37石 文香の行動力

37石 文香の行動力




 プールに3人で遊びに行った翌日。

 何時ものようにリビングのソファーでひとり寝転がっていた。


「あー暇だ」


 相変わらず余は暇だった。


「そういえば昨日からツブヤイター見てなかったな」


 ふとツブヤイターを見ていなかったことを思い出す。


「……ツブヤイターでもチェックするか」


 寝転がりながらスマホを取り出してツブヤイターを開く。


「……ん?」


 何時もよりも通知が多い気がする。

 気になったので通知の内容を見たりエゴサしてみると理由がすぐに分かった。

 どうやら昨日のプールで余のことを目撃した者が居て、それをツブートしたらしい。


「なるほどな」


 まぁバレるか。

 目撃ツブートは数人がしていたが、写真を載せるということはしてなかったようで、調べても出てこない。

 ついでにレイラのこともバレていたが、エルミナについては書かれていなかった。


「これくらいなら問題ないな」


 一応あとでふたりに話しておこう。

 そう思いながら何時も通りに面白そうなツブートにいいねと返信をしていく。


「ウルオメア様、昼食が出来ましたよ」


 ツブヤイターをやっているとリビングにレイラがやってきてそう言った。

 どうやらツブヤイターをしているうちに昼になっていたようだ。


「分かった。今行く」


 ツブヤイターを閉じてスマホをポケットに突っ込んでからリビングを出てダイニングに移動する。

 ダイニングでは既にエルミナが座って待っていた。


「悪い。待たせたか」


「ううん。わたしも師匠に呼ばれてきたばかりだよぉ」


「それは良かった」


 レイラが座ったのを見て、余も座ってテーブルの上を見る。

 テーブルの上には湯気の出ているパスタが3皿乗っていて、とても良い香りを放っていた。


「カルボナーラか。美味しそうだ」


「師匠の料理にハズレは無いからねぇ」


「確かに」


「ありがとうございます」


「では、いただこう。いただきます」


「いただきまぁす」


「いただきます」


 3人でそう言って皿の横に置いてあるフォークを持つ。

 そのフォークでクリームに絡めながらパスタを巻き取り口に運ぶ。


「うむ。美味しい」


 黒コショウが効いていてピリッと辛い感じが余は好きだ。


「本当だねぇ。濃厚で美味しよぉ」


 エルミナと美味しいと言い合っていたが、レイラは不満そうだ。


「次はもっと美味しく作ってみせます」


 どうやらレイラとしては満足出来る出来ではなかったようだ。

 本当に美味しいのだがな。

 そう思いながら余は食べ続ける。

 そうして昼食を食べ終わった。


「ごちそうさま」


「ごちそうさまぁ」


「ごちそうさまでした」


 昼食後、3人でお茶を飲んで一息つく。


「ふぅ」


「あ、そういえばウーちゃんに報告しておこうと思ったことがあったんだぁ」


「む?」


 そこで余はツブヤイターのプール目撃のことが思い浮かぶ。


「それはもしかして昨日のプールの目撃情報についてか?」


「あ、もう知ってたんだぁ」


「目撃情報……ですか」


 やはりエルミナの報告とはプールの目撃情報についてだったか。

 どうやらレイラはまだ知らないようだ。


「師匠は知らないから説明するよぉ」


「お願いします」


「昨日のプールでウーちゃんに気が付いた人が何人か居たみたいでねぇ。ネットにプールでウーちゃんを目撃したっていう情報が流れているんだぁ。あと師匠のこともねぇ」


「それは大丈夫なのですか?」


「調べてみたんだけど、別にウーちゃんや師匠の写真がネットに上がっている訳じゃないから問題ないと思うよぉ。目撃情報が出たのも遅かったしねぇ」


「うむ。余もエルミナと同じ意見だ。幸いなことにエルミナのことはネットに情報が出ていないし、家まで尾行された訳でもないからな。尾行者は居なかっただろ?」


「確かに昨日プールから家まで私たちを尾行していた者は居ませんでした」


「レイラがそう言うなら間違いないだろう」


「そうだねぇ」


「なら問題ないということですね」


「うん。あ、気になることが、ただひとつだけ」


「なんだ?」


「ウーちゃんを目撃した人を他の人たちがめちゃくちゃ羨ましがっているんだよぉ」


「それはしょうがないだろ」


 まぁ気持ちは分かるが。


「だから次の配信で水着配信とかぁ」


「絶対やらん」


 何故家で水着で配信しなきゃならんのだ。


「あはは。冗談は置いておいて次の配信どうするのぉ?」


「そうだなぁ……プールでのネタも出来た訳だし、それで雑談しても良いが」


