第4話 初めての学園 その4

初めての学園 その4


「じゃあ、受験番号が呼ばれた生徒からこっちに来てくれ」


 暫く雑談をして過ごしていると、準備が整ったのか係の学園生から呼び出しがかかり始める。

 気がつけば、簡易机の周囲には覆いが立てられ、受験中の内容はうかがい知ることが出来なくなっている。


「なにやるんだろうなぁ?」


 ハンスの言葉にルドヴィガと二人で首を傾げる。こればっかりは一切の予想も立たない。

 魔法の素養に関する試験というのだから、魔法に関したなにかをさせられるのは確かだろうが、ここまで事前情報を制限するような試験とは一体なんだろうか。


「じゃあ、一番の受験生!」

「は、はいぃ――!」


 学園生に呼ばれ、気の弱そうな三つ編みの生徒がおずおずと覆いの中に消えていく。

 周囲で順番待ちをしている受験生達の視線は、自然と覆いへと向けられた。

 何が行われているのか、何が起こるのか。

 誰かがツバを飲み込む音すら聞こえそうなほどに、張りつめた静寂が周囲に満ちる。


『じゃあ、はい。この球に手を置いて』

『お、置きましたぁ!』

『うん、じゃあこれに向かって魔法を起動してみて』


 覆いの向こうからは幽かに学園生の指示と、それに応じる女生徒の声がする。

 受験の内容は、どうやら魔法の素養を検知する何らかの球――装置だろうか――に、手を置いて魔法を発動させる物らしい。


「おもったよりも単純なのかな?」

「どうだろうな」


 ルドヴィガの呟きに、曖昧な頷きを返す。

 装置による素養検査は魔法の技能や技術に依らない、純粋な肉体としての性能を測る物だ。

 数字として出てくるのは主に、マナ――大気中に存在するとされる情報素子マナの変換効率に関する情報である。

 概ね、これは呼吸に準ずる物として魔法学では考えられている。

 分かりやすく言うなら、肺活量だ。

 体内にどれだけの酸素を取り込んで、どれだけエネルギーに変えられるかの指標として使用される肺活量という指針。

 それに対して、魔法学では情報素子マナをどれだけ自分の中に効率よく取り込むことが出来るのかを計測する――ことがある。


(だが、これは別段、魔法試験と呼べる物ではないような?)


 自分が情報素子マナの変換効率をどれだけ有しているのか、ということを測定することは普通に生活している人間ならば、まず行わない。それは事実である。

 ただ、例えばの話だが一流のアスリートや兵士達ならば自分の肉体の性能がどれほど鍛えられているのかを客観的に判断するため、情報素子マナの変換効率の検査を毎日のように測定することはある。

 彼らにとってのそれは、体重測定や体脂肪率の測定とほとんど変わらない意味合いだ。


(どっちかというと健康診断だよな、これ)


 想像通りのことが、あの覆いの向こうで行われているとするならば、そうなる。

 同じような疑問を抱いた人間は自分だけではなかったようで、はっきりとはしない物の訝しげに首を傾げている受験生がちらほらと見受けられた。

 口に出さないのは、まさか、そんなはずはあるまいという自己否定の結果。

 そして、口にしてそれが現実になってしまうことの恐ろしさからだろう。


「なぁ、これ健康診断じゃね」


 そして、そういった恐れに対して無謀とも言える鈍感さを持つハンスは容赦なくそれを口にする。

 対して、周辺の生徒達は目を輝かせんばかりの鋭さで彼を睨み付けた。


「――冗談デス」


 さて、そんな牽制が行われている間も覆いの向こう側では着々と試験が進められていた。


『さぁ、リラックスして。球に意識を集中して――そう、そうだ! まだまだ――君ならもっと行ける、上を目指せる!』

『は、はぃぃ――、がんばりますッ!』

『いいよ、いいよ、その調子! 君の両手に情報素子マナ乗ってるよぉ!

