第25話

馬橋の家の近くで待機していた白岩と丸山はついに馬渕に直当たりする瞬間になった。

「お話をしたいのですが、よろしいですか」と丸山が聞くと、馬橋はあからさまに拒絶の表情をした。

無言で白岩の横を通りすぎるようにした。

後ろの少女は呆然としている。

しゃがみこんで馬橋と少女の犬の頭を撫でていた白岩も立ち上がった。

「私は道議会議員の白岩です。こちらは以前北海道の教授でアイヌ文化研究家の丸山さんです」

馬橋は足を止めた。

「そのような方が私に何の用があるのですか」

「ちょっとそこのベンチに座りましょうか」

馬橋は躊躇していたが、仕方ないと諦めたのか、自分からベンチに座りにいった。少女はどこかに消えていた。

「私たちは、ある情報により、この地に隠れコタンがあることを調べていました。すると、あなたとその隣などがそのコタンだと確認したのです」

馬橋は遠くを見つめるような目をしていた。

「白岩くんにあなたが毎日この白い犬を連れて散歩している、その犬は北海道犬であるということを聞きました。それで、あたなが隠れコタンだと確信したのです」

「意味が分かりません。隠れコタンというのは何なのですか」

「言うまでがありませんが、アイヌの集落のことです。昔からアイヌの人たちはコタンという集落の単位で生活していました。コタンには4戸か5戸の家があり、助け合いながら生活していたのです」

「そうですか、それと私が何の関係があるのですか」

「あなたはアイヌの血を受け継いでいるのではありませんか」

「どうして知りたいのですか」

「私はいま日本でアイヌの人たちのことが忘れられようと言うことが我慢ならないのです。政府は、アイヌという日本人とは違う民族をないことにしようとしています。もちろん、北海道ではアイヌ民族館などが多く建てられ、形は整えられているようにみえますが、日本全体ではまったく忘れられた存在なのです。そのためにさまざまなことで発信していますが、もしあなたたちが何らかの主張や信念があるならそれをお聞きして今後の活動の参考にさせてもらいたいと思っているのです」

「私も議員という立場からアイヌの方たちの伝統や文化をもっと全国の人に知ってもらいと思い、これからも活動させてもらいたいと思っているのです」

馬橋はうつむいて考えていたが、顔を上げた。

「分かりましたが、わたしたちは何の主張もありませんし、アイヌであることを公表もしていません。コタンというのは大昔の呼称であって、私たちはただ近所に暮らしているというだけなのです。それ以上のことはありません」

「そうですか。それはそれとして、この犬なのですが、アイヌ犬としては小型すぎると思うのですが、さっきの女の子も同じような犬白岩君の話では他の家も同じような犬を飼われているということですが、本当にアイヌ犬ですか」

その瞬間だった。

「失礼します」

馬橋は立ち上がり、家の方向に走っていってしまった。

突然のことで、丸山も白岩も唖然としていた。

「あれはなんでしょうか」

「よほど気に入らなかったということだろう。アイヌということはすんなり認めたのに、犬のことを聞くと色めき立つ。おかしい。とにかくもう一度ここで待ち伏せしよう」

「丸山先生は明日は東京へ講習会に行くのですよね」

「そうだったな、明後日の夜には戻るから翌日また来よう」

丸山は白岩と別れ、東京に向かった。

次の日、朝一番に白岩に電話をするとまったく繋がらなかった。千歳空港についてから改めて電話をしても繋がらなかった。不安な予感がして、白岩の事務所に行ったが、鍵がかかり、誰もいなかった。仕方なく、彼の自宅に電話した。聞き覚えの無い男が電話口に出た。

「あなたはどなたですか」

「丸山です」

「私は北海道警察のものです。白岩議員は昨日夜死体で発見されました」

丸山に衝撃が走った。




#27に続く。




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