第35話

馬橋は、ある供述をした。

それは、日高にいるある長老から馬橋たちの飼っている犬のことで聞きたいという男が現れたというのだ。

長老によると、その男は若くて体格の良くて大竹と名乗った。

アイヌ犬が好きだから馬橋に都会で飼育する秘訣を聞きたいと言ったそうだった。

長老は馬橋たちが飼っているアイヌ犬の血統を守る犬の供給者のひとりだった。

彼は山奥にある小屋で人目から逃げるように生活して、各地にいる犬の血を絶やさないように交配をして血を繋ぐ人だった。

馬橋たちは、彼らから子犬を預かり、育て、そして成長したら長老に預けて交配してもらう。馬橋はやがて会社を定年で退職して子供たちが独立したら、長老の代わりに山奥に住み、同じことを子孫に繋いでいくことを決意していた。

江畑たちにとってはそんなことはどうでも良かった。

長老を訪ねていった男が佐倉であることを確認しなければならない。

そこで馬橋に頼んで長老に話してもらいその男は佐倉であることの確認をしなければならない。

そのことを太田管理官に報告すると、管理官は日高の所轄に頼んで確認させ、必要があれば江畑たちに行ってもらいたいと江畑に伝えた。

次の日には所轄から連絡が来た。

果たして、長老に佐倉の写真を示しところ、確かにこの男だと確認が取れた。

長老は、その男をすっかり信用して馬橋の住所を教えていまった。

その行為にやや不審の面が見えたのだが、とにかく馬橋と佐倉の線は繋がった。

だが、馬橋は佐倉との接触は否定している。

それはなぜなのか疑問が膨れ上がった。

なぜ佐倉は馬橋との接触しなかったのだろうか。

その目的は何だったのだろうか。

捜査会議ではその点が論じられた。

「佐倉の目的が、単に北海道犬の変種を確認したいだけなら、馬橋と接触して犬を見せてもらうと考えるのが自然です。佐倉は保存協会の人間ではありませんので、北海道犬の正当性を問うような存在になる犬を否定する立場ではないような気がします。興味だけなら馬橋に接触しないのは不自然になると思います」

北海道警の刑事が発言した。

確かにそのとおりだった。

佐倉にはアイヌ犬に関する利害関係はなさそうだった。

しかしそれなら東京で起こった奥村の殺人はどうなるのだろう。

奥村の殺人には明らかに何らかの利害関係が動機の主要部分だろうというのが東京の本部の見解だし、江畑も岡本も同感だった。

北海道の白岩の殺人にも何らかの利害が関係していることが想像される。

どちらもたんなる怨恨の線は無いというのが共通認識だった。

その後の捜査会議は沈黙が支配した。

いきり立った太田管理官はいらだった。

「日高の長老のところに飛ばしてください」

岡本が立ち上がって発言した。

「根拠を話せ」

太田が怒鳴った。

「長老と佐倉の接点に何らかの秘密があるように思います」

「漠然としているが、、それを確かめるということだな」

「そうです」

「それなら江畑君とともに行ってくれ」

「ありがとうございます。クルマの手配をお願いします」

「現地の所轄に行ってPK(パトカー)を手配しよう」

よそ者の江畑と岡本では、日高の険しい山道は難しいだろうという配慮だった。

「今度こそ詰めよう」

江畑は目を輝かせた。




#37に続く

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