 ほら、見える見える、魔力が迸ってまるでドラゴンの羽みたいッ!』

『ほぉぉ――ッ!』


 覆いの外からは、電撃が迸っているかのごとき、激しい明滅がうかがえる。

 それに伴う、乾いた破裂音に学園生のかけ声が被さっている。

 覆いをくぐるまでは気弱そうだった受験生も、今ではすっかりと乗せられて雄叫びを上げるほどのテンションの高さ。

 逆に、その様子を窺っている他の受験生達はどんよりと曇り始めていた。


「一体、なにやってんだろうな、あれ」


 先ほど健康診断と言ったハンスだったが、もはやその枠に留まらない雄叫びの数々に対し、既に前言を翻して及び腰だ。

 まさか自分達の所だけおかしいのだろうか。

 気になり、他の受験が行われている覆いの方を覗き見ると、こちらと同様、受験とは思えない雄叫びの数々が漏れ聞こえている。


『こ、この宝珠の輝きは、まさか百年に一度しか生まれぬという伝説の――ッ?!』


 七色に輝く光が漏れる覆いの向こう側では、魔王を倒す宿命を帯びた選ばれし者が誕生した雰囲気が作られていたし。


『ば、バカな――これは、学科長でも壊すことの出来なかったスカウターだぞ!

 それを、受験生ごときが、ありえん。

 ――ええい、機器の故障に決まっている、代わりを早くもってこい!』


 爆発音の聞こえた覆いの向こう側では、情報素子マナの測定器が捉えられないほどの、膨大な力を持った受験生が現れた、尋常ならざる雰囲気が醸し出されている。


「深く、考えるのはやめようか」

「――そうだな」


 自分と同じように、周囲を観察していたルドヴィガの提案に俺は深く頷いた。

 どうやら、これは「実技試験」という名のこういった「催し」らしい。


 暫くして、覆いの向こう側から現れた気弱そうだった受験生の女の子は、見違えるほどに爽やかな表情を浮かべ、輝かんばかりの笑顔を咲かせていた。

 係を務めた学園生もどことなく、その仕上がりに満足げな笑みを浮かべている。

 少女の肩には激しい修行を思わせる稲妻のようなオーラが溢れかえり、その服装は激しい戦闘を物語るように肩口から敗れ去っていたけれど。

 そのことを指摘するだけの勇気を持った受験生は誰も居なかった。

 ハンスでさえも、呆気にとられてその様子をただただ見送っている始末である。


「次、受験番号二番の受験生!」

「――――。」


 二番の受験生なのだろう、中肉中背の男子生徒がゆっくりと覆いへと近づいていく。

 一度、ちらっと後ろを振り返った彼の顔は真っ青になっていた。

 俺たちは、その彼の様子に、静かに手を合わせて祈りを捧げるのだった。



「あ――、疲れたわっ!」

「本当にね」

「ああ」


 実技試験と言う名の催しが終わり、俺とルドヴィガとハンスの3人は会場を後にしていた。

 他の受験生達もとぼとぼと、みな足取り重く帰路についている。


「聞いた話によると、これ、毎回の恒例行事らしいよ」

「そうなのか」

「うん。なんでも、兵学部学科長が『受験生は、実技試験で特別な存在として持ち上げられると喜ぶ』という事を書物で知って、それを取り入れたのが始まりとか、なんとか」

「誰か止められなかったのかよ」

「止まらなかったんだろうな」

「ちなみに学科長は最初に挨拶してたラウラ教授だよ」


 ああ、とルドヴィガの言葉に沈痛な面持ちでうな垂れる。ハンスも、口にしたルドヴィガ本人も同じ様子だった。

 あの暴力バイオレンスなドラゴンそのものみたいな人が学科長だとしたら、たしかに。

 誰も止められなかったとしても致し方ないという、説得力に溢れている。


「それで、後学のためにアンケートを採りたいんだけど、君たちは何をさせられた?

