第2話 彼岸花の夢
「未花、その本図書館で借りたの?」
右手に乗せられている辞書のように分厚い本を見る。どうやら植物図鑑のようだ。
「うん、そうだけど…どうして?」
いや、流石にその本をわざわざ学校に持っては来ないだろうと思って。中学校の近くには大きな図書館があって、生徒はよくそこを利用する。
「私、将来植物にかかわる仕事に就きたいんだー。」
未花は図鑑をパラパラとめくった。たくさんの写真が流れていく。
「へぇ…あ、この花見たことある。」
「ああ、この花きれいなピンク色で好きなんだよね。秋に花畑ができて、きれいなんだ。」
ダイヤモンドリリーとも呼ばれる…か。
「あ、あと花言葉も好きなんだ。」
未花は指を文字に沿わせる。
「花言葉は――――」
「夢、か。」
朝だ。スピーカーから流れる音楽で目を覚ます。田舎特有の電柱に取り付けられた、あれだ。17時にも音楽が流れる。
「おはよう、朝ご飯できてるわよ。」
母が言う。
朝起きたらご飯ができているのは学生時代を思い出して懐かしくなる。夜中に充電をし忘れたせいか、画面に表示されている緑色は箱の半分も満たしていなかった。
「あ、あんた携帯はしっかり充電しておきなさいよ。私せっかく最新のガラケーに機種変更したんだから、もっとメール送ってくれてもいいのよ?」
エプロンから携帯を取り出し、見せびらかすように開いた。
「はいはい、気が向いたらやっておくよ。」
最近やたら連絡多いと思ったら、そのせいだったのか…。
朝ごはんも食べ、僕は早速朝の散歩にでかけた。空には相変わらず雲は一つもない。この天気はしばらく続くそうだ。
「あ、シオン君。おはよう。」
未花と夏鈴が空き地の木の下で遊んでいた。
「おはよう。夏鈴ちゃんもおはよう。」
夏鈴ちゃんは未花の後ろに隠れてしまった。
「夏鈴ちゃんが外に行きたいって言って」
夏鈴ちゃんは木陰にしゃがんで花を摘んでいる。植物に興味があるところが未花に似ている。
「あ、そうだ私お茶買ってくるからこの子ちょっと見ておいてくれない?」
うん、いいよ。
「ごめんね、ありがとう!」
そう言って未花は歩いて行った。この近くに自販機あったっけ…。
それにしても、夏鈴ちゃんは地面を見てて飽きないのか疑問だ。小さい子供と話すのはあんまり得意じゃないけど、折角だし話しかけてみようか。
そう思って一歩踏み出した瞬間、夏鈴ちゃんは地面から顔をあげた。
「あ、ごめんね邪魔だった?」
夏鈴ちゃんは首を横に振った。
「ううん。ねえお兄さん、夏鈴あそこに行きたい。」
人差し指の先には、山に続いた石畳の階段があった。終わりが見えないほど長く、そしてかなり急だった。
「んー、でも今言ったら未花お姉ちゃんがびっくりしちゃうから、お姉ちゃんが帰ってきてからにしようか。」
夏鈴ちゃんはちょっと不服そうだ。こ、これじゃあ仲良くなれないじゃないか。そうだ、畑中だったらすぐ仲良くなりそうだな。あいつコミュ力高いし。
「どうしたの?階段の上に何かあるの?」
夏鈴ちゃんはまたも首を振った。
「ううん。お花を探してるの。でも見つからなくて…あそこならあると思って。」
「そっか、なんていう名前?」
「わかんない。写真しか見てないから。」
夏鈴ちゃんはワンピースのポケットから写真を取り出した。そこには幼い頃の僕と未花が写っている。
「この、女の子が持ってるお花。」
未花は綺麗な桃色の花を持っていた。後ろには開けた景色と、羊の大群のような雲がある。確かに、これは高いところの写真だ。
未花が戻ってきたら一緒に行こうか。そう思って待っていたが、未花はしばらくしても帰ってこなかった。きっと忘れて、家に帰ったのだろう、そう思うことにした。
「夏鈴、そろそろ帰らないと。」
夏鈴ちゃんは子供用の携帯電話の画面を見た。
気づけば5時の音楽が流れていた。もうそんな時間か。未花の家はすぐだし、携帯電話を持ってるなら一人で帰らせても大丈夫だろう。
念のため僕の携帯番号を教え、何かあったら電話をかけるように言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます