第28話

札幌に着いた江畑と岡本はさっそく北海道警の刑事部に向かった。

応対したのは、刑事部捜査一課の長田課長だった。

「ご苦労様です。こちらは今北海道議会議員の殺人事件で所轄に帳場(捜査本部)を設けていて、そちらに大半の刑事を行かしていますから、ご協力は満足に出来ないかもしれません」

いかにも牽制球だった。

こんな忙しいときに何だという威圧感丸出しのいかにも地方警察の幹部が本庁の刑事に対する劣等感の裏返しの反発心を見せ付けてきた。

「いえいえ、こちらにご迷惑をおかけすることは今はまだありません。ホシを取りにきているわけではなく、こちらに濃勘がありそうなので、その調査に来ているだけですから。しかし、いざというときはしっかり対応していただきたく思いますので」

江畑もしっかりと威圧感で返した。

警視庁が全国の警察の頂点であるという自負心を露にして舐められないようにするという官僚組織のうす汚い体質は江畑もしっかりと身につけていたのである。


二人は、道警を出て、タクシーを捕まえて北海道犬のブリーダーの家に行った。

札幌から30分くらいのところにある日本海に突き出した小ぶりの半島の先のなかほどにその家はあった。

普通の住宅とは違い、いわば農場のような広大な敷地に赤い屋根の家が建っていた。看板などはない。

家の表には男が待ち受けていた。

帽子をかぶり、年齢は50歳くらいの温和な顔立ちの男だった。

母屋のほかに、やはり赤い屋根の建物があった。

どうやら犬舎のようだった。犬の鳴き声が聞こえた。

男は白井という名前だった。

江畑と岡本は家のなかに案内されて、客間に通された。

「ここに修行に来ていた男がいなくなったのですね」

「はい、一週間前に突然消えまして、それから連絡もなくてどうしたのかと思っているのです」

「その男の名前を教えていただけますか」

「佐倉洋二郎といいます。28歳です」

「東京の菅野さんの紹介だと聞いていますが」

「菅野さんとの付き合いも長いですので」

「菅野さんはこちらの犬を買っているのですね」

「買うというより譲るという感じですね。犬の値段ではなく実費だけを持ってもらって、郵送費とか予防注射の費用を払ってもらっているのです。それは東京にも北海道犬の普及のためだと思うからです。菅野さんは、北海道犬の繁殖では古い実績にある方ですから」

「佐倉さんはどうして修行をしていたのですか」

「菅野さんのあとを継いで繁殖家になりたいということです」

「こちらに来てどれくらいになりますか」

「一年ですねちょうど」

「どうして消えたのか心当たりはありますか」

「まったくありません。前日まで元気に働いてくれていましたから」

「何かトラブルとか、悩みがあったとかはありますか」

「分かりません。口数が多いほうではなかったので。菅野さんにも聞いたすが、やはり心当たりがないということで、菅野さんにも連絡がないということなのです。ところで、佐倉が何か犯罪に関係しているというのでしょうか」

「それを捜査しているのです。佐倉さんと仲間だった人にある事件の容疑がかかっているのですが、その人物の関係者として佐倉さんの指紋を取りたいと思いまして」

「それなら彼の部屋に案内しましょう」

江畑と岡本は佐倉が暮らしていた部屋に入った。

二階の奥にその部屋はあった。

ベッドと小さなテーブル、テレビに洋服タンスだけで、整頓されていた。

几帳面な性格なのだろう。

テーブルには飲みかけのペットボトルがあった。

それを岡本がビニールの袋に入れた。

さらに指紋採集キットで、ドアノブや、歯磨きブラシ、などから指紋を採取した。

ふたりは白井のクルマで最寄の駅まで送ってもらい、道警に戻った。

鑑識に頼んで指紋の検証を頼んで、鑑識の部屋でその結果を待つことにした。




#30に続く。





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