 私は

『その宝玉の色は、まさか七色の属性に適性がある虹色ノウブル・カラーの魔法使いだとッ?!』

 って言われたけど」

「俺は机の上の紅い水晶玉弄ってたら、色が消えてよー。

 『まさか、その力はあらゆる魔法を打ち消すという無属性オール・キャンセラー――ッ!?』

 って仰け反られたわ」

「俺は、なぜか台座に突き刺さった剣があってな。

 それを抜いたら、

 『おぉ、とうとう――とうとうお帰りになられたのですね、我らが王よッ!』

 ってあがめられたよ」


 俺に至っては、最早、魔法なんて一切関係ないように思えるがきっと気のせいだ。

 三人そろって深いため息をついた。

 こんなので学園生活をやっていけるのだろうかという不安が頭をよぎらなくもない。


「そういえば、ルーに、ザカリア。お前らは学部、どこなんだ?」


 ふと、思いついたような素振りでハンスがこちらに話を振ってくる。

 そういえば、受験会場でなんやかやと話をしたが、どこ学部に所属するのかを口にした記憶がなかった。

 エリュズネル学園には分類して四つの学部が存在している。


 一つは一般学部。

 これは広く、文学から数学、歴史学まで様々な学問を学ぶことの出来る学部だ。

 最も多くの学科に分かれている学部でもあり、生徒の所属数も最も多い。

 入学にかかる費用も学部の中では二番目に安いため、エリュズネル学園の中では一般人に人気の高い学部でもある。


 二つ目はへい学部。

 名前の通り、兵士としての訓練を基本とした学部で身体に動かすことに特化した授業カリキュラムが組まれている。

 なお、名前には物々しい雰囲気があるが将来国に帰ってから軍に所属したい生徒のための学科と、それ以外の一般生徒の学科に分けられており、授業内容もそれぞれで大きく異なる。

 そのため、純粋に身体を動かすことやその仕組み。果ては食事のもたらす作用について学びたいという生徒達がこの学部に通っている。


 三つ目は錬金学部。

 四つある学部の中では最も新しい学部で、主に魔道具レウプリカと呼ばれる道具の作成や、構築するための理論。

 果ては魔道具レウプリカに対して、どのように魔法を仕込むかといった技術に関する研究を行う学部である。

 近年では賢石シュヴァイゼンと呼ばれる情報処理装置の普及にともなって志望者数が増える傾向にあり、急成長を遂げている学部である。


 そして最後の四つ目が魔法学部。

 魔法学全般についてを教える総合学部であり、魔術セイズ言霊フサルク魔道具レウプリカの三種の魔法について日々、研究を行っている。

 錬金学部とは一部、教えている内容に被りがあるが、こちらは魔道具レウプリカの内側に込める「作用」についての研究を行っており、器やどのように作用を封じ込めるか、といった研究を主体としている錬金学部とは、細かいながらも差異となっている。

