35石 動き出すもうひとつの物語?

35石 動き出すもうひとつの物語?




『新メンバーの……レイラだ!』


「は?」


 隆盛はスマホの画面を見て唖然としていた。


『皆さま、初めまして。ウルオメア様のメイドをしておりますレイラです。よろしくお願いします』


 そう言ってレイラというメイドは軽くお辞儀をした。


「……」


 そのまま隆盛はウルオメアの配信を唖然とした様子で配信終了まで見ていた。


「……はっ!」


 配信が終わり、しばらくボケっとしていた隆盛は正気を取り戻す。


(ウルオメアさんのメイド。ウルオメアさんがタオ手の世界から本当に召喚したのか?)


 すぐに隆盛はまだコメントが流れ続けている配信ページを閉じて、レイラについて検索する。

 レイラについての情報が載っているページは簡単に見つかった。


(本名レイラ。ウルオメア・ファゴアットが幼い頃から彼女に仕えているメイド。帝室メイド隊というファゴアット帝国の特別なメイド隊のメイド長をしている。レイラの情報の多くは謎に包まれている……か)


 他のレイラについて書かれているサイトを見ても大体同じことが書かれている。

 分かったのはレイラというメイドはウルオメアさんに忠誠を誓っていて、その実力はかなりのものということ。


(もし本物のレイラだったとして……その力は間違いなく強力なはず。ウルオメアさんはこの世界でなにをするつもりだ?)


 疑問に思いつつ、明日学校で雄二にもう少しレイラについて詳しく情報を知らないか聞こうと考えていた。


 そして翌日。

 何時もより早く家を出て学校に来た隆盛は教室に入り自分の席に座る。

 雄二は既に席に座っていた。


「あれ、隆盛今日早いな」


「まあ……色々な」


「ふーん……それより昨日すげーことがあったんだよ!」


 雄二は興奮した様子でそう言う。

 隆盛は雄二がなんのことを言っているのか分かった。


「ウルオメアさんの配信だろ?」


「なんだ、知ってたのか。もしかして昨日の配信見た?」


「ああ。気になってな」


「おお! 隆盛もとうとうタオスワールドに足を踏み入れたか!」


 雄二は嬉しそうだ。


「それで気になったんだが、レイラっていうのはどんなキャラクターなんだ? 少し調べてみたんだけど簡単なことしか分からなかったんだ」


「ま、そうだろうな。レイラ自体謎が多いキャラクターだし、キャラクター設定資料集にもすべては書かれていないしなぁ。ただ、人気はある」


「人気のある謎が多いキャラクターか」


「そうだなぁ……レイラを一言で表すならウルオメア様命の万能メイドってとこなんだけど」


「万能メイド?」


「レイラは器用で基本的になんでも出来るんだよ。出来ないことの方が少ないって言われているくらいだし」


「それはすごいな」


「戦闘ではその器用さや速度を活かした戦い方をしたり、暗殺なんてこともする」


「暗殺?」


「そ。だからレイラの過去が謎なこともあって実は元々暗殺者だったんじゃないかっていう考察がある」


「暗殺者……それがなんでメイドに?」


「さあ? 設定資料集には産まれたばかりのウルオメア様に既に忠誠を誓っていたって書いてあったから、ファンの間ではウルオメア様が産まれる前になにかあったんじゃないかっていう考察が有力だな」


「謎だな」


「そういうこと。ただ、アニメでは最後までウルオメア様の為に行動していた姿が視聴者の心を掴んで人気が出たんだよ」


「なるほど」


「ただなぁ……」


 そこで雄二が複雑そうな顔をする。


「どうした?」


「レイラはファンの間では人気があるのと同時に見ているのは辛いキャラクターでもあったんだよ」


「どういうことだ?」


「前にも話しただろ? アニメではウルオメア様がどうなった?」


 そこで隆盛は雄二の言いたいことが分かった。


「1期で死んで2期で封印」


「そう。1期でレイラは主人を守ることが出来ずに死なせてしまう。今度は2期で神として復活したと思ったら封印だ。もうレイラがウルオメア様に機会は永遠に無くなった」


「それは……辛いな」


「そうだ。結局レイラは生きる意味を失い、タオ手ではメイドを辞めて放浪者となった。その痛々しい姿を見るのが辛いこと辛いこと」


(そうか。だからウルオメアさんはレイラを召喚したのか。ウルオメアさんもその状態のレイラを放っては置けなかったんだ)


「だからさ。昨日のウルオメア様の放送では救われた気分になったんだ。公式じゃないとしてもな」


(今なら俺にもその気持ちが分かる。彼女たちが本物だと知っているからなおさら)


