36石 楽しいプール

36石 楽しいプール




 余はリビングで外から入ってくる日差しを浴びる。


「うむ。今日は絶好のプール日和だな!」


「そうだねぇ!」


 エルミナが余の隣で嬉しそうに言う。

 やはりエルミナも楽しみなのだろう。


「ウルオメア様、準備出来ました」


 そう言ってレイラがリビングに入ってくる。


「よし、これで全員準備出来たな」


「おっけぇ」


「では、プールに出発だ」


「はぁい」


「はい」


 3人で家から出てプールに向けて出発する。

 エルミナは駅への道中でも楽しそうにしていた。

 少し前を楽しそうに歩くその姿を見て余とレイラは顔を見合わせて微笑む。


「エルミナは本当に楽しそうだな」


「はい」


「それだけ電車やプールが楽しみなのだろう」


「それも、もちろんあると思います。しかし、エルミナが1番楽しみにしているのはウルオメア様と一緒に遊ぶことでしょう」


「そうなのか」


「エルミナがウルオメア様と最後に遊んだのは、ウルオメア様が皇帝になる前のことですから。ウルオメア様は皇帝になってから、こちらの世界に来るまでまともに遊んだことはなかったですよね」


「……そうだったな」


 皇帝になってからは忙しすぎて遊んでいる暇などなかった。


「だから、ウルオメア様と一緒に遊べることやウルオメア様が遊ぶということ自体が嬉しいのですよ。もちろん私も同じです」


「そうか」


 エルミナもレイラもそんなことを思ってくれていたのだな。


「なら、今日はふたりが疲れ果てるまで遊んでやろう」


「楽しみにしております」


 そうしてレイラと話していると駅に着く。

 駅はそれなりに混んでいる。

 平日の朝だからしょうがないな。


「ウーちゃん、わたしにもICカード買ってねぇ」


「分かった分かった」


 エルミナに手を引かれて券売機の列に並ぶ。

 すぐに余たちの番になりエルミナの分のICカードを買って1000円チャージしてからエルミナに手渡す。


「これがICカードかぁ」


 エルミナは興味深そうにICカードを見る。


「エルミナは余のICカードを前に見ただろう?」


「そうだけどぉ。これは出来たばかりのICカードだからぁ」


 余には違いが分からん。

 3人でICカードを手に改札に移動する。


「エルミナ、改札の通り方は分かるか?」


「もちろん予習済みだよぉ」


 そう言ってエルミナはICカードを使って改札を問題なく通る。


「問題なさそうだな。余たちもいくぞ」


「はい」


 余とレイラもICカードで改札を通ってエルミナに合流。

 そのまま階段を上がり、ホームに移動した。

 ホームにも多くの社会人や学生服姿の学生が居て、列をなしている。


「人が多いねぇ」


「平日の朝だからしょうがない」


「これじゃ電車を十分に楽しめそうにないねぇ」


「電車は帰りに楽しんだ方が良さそうだぞ」


「そうだねぇ」


 エルミナは少し残念そうだったが、帰りの電車もあるのでそっちを楽しむことに決めたようだ。

 3人で列に並んで電車を待っていると数分でホームに電車が入ってくる。


「きたぁ」


 電車のドアとホームドアが開くが、電車からは誰も降りない。

 中は混み合っている。

 そこへ次々に人が入っていく。


「うわぁ」


「この感じも久々だな」


「ウルオメア様の後ろは私がガードします。エルミナは前を」


「はぁい」


 人の流れに乗って余たちも電車に乗る。

 余の前をエルミナが、後ろをレイラがガードしてくれる。


「すまないな」


「当然のことです」


「気にしないでぇ」


 ふたりにガードされながら電車の中で揺られること30分ほど。

 やっと次が降りる駅だ。

 まぁ乗り換えなんだが。


「次で降りて乗り換えるぞ」


「はぁい」


「はい」


 駅に着いて電車のドアが開くと一斉に人々が動き出して電車から降りていく。

 余たちも流れに乗って電車を降りる。


「今までほとんど人が降りなかったのに、ここはみんな降りるんだねぇ」


「凄まじい流れでした」


「ここは多くの路線があるからな。この駅で皆乗り換えるのだ」


 3人で駅構内を移動して別の路線のホームを目指す。

 途中で改札を一度出て、別の改札を通る。


「わざわざ改札を通り直さなきゃいけないんだねぇ」


「面倒ですね」


「これは昔から変わらないらしいぞ」


 そんなことを話しつつホームに到着。

 ホームにはそれなりに人が居るが、先ほどのまでの混み具合ではない。


「前よりは混んでないねぇ」


「この駅に来るまでが大変なのだ」


「なるほど」


 そして電車がホームに入ってきて3人で乗り込む。

