風鈴

たいやき

風鈴

チリン…チリン…。


今日も風鈴は心地よい涼しげな音色を奏でている。


特にこのYは風鈴を心から愛していた。


特に一人暮らしを始める時に母から譲り受けたこの風鈴はYが物心ついた時から今までずっと辛かったこと楽しかったこと全てを共に過ごした唯一無二の風鈴であった。Yはよくこの風鈴に向かって自分の恋の話をしてみたりもしていた。それほどまでにYはこの風鈴に愛着を持っていた。


チリン…チリ…ギ…ガゴッガゴッガガガガガガ…


ある残暑が厳しい昼時。急にYの大切な大切な風鈴が凄まじい不協和音を奏で始め、昼寝をしていたYはたまらず飛び起きた。

今までの人生を共に歩んできたと言っても過言ではない風鈴がおかしくなってしまったのを見てYはなんとかしてあげなければという使命感を感じた。


しかしながら、風鈴の作り自体は正常であったのでYはひどく困惑した。


Yは様々な場所を訪ねた。風鈴作りを生業としている所は数十軒ほど回ってみた。しかし、それらしい回答は帰ってこなかった。

物の話が聞けると言う怪しい場所へも行ってみた。が、途中からなんの話かわからなくなり、しまいには謎の宗教に勧誘される始末だった。


しかたなくYは新しい風鈴を買うことにした。相棒の風鈴も、もう捨てるしかないと思った。数十年の付き合いだったのだが、しょうがなかった。Yの使命感も完全にお手上げだった。


Yは気分転換にと思って、少し女性らしい可愛げのある風鈴を買った。


家に帰り、新しく買った風鈴を今だに不協和音しか奏でない相棒の隣に吊るしてみた。


ガガガガガガ…ガコッ…ギッ……チリン。


すると、相棒の不協和音は消えていた。

代わりに今まで聞いたこともない純粋で真っ直ぐな音を奏でるようになった。


どうやらこの風鈴も恋に飢えていたらしい。







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風鈴 たいやき @taiyaki05

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