第2話

洗足池公園で起きた殺人事件の被害者である、奥村の名刺に書かれてあった伝統日本犬保存協会を訪ねた北千束署の岡本と千木良は、驚愕している事務員らしい女性社員に事情を聞いていた。

その女性は磯辺加奈子といい、勤めて5年になると言った。

常勤の職員は彼女だけで、会長も副会長も本業を持っており、彼女だけが一日中事務所に詰めていて、様々な業務をこなしていたという話だった。

「副会長さんは何の仕事をされていたのですか」

「保険の代理店をしていらしたのです。会長さんは貸しビル業です」

「他にこの事務所は誰が出入りしますか」

「理事のかたがたは時折みえます。ところで、副会長のご家族にはお知らせしたのでしょうか」

「それは他の警察官が行っています」

「そうですか」

「副会長さんは毎日ここに来ていたのですか」

「そうですね、だいたい毎日いらしていました」

「滞在時間はどれくらいですか」

「その日によって違いますけど、お客様が来たときなどは朝から夕方までいらしゃることも多かったです」

「どんなお客さんが多かったのですか」

「主に犬関係の方たちです」

「犬関係といいますとどんな」

「繁殖家の方とか、販売店のバイヤーとか、犬の展示会を全国でさまざまな犬種で行うのですが、そちらの関係者の方々です」

「奥村さんと一番関係が深いはどなたですか」

「日本犬といっても、誰でも知っている柴犬から、四国犬のような希少なものまでさまざまなので、いろいろな方とお知り合いだったと思います」

「あなたの覚えている範囲で、最近何かトラブルになったことはありましたか」

磯部は表情をまた固くした。

「副会長さんは、どちらかというと強い方だったので、電話口で怒鳴ることもままありましたけど、まさか殺人事件が起きるような大きなトラブルというのは記憶に無いですね」

「強い人というのはどういう意味ですか」

「これからみえる会長さんにお聞きになると分かると思いますが、日本犬の繁殖家の方とか個性が強いというか、そういう方が多くて、自分の犬が一番だという意識がものすごくあって、たとえば展示会での出場順とか、審査の結果とか、だいたいが展示会で、その年のチャンピオン犬を決定するのですが、その結果にクレームをつけるとか、そういうごたごたは様々あったと思います」

磯部に話を聞いている最中に会長の町村仁志が来た。

年は60歳以上のようだったが、180センチはあるような体格の持ち主で、眼光鋭いまるで刑事のような外見だった。

「北千束署の岡本と申します」

「同じく千木良です」

警察の人間がいきなり事務所にいたので、町村は困惑したような表情をした。

「副会長の奥村さんが遺体で発見されました」

「えぇー、どうしてですか。私には何も連絡がありませんが」

「まだ遺体が発見されて4時間くらいですので、ご遺族のかたにも今捜査員が行っているような現状でして」

「どこで死んだのですか」

「洗足池の公園の茂みのなかに遺体がありまして、これは殺人事件なのです」


殺人事件だと聞いて町村の顔は蒼白になった。




#3に続く。





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