第27話

捜査本部に戻った警視庁の江畑は、中大路捜査一課長に呼ばれた。

「北千束署の岡本君と北海道に行ってくれ。詳細は岡本君から説明してもらう」

「あのお、私も今日の捜査で北海道犬の繁殖家に事情を聞くことが必要だと報告するつもりだったのですが」

「そうか、それなら都合が良い。とにかく頼んだぞ」

江原は野瀬と顔を見合わせた。

どういうことだ。

犬の関係を捜査しているのは俺たちだったんじゃないのか。

所轄がどんなネタを仕込んだのか知らないが、所轄の奴と組んで捜査しなければならないんだ。

お互い無言のまま怒りの表情をした。


そのとき、江畑のまえにひとりの男が現れた。

「北千束署の岡本と申します。江畑さんですね」

いかにも柔道の高段者らしく耳のつぶれた大男だった。

「はあ」

江畑は岡本を見上げるように目を向けた。

「所轄ごときが捜査1課の方と組めるなどという光栄に授かりまして、感謝しております」

「そんな挨拶なんか無用ですよ。とにかくそちらの話を伺いましょう」

怒りが収まらない野瀬を残して、空いている会議室に江畑と岡本は入った。

「実は、死体遺棄現場周辺の防犯カメラで押さえた当該車両の所有者である上代社長が北海道犬を数年前まで飼っていたことはご存知ですね」

「その件もあってで北海道犬保存協会の代表に会ってきた」

「上代には犬仲間がいて、そのなかのひとりが北海道にいまして、今は北海道犬の繁殖家の家でブリーダーの家で修行しているというのですが、その人物以外に東京近辺にいる犬仲間のアリバイは証明されているのです」

「北海道にいる奴はどうなんだ」

「それが数日前に修行中の家を断りもなしにいなくなっているのです」

「変な話だな」

「当該車両の合鍵についた誰のかわからない指紋についても、その男かどうかの確認もしなければなりませんのでぜひ岡本警部補とご一緒させていただきたいと」

「まあ、事情は分かったからその繁殖家の名前はなんと言うんだ」

「白井という男です」

「俺が聞いた名前だよ。なんか本筋が見えてきたような気がするな」

「そうですね。さっきまで白井と話していたんです」

「どんな話をした」

「上代の仲間だった大賀という男についてです」

「今でも行方は分かっていないのか」

「そうなんです。一応、明日行くことにしていますが」

「じゃあ、これから羽田に行こう。先乗りして、北海道警にも挨拶しておかなければならないだろう」

「そうですね。事務作業をさせていただいてから出発できます」

「俺もだ。じゃあ、午後4時にはここを出よう」

つい先ほどまでは「所轄なんて」と反発しかなかった岡本だったが、ホシの臭いがしたとたんに刑事どうしの志向性がぴたりと合ったことで、何の壁も無くなった。

ふたりは羽田空港に行き、午後6時発の千歳空港行きの日本航空の便に乗って北海道を目指していた。





#29に続く。




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