 実際の所、研究内容が深まるにつれて両学部を横断的に受講する研究者も多数存在するため、姉妹の様な関係の学部と言える。

 なので、度々、どちらが姉か妹なのかで揉めるのだが。

 魔法学部はこのエリュズネル学園における最も権威ある学部とみられており、北方大陸ニヴルベルグの魔法研究における中心地となっている。

 同時に、最も受験難易度やその費用が高い学部としても知られており、この学部に所属することが貴族にとって、一種の勲章ステータスとなっている。

 そのため、一定以上の財力や権力を持つ貴族達はこぞってこの学部を目指し、学力不足から何度も浪人を重ねている者たちも少なくないとか。


 エリュズネル学園には以上の四学部が存在しており、ザカリア達高等部の生徒達は自分達の希望する進路にのっとって、受験時に学部を選択することとなっている。

 高等部の上にある大学部とは、授業内容の専門性では一歩引いた立ち位置にあるため、細かい学科レベルでの選択が出来る用になるのは高等部三年に昇級するときだ。

 しかし、それでも専門分野にいち早く触れる機会を増やせるという理由から在学生や、卒業生からの評判は高いシステムとなっている。


「ああ、言ってなかったね。私は一般学部だよ」

「おお。俺も一般学部だから、一緒にあれこれ出来るな。

 ザカリアは?」


 ルドヴィガに続く形で、ハンスも答えを返す。

 そうか、二人とも一般学部か。

 片や、商人としての大成を目指すハンス。

 片や、探偵の名家に生まれた者として広い知識の習熟を求められるルドヴィガ。

 二人の家柄や学校へ通っている目的を考えると、確かに理に適っていると言える。

 当たり前と言えば、当たり前の事実に少しばかり寂しさを感じながら、俺は自分の学部を口にした。


「魔法学部だよ」

「「おおー」」

「受かってたらの話だけどな」


 ともあれ、今日の実技試験の内容を思い返す限り、今日、この場所に集められた受験生達は実質的に、みな合格済みという事なのだろう。

 学術試験の方がどのように行われたのか、生憎あいにく自分は知らないのだが、なにも、全員がこの場所に集められて行われたとは限るまい。


「そうだね、私達も受かっているかどうか、わからないんだった」

「あー、今日の試験がめちゃくちゃだったからすっかり受かった気でいたわ、俺」


 三人で顔を見合わせ苦笑する。

 何となく、それぞれ同じこと合格したことを察しているのだろうと思われた。


「まだ、お祝いするには少し早いよね」

「流石にな」

「じゃー、あれだ。入学式が終わった辺りにでもぱーっとやろうぜ。三人で集まってさ」


 ハンスの提案に大きく頷く。ルドヴィガも申し出に了承している。


「じゃあ、連絡先でも交換しようか」


 言いながら、ルドヴィガは肩から提げていた鞄から一つの宝石を取り出した。

 四角い板状に加工された宝石――賢石シュヴァイゼンだ。

 正しくは「賢者の石シュタイン・ヴァイゼン」と呼ばれるそれは、近年になって爆発的に普及した魔道具レウプリカである。

 宝石の中にカットを応用して魔術セイズを封じ込めるという技術は太古の昔から存在したが、素材の効果さ故に一般に普及するまでに至っていなかった。

 しかし、人工宝石技術の確立により、その状況は一変する。

 安価に供給されるようになった宝石は魔道具レウプリカの触媒として広く利用されるようになり、研究が爆発的に進むようになる。

 そうして誕生したのが賢石シュヴァイゼンという情報処理装置だ。

 始め、情報素子マナを供給してやれば計算を始めとする様々な単純作業をこなす装置として賢石シュヴァイゼンは登場した。

 その後、商品開発が進むにつれて小型化と大型化の二つの分野に用途は分かれていき、小型の賢石シュヴァイゼンはもっぱら、通信用途に使用されるようになった。

 現在では大型賢石シュヴァイゼンの方で確立されていた様々な技術の小型化が進み、両者の間に純粋な処理能力を除いて、大きな差異はなくなりつつある。

 なお、賢石シュヴァイゼンの中に封じ込められた魔術のことを賢石魔術シュヴァイゼン・セイズと呼んでいたが、現在では賢術ヴァイズと略称で呼ばれることが多い。

 通信やメッセージ交換にゲームなど、世の中には様々な賢術ヴァイズが出回り、利用者を楽しませている。


「じゃあ、リーンでいいか?」

「ああ」

「わかったよ」


 ハンスの声に、みな、通信用の賢術ヴァイズとしてはポピュラーなモノを起動させると連絡先を交換する。