 中は混んではいるが、前の電車ほどではない。


「今度はぎゅうぎゅう詰めじゃあないねぇ」


「今回はふたりのガードは要らないな」


「そのようですね」


「これなら少しは電車を楽しめそうだよぉ」


 そう言ってエルミナは興味深そうに電車内を見回していた。

 そんな感じで電車をもう一度乗り換えて、目的の駅に到着する。


「着いたぁ」


 エルミナが楽しそうに電車から降りる。


「電車は楽しめたか?」


「うん! 帰りも楽しみだよぉ」


 エルミナはもう帰りの電車のことを考えているようだ。


「おいおい、これからプールだぞ」


「そうだったぁ」


 にへらとエルミナが笑う。

 本当に楽しそうだ。

 ホームを出て改札を通り、駅を出るとすぐに目的の大型レジャー施設の入り口が見えた。

 そこに向かって多くの人々が移動している。


「あれが目的地だ」


「あそこかぁ」


「皆向かっていますね」


「この駅で降りる人間は大体あそこ目当てだろうな」


「へー」


「余たちもいくぞ」


「うん」


「はい」


 3人で大型レジャー施設の入り口に向かう。

 入り口に入ってすぐのところにチケット売り場と施設内に入るゲートが設置されていて、どちらも多くの人々が並んでいる。


「まずはチケットを買わないとな。ふたりはそこら辺で待ってていいぞ」


「それなら私が買ってきますが?」


「それくらい余が買ってくる」


「なら、せめて一緒に並びます」


「そうか」


 結局、3人でチケット売り場の列に並ぶ。


「なんか子供より大人の方が多いねぇ」


 周囲を見ていたエルミナがそう言った。

 確かに子供の姿よりも大人の姿の方が多く見える。


「平日ならこんなものなのではないか」


「ふーん?」


 そんなことを話しているうちに余たちの番がやってくる。


「こんにちはー」


 すぐにチケット売り場の人間が声を掛けてくる。


「大人3人分頼む」


「大人3人で13500円です」


 余は金を払ってチケットを受け取り、列から離れる。

 ひとり4500円か。

 いい値段するな。

 口には出さずにそう思う。

 口に出すとレイラとエルミナが謝ってくるのが容易に想像出来るからな。

 そう思いながらゲートの列に並ぶ。

 列の進みは早い。


「これならすぐに中に入れそうだねぇ」


「うむ。ふたりともチケットを持っておけ」


「うん」


「はい」


 ふたりにチケットを渡して待っていると、予想通りすぐに余たちの番になり、チケットを係員に渡してゲートを通過した。

 ゲートを通過してすぐに男女別の更衣室の入り口が見えてくる。

 当然だが余たちが入るのは女の方だ。


「すー……はー……」


「ウルオメア様、どうしました?」


「いやなに、少し気合い入れていただけだ」


「あっそっかぁ。今のウーちゃんって……」


「……そういえばそうでしたね」


 ふたりも察したようだ。

 そう、余の興奮する対象は女性。

 そしてこの先は更衣室なのだから、当然女性が水着に着替えている訳で。


「ウーちゃん、大丈夫ぅ?」


「問題ない。事前に調べたのだが、中には個室ブースがあるらしい。余はそこにすぐ入る」


「へー。そういうのがあるんだぁ」


「だから、ふたりにロッカー代を先に渡しておく。着替えたら外の出入り口付近に集合だ」


 余はふたりにロッカー代を手渡す。


「よし、いくぞ!」


 余は気合を入れて更衣室の中に入る。

 中に入ると当然のように着替えている女が居るが、それを出来るだけ視線に入れないように足を進める。

 すると、すぐに個室ブースを発見出来た。

 余は足早に空いている個室ブースに入ってカーテンを閉める。


「はぁ……」


 成功だ。

 あとは水着に着替えて荷物を持って外に出るだけ。

 ……まぁ帰りもある上にシャワーも浴びなければならないからな。

 帰りの方がハードル高い。

 そう思いながら持ってきたバッグから黒のビキニの水着を取り出して、服を脱ぎその水着に着替える。


「うーむ。なかなか」


 個室ブースの鏡に映る自分の姿を見てそう呟く。

 クロスした紐がオシャレで、腰のくびれがセクシー。


「っと、自分に見惚れている場合ではない」


 余は脱いだ服をバッグに入れて、個室ブースと更衣室から入ってきた時と同じ感じでそそくさと脱出する。


「なんとかなったな」


 まだふたりは居ない。


「それにしてに広いな」


 眼前には大きなプールがいくつか目に入る。

 そこで、ついつい女性の水着姿に目がいく。


「あれはギリギリすぎないか? ぬおっ……あれなんて胸が溢れそう……じゃない!」


