第15話

伝統日本犬保存協会の奥村が殺された殺人事件を捜査している警視庁の江畑刑事と野瀬刑事は、柴犬の繁殖家に話を聞くために東京の練馬区に来ていた。

私鉄の駅からタクシーに乗り15分ほど行くと、住宅街からはずれ、工場の広大な敷地があり、その隣に農場のように緑がある場所に着いた。

国道沿いにあり、門には「ミヤガワケンネル」と書かれた看板があった。

母屋は洋風の建物で、秋田犬の繁殖家とは違う雰囲気があった。

母屋には門から数十メートルはあり、その間に木製の柵があり、犬舎があって、元気な柴犬たちが尾っぽを振りながら江畑たちに吠え付いた。

「凄い声ですね」

「そうだな、でも可愛いじゃないか」

「秋田犬は大きくて怖かったですよ」

「でも俺は秋田犬は好きだよ。なんたってハチ公の犬なんだから」

「映画がありましたよね。副題が神様がくれた小さな愛の物語でしたっけ」

「テレビで見たけど、泣いたよ」

「鬼の目にも涙ですか」

「誰が鬼だよ」

「すいません」

そんなことを話していると、母屋から男が現れた。

年のころは65歳以上で、これまでに会った秋田犬の繁殖家と違い華奢な体格のおじいさんという印象で、弱弱しい感じだった。

「江畑さんですか」

「はい、警視庁の江畑です。お忙しいところ申し訳ありません」

「どうぞなかにお入りください」

中に入ると応接間に通された。大きなソファに座らされた。

お茶が用意されていた。

「奥村さんのことは本当に驚きました。犬の協会というはどこも何らかのトラブルがあるものですが、さすがに殺人事件になるとはねえ」

「トラブルが多いのですか」

「聞いておられると思いますが、繁殖家は変わった人が多いんでね。私も含めてですが」

「何となく分かります」

「そういう人たちを相手にするのだから、奥村さんもかなり気が強いというか、人の話を聞かないというかそういう人でしたね」

「宮川さんも奥村さんとやりあいましたか」

「そうですね。彼はある一派と仲がよくて、そちらのグループばかりをひいきするので、協会に怒鳴り込んだことはあります」

「そのときの状況を教えてください」

「分かりましたが、私は犯人ではないですよ」

「そんな決め付けはしません。まだ捜査中ですから。ただ、あなたのアリバイとかの調査はさせてもらいますが」

「はっきり言って、彼を小突いたのは事実です」

「どれくらいの小突き方だったのですか」

「彼は倒れました」

「よく事件になりませんでしたね。もし警察に通報されていれば現行逮捕ものですよ」

「彼はそういうことに慣れていたのではないでしょうか。私もカッとなったことを反省して謝りましたけれど」

「具体的に何に腹を立てたのですか」

「柴犬保存協会というところが血統書の発行をしているのですが、そこの理事の人事を奥村さんは長年独善的に決めていて、我々はその人たちから眼の敵にされていましたので、様々な嫌がらせを受けていたものですから」

その後も宮川から奥村の悪口をさんざん聞かされて二時間以上も滞在することになった。



#17に続く。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る