第13話
丸山元教授に、アイヌに対しての認識が甘いと指摘された白岩は、最初は反発したものの、長年研究している丸山にはあらゆる面で太刀打ちできないことは分かっているので分かりましたと素直に応じた。
「私も同化政策によって、アイヌの伝統文化などが無くなされているのは充分分かっているつもりです」
すこしだけ反抗してみた。
「まあ、それはそれとして、最近私が知ったことだが、日高地方にいるアイヌの長老から話を聞いたことがあってな」
丸山は急に話の矛先を変えてきた。
「あるコタン(アイヌの集落)が存在していて、それは山奥とかそういうところではなく、都市部に近い地区の普通の住宅街にあるというんだ」
「おかしな話ですね」
「コタンというイメージから、私も現存するコタンは見たことはない。写真で残っているだけだから、ありえない話だと思ったんだ」
「旧土人法のもとで、アイヌの人が住んでいた土地は接収され、コタンのような共同体は解体されたのですよね」
「そうだ、多くのコタンがひとつの場所に集められ、集団化されたんだ」
「日本人として同化させるためですね」
「明治から大正にかけて政府は徹底的にそれを実行したのですよね。それにより多くの土地を得た日本人は東北をはじめ多くの人が移住して開拓したんですね」
「そうだ。で、コタンの話だが、長老も他の人物からの伝聞だというのだが、そのコタン、何と言うか、隠れコタンのようなものがあり、彼らは他のアイヌとの交流はない。それどころか、自分たちがアイヌであることを隠して、日本人として生活しているというのだ」
「だから隠れキリシタンの話と似ているということですか」
「隠れキリシタンは、自分たちの信教を守るためだが、その隠れコタンは何から自分たちを守っているのかが分からないんだ」
「そうですよね、アイヌ保護法があるから、役所に認知されれば様々な援護が受けられるし、アイヌの伝統文化を守るということならばそういう組織はいっぱいありますからね。何を守ろうとしているのか理解できないことです」
「例えば風習としては、刺青とかは今の日本ではアウトローの象徴でもあるということもあるがな」
「アイヌの伝統的な風習としては、刺青とか女性の独特な化粧とかありますけど、そんなことは日本人だって、明治になってちょんまげは無くなったり、帯刀の禁止とかありますよ」
「それはひとつの理屈に過ぎないのだがね。刺青などに深い思い入れがあって、頑なにその文化を守ろうとしているという可能性も無くはない」
「しかし、人里離れた場所に暮らして、外の人間と接触していないというわけではないんですね。そうしたら外見で分かるような文化を市民生活で隠すことは出来ないような気がしますが」
「確かにそうだ。だからあんたひとつ調べてみないか」
「先生がやればいいじゃないですか」
「アイヌとして普通に生きている人なら何とか探す伝もあるが、アイヌを隠して暮らしている人を探すのはあんたのほうがやりやすいんじゃないか」
「私だってどうしていいのか分かりませんよ」
「どこにいるかを何とか探るように長老にはお願いしてあるんだ。しばらくすると情報があるかも知れないんだ」
「それだったら、札幌周辺だったら何とかしますよ」
「協力してくれ」
「いいですよ。でもその隠れコタンを探してどうするつもりですか」
「じっくりと話してみたい。何故アイヌである事を隠しているのか、何を守ろうとしているのかということをだ」
丸山の言うことは良く分かったし、理解できた。だが、まだ白岩の心は半信半疑だった。
#15に続く。
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