第14話
アイヌモシリという言葉がある。
「アイヌの大地」という意味だが、それは現在の北海道のことである。
旧樺太や東北にもアイヌがいて、その人たちにもそれぞれの地がアイヌモシリということになるのだが、やはりアイヌ民族という視点にたつと北海道という本州から海を隔てた大地がそうなのだろう。
白岩は、単純にアイヌたちの民族的な誇りを取り戻してもらいたいと思って議員になった。
民族的な独立を図ろうというのではない。
あくまでも日本国民のなかのアイヌ民族としての伝統と文化を誇りをもって継承してもらうために役に立ちたいと願うからだ。
そのために、まだ具体的なかたちになっているものは何も無いのだが、アイヌの人たちとの交流はすこしづつでも拡大してきている。
選挙には役にたたないが、それは政治家としての白岩の信条だということだった。
帯広に居住するアイヌ文化の研究家丸山と会ってから2週間後のことだった。
丸山は白岩にこう語った。
「札幌にいるエカシ(長老)から連絡が来て、隠れコタンは札幌の郊外にあるらしいということは分かったが、詳しいことは札幌のなかでもアイヌ独立運動の活動家の沢田という人物なら知っているという噂があるそうだが、あんた、その沢田に会って話を聞いてくれないか」
白岩はやっぱり札幌かと思った。
なぜなら、札幌は北海道最大の都市であり、人口は190万人いる大都市だ。
住宅地も都市部から大きく広がっている。
身を隠すには大都市に限るというのを聞いたことがあるが、田舎ほど地域コミニティが緊密で、秘密を持った人には暮らしにくいからだ。
それに、札幌は転勤族も多い。
そういう人たちのなかに紛れ込めば、秘密を保持しながら生活していくことは至難なことではない。
「私は議員だし、保守系の会派に所属しています。怪しまれるのではないですか」
「いや、かえって学者が会うよりいい。学者は自分の研究以外のことは興味がない。政治的なことから距離を置きたがるものだ。それを彼らは知っている。だからかえって君のような政府の考え方に近い人物で道議会の人間なら会うデメリットは少ないと感じるのではないかな、逆の意味で」
「なるほど、それはあり得ますね。会ってくれるのならとりあえず本筋は数回会って用心が溶けたところで聞いてみましょうか」
「そうしてくれますか」
丸山は札幌にいる活動家の連絡先を教えてくれた。
次の日、議会の資料つくりを終えてから相手に電話をした。
沢田というすすきので古書店を経営している男だった。
齢は60歳を超えているという。
「突然電話をして申し訳ありません。私は道議会議員の白岩と申します」
突然の電話に沢田は困惑していた。
「何か御用ですか」
「お会いしてお話したいのですが」
「目的を聞かしてください」
「私は、アイヌの人の伝統と文化を守る活動をしていこうと考えています。そのために様々なご意見を持っている方に会ってお話を伺いたいと思っているのです」
「何だか分かりませんが、お会いすることはかまいませんよ」
「ありがとうございます」
2日後に札幌の喫茶店で会う約束をした。
#16に続く。
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