「よし、これで連絡取れるな!」

「そうだね。授業の登録とかで困ったら連絡しても良いかな」

「俺は構わないぜ。ザカリアは?」

「寧ろ、一般学部の授業で聞きたいことがあったら連絡させて貰うさ」


 ちなみに、魔法学部でも一般教養に関しては一般学部と合同で授業を受けることになっている。

 これに関しては確保出来ている教授の人数限界と言ったところなのだろう。

 入学者数に応じて教授を確保するよりも、教授に会わせて授業を受ける生徒を調整する方が遙かに運営としてはやり易いに違いない。


「じゃあ、とりあえず今日はこれで解散、かな」


 三人で会場からぶらぶらと歩いていたが、学園敷地の北方にある高等部区域からはそろそろ外れる位置だ。

 ルドヴィガは、どうやら定期的に学園の外と内を行き来する大型自動船フルーク・シフを利用するようだ。

 大方、家族あたりが学園の外の宿泊施設に泊まっているのだろう。


「ああ、俺もシフに乗るよ。要らないって言ってたんだけど、親が様子を見に来てるんだ」


 いつまでも子供扱いとか、やんなるね、全くと、まんざらでもない様子でハンスは呟いた。


「じゃあ、俺だけだな」


 学生寮の方を指さしながら、俺は二人に別れを告げる。


「ああ、そういえば――」


 と、学園寮の方へ歩き出そうとしたところで不意に、ルドヴィガが声を上げた。


「どうした?」

「いや、魔法学部だっていうなら一つだけ気になっていたことがあったんだけど」


 いいかな? と申し訳なさそうに尋ねるルドヴィガに対して、俺は了承の頷きを帰す。

 ごめんね、と口にしてからルドヴィガは告げた。


「いや、魔法学部には有名な双子のハイエルフが居るって話なんだ。

 ユグライア樹王国の巫女姫姉妹なんだけど――って、どうしたんだい、ザカリア?」

「いや――」


 その情報を耳にした瞬間、俺は、顔の筋肉が意識を離れて引きつるのを感じた。

 完全に反射的なモノだ。

 おそらく、自分は今、猛烈にまずい料理を口にしたような、形容しがたい表情を浮かべていることだろう。

 突然そのような表情を浮かべたこちらを気遣わしげに見てくるルドヴィガには悪いが、その話題は、俺にとってちょっとした、急所だった。


 もっと直接的に言ってしまえば、、後回しにして、考えたくないこと、である。


「――いや、なんでもない。」

「そ、そう」


 それだけを、どうにか絞り出すように口にしたこちらに対して、ルドヴィガはどのように言葉を続けるべきか逡巡している様子だった。

 いかんいかん、と両の頬を手で叩く。

 近頃油断しているせいか、分かりやすく感情を表情に出しすぎている。


「それで、その双子姫がどうした?」

「ああ、いや、下世話な話で悪いんだけどさ。

 もし会えたら写真、とまでは行かないまでもどういう人柄だったのか所感を貰えたらってね。

 ユグライアの巫女姫は本来、国外に出てくるような身分の人じゃないって話だからね。

 双子の姫様はまだ巫女としての役割を正式に継いだ訳じゃないらしいけれど、それにしたって珍しい話だ」


 だからね、とルドヴィガは続けた。


「探偵の家の人間としては、少しばかり情報が欲しかった所なのさ」


 その言葉を、数瞬、俺は口の中で転がすように吟味した。

 どのように答えればいいのかを迷ったというのもあるし、いっそ、答えないという選択肢も考えた。

 何しろ、彼女本人が言うようにこれは、下世話な興味に類する話だ。

 探偵という名分めいぶんがあるとは言え、個人に関する情報を軽々けいけいに教えるべきじゃないという常識を破る理由にはならない。


「――まぁ、上手いこと知り合えたら、な」


 だから、妥協案としてその程度に留めた。

 幸運にも彼の二人と知り合えて、なおかつ、良好な関係が築けたら。

 その上で、ルドヴィガの事情を話して彼女たちのことを伝える了承を得られたら。


「――うん。それでいい。お願いするよ、ザカリア」


 言外に込めた様々な意味を咀嚼した上で、だろう。

 ルドヴィガは、こちらが隠れたくなるほどに清々しい笑顔で告げた。

 今日出来たばかりの友人ながら、出来る事と、出来ない事。

 期待していい事と、してはいけない事。

 そうしたささやかな機微に溢れた笑顔だった。

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