第30話
アイヌ文化研究家の丸山は、決意して札幌に向かった。
行き先は、北海道警察本部だった。
道議会議員の白岩が殺された原因が隠れコタンではなく、アイヌ犬のことだと思ったからだった。
道警の正面受付で、捜査本部の人に会いたいと伝えた。
「どなたにご用ですか」
「捜査に関わっている人ならどなたでも良いのですが、出来ましたら指揮を執られるような方とお話がしたい。事件についての情報提供だと伝えてください」
しばらく待つと制服を着た男が現れた。背広ではないということは、かなり階級の上の人だと想像できた。
「捜査一課の管理官、太田です」
「白岩さんと隠れコタンの調査をしていた丸山です」
「捜査本部は2階にありますから、どうぞ」
促されて、エレベーターに乗り、空いている会議室に通された。
部屋に入ると、すぐに背広を着た男たちが現れた。
鋭い眼光で丸山に迫ってくるような勢いだった。
丸山は、白岩と馬橋に公園で会ったこと、馬橋は自分がアイヌの血を受け継いでいることはすんなり認めたが、隠れコタンであることは否定した。
連れている犬のことを訪ねると、北海道犬という。だが、多くのアイヌ犬を見てきた丸山からしたら、あきらかに小型だった。
それで、アイヌ犬にしては小さいが、これはアイヌ犬の変種なのかと聞いたら、顔色を変えて去っていった。
白岩と、次の日も馬橋を直撃しようと約束した翌日に白岩が殺されたということを述べた。
「どうもはっきりと分かりませんな」
太田管理官が首をかしげた。
ひとりの刑事が口を開いた。
「あなたが見て明らかに他のアイヌ犬と違いますか」
「犬に詳しいわけではありませんが、アイヌ犬はアイヌ文化研究家として長いものですから、これまでにも多くのアイヌ犬を見てきましたが、成犬のわりにはあまりにも小さいんです。柴犬より小さいかも知れません」
「私は東京の警視庁から捜査に来ている江畑といいます。東京では伝統日本犬保存協会の副会長の殺人事件がありまして、その関連で捜査しに来ました。そのお話には興味があります」
丸山は、とっさのことで面食らったが、すぐに自分の予感が当たったのではないかと確信した。
「馬橋は容疑者ではないのですか」
「捜査情報なので、教えることは出来ませんが、現在捜査中です」
「私が伝えたいことはこれだけです」
「わざわざご協力ありがとうございました」
丸山は帰っていった。一時は白岩と前日まで行動を供にしていたので、参考人扱いされていた人物なのだが、アリバイも確認されて、捜査の線上からは消えている人物だ。それに彼がホシで、捜査陣をかく乱するための情報提供という可能性も少ないと感じられた。
「彼の言うことが本当ならかなりの濃勘があるな」
太田管理官は振り絞るような声を出した。
江畑は岡本の顔を見た。それと同時に岡本も江畑の顔を見た。
「あんたはどう思う」
「私も丸山氏の言うことは信憑性があると思います」
「よし馬橋の家に行こう」
太田管理官は他の捜査員に馬橋の周辺を捜査するように命令した。
#32に続く。
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