 これではただのエロオヤジではないか。

 自重、自重。


「おまたせぇ」


 そう言ってエルミナが更衣室から出てきた。

 競泳水着姿のエルミナ。


「胸が苦しそうだな」


 ついそう呟いてしまう。

 エルミナはニヤリと笑う。


「興奮する?」


「ば、馬鹿言うな」


「はぁい」


「まったく……それよりも余のバッグをロッカーに入れてきてくれ」


「分かったぁ」


 財布だけ取り出してバッグをエルミナに手渡す。

 それを持ってエルミナが更衣室の中に戻っていった。


「危なかった」


 実は少し興奮した。


「おまたせしました」


 それから少し待っていると、ビーチバッグを持ったレイラとエルミナが更衣室から出てくる。


「う……む」


 緑色のビキニとパレオ姿のレイラには普段あまり感じない大人の色気を感じる。

 その色気につい言葉が詰まった。

 ぶっちゃけ、めちゃくちゃ魅力的だ。


「似合っていますか?」


「……もちろんだ」


「あー! ウーちゃん師匠にこ……」


 エルミナが余計なことを言いそうになったので手で口を塞ぐ。


「余計なことを言うな」


「ふぁい」


 エルミナの口から手を離す。


「レイラ、ビーチバッグに財布を入れておいてくれ」


「はい」


 持っていた財布をレイラに手渡すと、レイラはそれをビーチバッグに仕舞った。

 それを見てから余は自身とふたりに普段から掛けている日焼け防止の魔法を掛け直す。


「ありがとぉ」


「ありがとうございます」


 すぐにふたりが気が付いてお礼を言ってきた。


「うむ。日焼けするつもりは今のところないからな」


「うんうん」


「よし、では早速遊びにいくぞ!」


「うん!」


「かしこまりました」


 まずは3人で右手の大きなプールに向かう。


「ウーちゃん、ここは?」


「これは波のプールだな。海の波を再現したプールだ。海水浴気分を味わうことが出来るらしいぞ」


「へー。海かぁ……そういえば一度だけ3人で海に行ったことがあったよねぇ」


「あったなぁ」


「そんなこともありましたね」


 余がまだ皇帝になる前のこと。

 レイラが余とエルミナを海に連れていってくれたことがあった。


「懐かしいな」


「思い出にふけるよりも今はプールを楽しみましょう」


「そうだな」


 3人で波のプールにゆっくり入る。


「あー気持ちぃ」


「丁度良い水温だな」


「本当に波がきますね」


 そんなに大きくない波が一定の間隔でやってくる。


「本当に海みたいだねぇ」


「少し波が不自然だけどな」


「そういうことは言わない……よぉ!」


 エルミナが手で余に水を掛けてきた。


「やったな……覚悟しろ」


 余は反撃しようとするが。


「どーかなぁ」


 エルミナは余裕そうだ。


「その余裕をすぐにわぷっ!」


 突然、横から顔面に水が飛んできた。

 飛んできた方を見るとレイラが器用に手を組んで水をこちらにピューッと飛ばしてくる。


「うおっ!」


 それを躱す。


「エルミナの余裕の理由はそれか!」


「ふふーん」


「お覚悟を」


「2対1とは卑怯な!」


「戦場でも同じことが言えるかなぁ」


「くっ……良いだろう。やってやる!」


 そうして余VSエルミナ&レイラの戦いが始まった。

 結果は余の勝利。

 途中でレイラがエルミナを裏切ってこちらについたからだ。


「ふふふ……やはり最後に勝つのは余だ」


「師匠を引き込むなんてずるいよぉ!」


「エルミナが最初にやったんだろ!」


 その後は3人でウォータースライダーに乗って、途中でエルミナと絡み合って着水したり、浮島や水遊び遊具があるプールで鬼ごっこをしたりして遊んだ。


「あー気持ちぃねぇ」


「そうだなー」


「これは落ち着きますね」


 現在、3人で流れるプールに入っていた。

 プールに流れに身を任せてただ流れ続けるだけだが、何故か落ち着く。


「今日、来て良かったねぇ」


「楽しいか?」


「うん、とっても」


「それは良かった」


「……ねぇ、ウーちゃん」


「なんだ?」


「早くみんなも呼んであげようねぇ」


 それが出来ないことなどエルミナが分かっていないはずがない。

 それでも言ってしまうのだろう。


「……ああ」


 だから余はただそう答えた。


 それから全員、流れるプールが気に入ったので帰る予定の時間までご飯も食べずにただ流されていた。

 ……ちなみに当然のように帰りのシャワーや更衣室で一悶着あったのだった。

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