「それだけだとちょっと物足りないよねぇ」


「うむ。雑談続きもあれだしな。だからプールでのことを話しつつゲーム配信で良いだろう」


「そうだねぇ。じゃあウーちゃんと師匠でゲーム配信で良いかなぁ」


「私もですか」


「うん。せっかく師匠も登場したんだし、みんなも師匠の姿を見たいと思うよぉ」


「そうですか。分かりました」


「あとはなんのゲームをするかだな」


「またMFBGやる?」


「うーむ。やるなら別のゲームが良いと思う。前回のゲーム配信がMFBGだったからな。MFBGはまた今度で良いだろう」


「おっけぇ。希望はある?」


「レイラもやるのだし、どうせならMFBGの時のようにリスナーも参加出来るようなゲームが良い。それと出来るだけ安価なやつだ。新しく買おうにも資金が厳しいからな」


「分かったよぉ。ちょっと探してみるねぇ」


「うむ、頼んだ。では解散しよう」


「はぁい」


「かしこまりました」


 そうしてダイニングで解散。

 レイラは家事。

 エルミナはゲーム探しを始めた。

 余は再びリビングに戻ってソファーでツブヤイターの続きを。


「うーむ。さっきは見た時は気にしてなかったが、エルミナの言う通りだな」


 余やレイラの水着姿を見たかったというツブートが結構多い。

 まぁだからといって水着姿で配信など絶対にしないが。


「そういえば文香の奴はどんな反応をしているんだろうか」


 気になったので、さけるイカのアカウントを開く。


『ウルオメア様がプールで目撃!?

 水着姿ってマ!?

 僕もすぐ行く!

 待っててウルオメア様!』


「ん?」


『ウルオメア様を目撃したっていうプールに到着!

 ウルオメア様を捜索するよ!』


「おい」


『わあ!

 水着姿のウルオメア様を発見!

 繰り返す、水着姿のウルオメア様を発見!

 すごいセクシー……鼻血が止まらない』


「文香の奴、プールまで来てたのかよ! しかも、ちゃっかり発見してるし」


 行動力ありすぎるだろ。

 しかも、恐ろしいのがプールに行くというツブートからプールに到着したというツブートまで10分くらいしか経っていない上に発見まで5分しか掛かっていないことだ。

 どうやってその短時間で移動したんだよ。

 偶然近くに居たのか?

 しかも、あんなに大きな場所でピンポイントに余を見つけるとは。

 恐ろしいほどの行動力と嗅覚だ。


『あ……すぐにウルオメア様更衣室に行っちゃった』


 まぁ余の発見情報が上がったのが、もう遅い時間だったからな。


『もっと早く来ていれば……更衣室?

 更衣室!?』


「まさか文香の奴、更衣室までついてきたのか!」


 気になるが続きのツブートはない。


「どうする? 文香に連絡するか?」


 こんなことで連絡するのもなぁ。

 しばらく悩んだ結果、時間もあるし電話して直接聞くことにした。

 電話に出なかったらメッセージを送っておこう。

 そう思って文香に電話する。


『もしもしウルオメア様ですか!』


 ワンコールで出やがった。


「そうだが」


『あぁ! ウルオメア様から電話してくれるなんて感動です!』


「そ、そうか」


『それでどうしたんですか?』


「実は聞きたいことがあってな」


『なんでも聞いてください!』


「お前のツブヤイターを見たぞ。昨日プールまで来たようだな」


『あ、バレちゃいましたか!』


「隠す気ないだろ」


『えへへ』


「まぁいい。それで気になったのだが……まさか更衣室までついてきてないだろうな?」


『……でへへ』


 コイツ……。


『女同士っていいものですよね!』


 絶対ついてきやがったぞ。


「はぁ……」


『安心してください! 更衣室では写真なんて撮っていませんから!』


「そうか……ん?」


『あ……』


「更衣室では?」


『…………でへへ』


 コイツ、プールで余の写真を撮ったな。


「……はぁ」


『ごめんなさい』


「まぁ写真くらい構わないがネットに上げるなよ」


『もちろんです! 僕だけの宝物ですから!』


「あともうちょっとツブヤイターで自重しろ」


『了解です!』


「それだけだ。一応どんな写真撮ったかだけあとで送ってくれ」


『分かりました!』


 その後、文香から余のグッズだらけの部屋の壁に大きな余の水着写真が貼られている画像が送られてきた。

 本当に文香の行動力はどうなっているんだ。

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