第38話

日高の山奥で、アイヌのエカシ(長老)に会った江畑と岡本は、エカシから佐倉についての情報を得た。

馬橋を見守るようにエカシから指示された佐倉は、馬橋に接触した丸山と白岩を見て「敵」だと認識して白岩を殺害したと考えられる。

東京で起きた奥村の殺人も指紋の発見により佐倉を重要な容疑者として認定できる材料は揃ったことになる。

北海道警の本部にある講堂で佐倉の指名手配に関する記者会見が開かれた。

北海道議会議員の殺人事件という大事件だから、新聞社や通信社、放送局は地元だけでなく、東京のテレビ局のワイドショーのカメラも入り、会見場はごった返していた。

道警からは本部長、捜査一課長、所轄の札幌北署長らが並び、本部長から概要が発表された。

「本事件の重要参考人として、東京都在住、札幌の北海道犬繁殖家のところで修行をしていた、佐倉洋二郎36歳を特定し、本日全国指名手配しました」


東京の事件との関係は警察側からは発言されなかったが、記者からの質問に答えて、東京の事件でも容疑者になっていると答えたので、全国紙の記者は警視庁の発表はあるのかと質問が出たが、本部長は警視庁が発表するかどうかは警視庁に聞いてくれと発言した。


全道の警察署は一斉に動き出した。

地域課のPAは主要幹線道路の監視パトロールを強化し、ありとあらゆる公共の場所に指名手配のポスターが貼られた。

また防犯カメラの解析も大掛かりなものになった。

潜伏しやすい札幌や函館などの都市はにある防犯カメラを収集し、解析が始まっていた。道警数万人の警察官の目が佐倉の行方に注がれた。

もちろん、空港、フェリーなどの乗客名簿、防犯カメラ映像はこれまでにも解析済みであったが、改めて解析をし直すことになった。

江畑と岡本は東京に戻るかどうか話し合っていた。

「とりあえず佐倉の身柄を押さえることは道警に任せて我々はいったん東京に戻るか」

江畑は疲労を感じさせるような様子はなかったが、岡本はその言葉に反発した。

「もしこちらで確保できたら、うちらが身柄を本庁に搬送しましょうよ。それにこちらでの聴取も自分らでやりましょう」

「それは出来ない、まず道警が身柄確保したら、まずこちらの捜査が先だろ」

「では合同捜査にしたらどうですか」

「もう遅いよ。主導権は道警になってしまった。俺たちはあくまでも東京の山の捜査に来ただけで、道警には協力してもらった立場だからな」

岡本は不服そうに立ち上がってコーヒーを取りにいった。

「やはりまだいるか」

岡本は江畑の言葉に呆れた目をした。

「もうここまで来れば身柄確保も早いだろう。もう2日待つか」

「しかし、北海道にいますかね」

「多分な。佐倉は自分が犯人だということを警察はつかんでいると犯行直後に悟ったと思う。犬の世界は狭いからな。しかも指紋を残したりするくらいだから、犯行を隠す様子がないこともある。心配なのは自殺することだな」

「もう死んでいるかもしれませんね」

「かも知れない」

「江畑さんの勘ではどうですか」

「半々だな。生きていてくれることを願うのみだな」

その日の午後、道警の地取り班が有力な情報をつかんできた。

佐倉は小樽に知り合いがいたことを突き止めたのだ。

佐倉がたびたび訪れた札幌の居酒屋の常連の話からだった。

小樽でペンションを経営しているという男は、佐倉の最初の勤め先であるレストランのシェフで、イタリア料理では名が売れた男であった。

コック見習いで入った佐倉をとりわけ可愛がり、佐倉も一生の恩人と思っているという。

だが、小樽に行きたいのだが、犬の世話で忙しく、まだ会っていないという話だった。

捜査本部はすぐに小樽警察に連絡をして、そのペンションの現確をするように指示をした。




#40に続く。






 

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