあえず今日は強い防具を作ろう」
そのあと瑞斗に手伝ってもらいながら、一時間くらいかけて初心者用の防具を作った。
結局ランクは三日前から1も上がっていない。防具なんて今できたところだ。
「まだ初心者向けのクエストしか行ってないぞ」
「いや、今のが初心者向け!?」
俺は瑞斗の部屋のベッドに寝そべった。
このゲームは三回まで死んでいいことになっている。協力プレイの場合、チーム全員でハートは三つ。だから四回目死んでしまうと復活できない。
そして俺は初心者向けクエストに、四回死んでしまった。
「おかしい。実におかしい」
「モンスターに武器も持たずに突進してたら反撃されるに決まってるだろ。というか、突進ではモンスターにダメージ与えられていないし」
「このゲーム、物理的に色々とおかしい」
「まぁそれがゲームってもんだ」
文句は言いつつ、結構楽しんでいる気はする。
瑞斗はゲーム好きというだけあって相当上手い。
もしかしたら俺は本当にゲームのセンスないのかもしれない。
「どうする? 助っ人を呼ぶか?」
「助っ人? あぁ。俺のゲームの師匠だ」
「まじかっ! そんな奴がいるならさっさと言ってくれよ!」
瑞斗の師匠……多分相当うまいやつだな。
そいつに手伝ってもらえれば、今日中に防具も武器も強くできるはずだ。
「ん。じゃあ今から呼ぶわ」
そう言って、スマホで誰かにメッセージを送る瑞斗。
どんなやつが来るのだろうか。ゲームオタクだったりして。
そんな期待を抱きつつ、待つこと二十秒。
インターホンの音が家の中に響き渡った。
――いや、早すぎじゃないか?
「なぁ、瑞斗。俺、嫌な予感がするんだが」
「気のせいだ」
なんて言いながら、瑞斗は一階の玄関へと向かった。
いや、ゲーム好きの瑞斗の師匠だ。俺の頭で予想している人物とは違うはずだ。というか違う人であってくれ。
だが、その願いは一瞬で崩壊した。
「お邪魔しまーす」
インターホンの鳴り止んだ家に、次は鈴を転がすような声が俺の耳に入ってきた。
……小野寺だ。
「まじか……」
苦笑いを浮かべて目を逸らす小野寺の頬は、心なしか赤く染まっている。
「えっと……」
いや、気まずいわ!
小野寺の後ろでウインクしている瑞斗が憎たらしい……。
「よし、師匠も来たことだし、グラモン再開するか!」
「ちょ! 阿澄くんの前でその呼び方はやめてよ!」
美男美女のカップルを見ているようだ。
モブキャラの俺には痛い光景である。
小野寺が集会所に入ってきた。
キャラクターは可愛らしい女の子ではなく、俺たちと同じムキムキの男。防具は何か光っている。腰につけた長剣も、何故か光っている。
「ランク6!?」
「えへへ、なんか気付いたらなってました」
気付いたらの次元じゃない気がする。
一週間やっても俺なんてまだランク一つも上がってないんだけど!
「これからグラモンのことは、俺の師匠である葵に訊くんだな!」
「なんでお前が誇らしげなんだよ。それにしても小野寺がそこまでガチ勢だったとは……」
学校の姿を見ている限りじゃ、『ロリ聖女』の小野寺がポテトを食べ、モンスターを狩っているところなんて想像ができない。
人は見かけによらないとはいうが、ここまでギャップはさすがに俺の脳では処理しきれない。
「さっき言っていた超が付くほどのゲーム好きってのは葵のことだ」
なんか今日だけで小野寺の全てを知れた気がする……。
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