「でも、どうせなら他のキャラクターも登場させて救ってほしいなぁ」


「どういうことだ?」


「ファゴアット帝国ってのはそういうキャラクターが多いんだよ」


「つまり……レイラのような人物が多い?」


「そう。アニメの主人公はあくまでタオス側だし、結果だけ見れば帝国の敗北。帝国には多くの犠牲が出た。そりゃタオス側にも犠牲者は出たけど、帝国と比べれば少ない。それに帝国は皇帝であったウルオメア様がすべての帝国民に愛されていた存在だから、その存在を失った帝国は……はぁ」


 雄二はそう言ってため息をつく。


「帝国はウルオメア様の妹が頑張ってるんだけど、どうしても失ったものは大きすぎてなぁ」


(分かる気がする。ウルオメアさんと実際に会って、俺はあの人に器の大きさやカリスマ性といったものを感じていた。あんな人が居なくなるっていうのは確かにキツイことだろう)


 そこで隆盛は気が付く。


(ということは、これからもウルオメアさんは帝国の救いたい人物を召喚する可能性があるってことか)


「あ、隆盛、先生がきたぞ」


「……ああ」


 その後は授業を受けながら隆盛はウルオメアのことを考え続けていた。

 そして昼休み。

 何時ものように雄二と俺の机で昼食を食べる。


「そういえば、隆盛は部活入ったのか?」


「ん?」


「部活だよ。ぶ・か・つ!」


「なんで部活?」


「はぁ……朝のHRの話を聞いてなかったのか?」


「……全然聞いてなかったわ」


「お前なぁ。ウルオメア様とかレイラに興味を持ってくれるのは嬉しいけどHRくらい聞いておけよ」


「悪い」


 雄二はしょうがないなという様子で説明を始める。


「この学校ではどこかの部活に入らなきゃいけないのは覚えているよな?」


「ああ。それは覚えてる」


 隆盛たちが通う学校は部活動に力を入れていて、生徒は必ずどこかの部活に所属しなくてはいけない。

 雄二の言葉でそれを隆盛は思い出していた。


「その期限が明日までなんだよ」


「そうなのか……って明日!?」


 隆盛は思わず驚きの声を上げる。


「やっぱり入ってなかったか」


「なんで急に?」


「だってもう7月だぞ。もうすぐ夏休みだろ」


「あ……」


(そういえばそうだった。入学してすぐのオリエンテーションで言ってったっけ)


 隆盛は完全に忘れていた。


「入ってないと成績に影響するぞ? 名前だけで良いからどこか入っておけよ」


「雄二はどこに入ったんだ?」


「俺か? 俺は美術部だよ」


「似合わねえ」


「うるせ」


「雄二が放課後すぐに帰ってるから部活なんて入ってないのかと思ったわ」


「まあ既に幽霊部員だからな」


「なるほど」


「それで? 隆盛はどこの部活に「瀬川隆盛」」


 突然、横から声を掛けられる。

 声の元を見るとそこには茶髪ツインテール姿のあの美少女転校生が立っていた。

 教室の喧騒が止む。

 何故なら美少女転校生は普段まったく喋らない上にその声が澄んでいてよく通るからだ。

 教室内の全員が注目していた。


「あー……城戸朱音だったか」


 隆盛は美少女転校生の名前を思い出しながら言う。


「そう」


 城戸は無表情で肯定する。


「俺になにか用か?」


「私はあなたをずっと見ていた」


 そして城戸は無表情で爆弾を投下した。


「「「キャー」」」


 教室の女子が一斉に黄色い悲鳴を上げ、一部の男子が舌打ちをした。


「ちょ! ちょっと待て!」


 その言葉に1番驚いたのは隆盛だった。

 あの時から一切接触してこなかった城戸がなにを言い出すのか思えば、突然あなたをずっと見ていたである。

 隆盛には訳が分からない。

 ただ、このままこの場所で城戸に喋らせるのはマズイということだけは分かった。


「ちょっと来い!」


 隆盛は城戸の手を引いて教室を出る。

 当然、女子たちは再び黄色い悲鳴を上げた。

 隆盛は城戸を連れて人気の無い階段裏に移動する。


「それでさっきの言葉はどういう意味だ?」


「私はあなたをこの半年間ずっと観察していた」


「半年間観察!?」


「そう」


「そう……じゃなくてどういう意味だ? 俺たちが会ったのはこの間の城戸が男たちに絡まれていたのが初めてだろ?」


「あなたが私を知ったのはその時。だけど私は前からあなたを知っている」


「意味が分からないけど……城戸が俺を前から知ってたとしてだ。なんで観察をしていたんだ?」


「あなたに才能があるかどうかを見極めていた」


「才能?」


「あなたにはドラゴンテイマーの才能がある」


「は?」


「だからゲーム部に入って私と世界王者を目指して」


「……は?」


「既に入部届は記入済み」


 そう言って城戸は隆盛の名前が書いてある入部届を取り出して隆盛に見せる。


「…………は?」


 もう隆盛にはなにがなんだか分からなかった。

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