34石 水着選び

34石 水着選び




「暇だ」


 ひとりでリビングのソファーに横になって、テレビを見ながらそう呟く。

 エルミナは何時ものように配信部屋でなにかやっているし、レイラは家事だ。

 そうなると暇なのは余だけか。


「うーむ。配信も無いしな」


 さっき朝食でダイニングに集まった時に3人で話し合って配信は3、4日休むことになったのだ。

 なので、それまで余が出来ることはツブヤイターの巡回くらい。


「これではツブ廃になってしまうぞ……ん?」


 そう思っているとテレビに都内の大型レジャー施設のCMが流れる。

 そのレジャー施設のメインはプールで色々なプールがあるらしい。

 しかも、プールの他に様々な施設やイベントもあるようだ。


「そうか……もう7月なんだよな」


 余はソファーから立ち上がって窓際に立つ。

 真夏の日差しが余を照らす。


「暑い……プールか。良いな」


 今度3人で電車に乗ってどこかに遊びに行こうとエルミナにも約束していたし丁度良い。

 明日、レジャー施設のプールに行こう。

 余はそう決意した。


「ならば、当然必要なものがあるな」


 まずは当然、水着だろう。

 これが無ければ意味が無い。


「あとは……なんだ?」


 とりあえずスマホで調べてみるかと思い、まずレジャー施設のサイトを開く。

 すると、サイトのトップにプールに持ってきた方が良いもののリストが書いてあった。


「おお。気が利くな」


 最低限必要なのは金と着替えにタオルだけで良いらしい。

 ビーチサンダルはあってもなくてもいい。

 日焼け止めクリーム等を利用したままプールに入るのは禁止らしいので要らないな。

 あとキャッシュレスバンドというアイテムがあるらしいが、残金の返金がされないようなのでビーチバッグを買ってそれに金を入れておけば良いだろう。


「そうと決まれば早速ふたりを連れて買いに行かねば」


 余はすぐに配信部屋に居るエルミナと脱衣所に居たレイラをダイニングに集めた。


「それで話とはなんでしょうか?」


「明日プールに行くぞ」


「プール?」


 エルミナが首を傾げる。


「うむ。前に3人で電車に乗ってどこかに遊びに行こうという話をしていただろう?」


「じゃあ!」


「そうだ。明日は休みだし、全員でプールに遊びに行くのだ!」


「やったぁー!」


 エルミナが全身で喜びを表す。


「場所はここだ」


 余はスマホで明日行く予定のレジャー施設のサイトをふたりに見せる。


「大型レジャー施設ですか」


「へー。こんなところがあるんだねぇ」


「メインはプールなので水着で施設内を移動出来るらしい。という訳で早速今から水着などの必要なものを買いに行くぞ!」


「ウルオメア様、もう資金が残り少ないのに良いのですか?」


「なに、収益化も目前な上に来週には出演料も入ってくるのだ。問題ない」


「そうそう!」


「はぁ……仕方ないですね」


 レイラのお許しも出たな。


「ですが、高い水着は買えませんよ?」


「前に行った駅前のショッピングモールなら安い水着も売っているだろう」


「すぐいこぉ!」


 ということで、3人で家を出てショッピングモールを目指す。


「久々の外だよぉ」


「そういえばエルミナは服を買いにいった時しか外に出てないな」


「そうだよぉ」


「すまんな。だが、偶になら散歩でもしてきて良いのだぞ?」


「いいんだよぉ。わたしは家で機械を弄ってるのが好きだからねぇ」


「そうか。エルミナが良いなら良い」


「うん」


 そうしてサングラス3人組でショッピングモールにやってきた。

 相変わらず人が多い。


「水着は3階で良いのかなぁ?」


「うむ。そうらしいぞ」


 壁の館内案内の隣に水着売り場3階と書かれている。

 前回は水着なんて必要無いと思って気にもしてなかった。


「ウーちゃん。今回は先にエレベーターで行ってエスカレーターで帰ってこない?」


「いいぞ」


「やったぁ」


 どうやらまだエルミナはエスカレーターとエレベーターが気になっているらしい。

 3人でエレベーターの前で他の人間と待ち、一緒に乗る。

 エルミナが笑顔で3階のボタンを押した。

 途中の2階で止まり余たち以外の人間が全員降りる。


「みんな降りちゃったねぇ」


「もうすぐ昼になるからな。フードコートでご飯を食べるのだろう」


「なるほど」


 そんな会話をしてると3階に着いて扉が開く。


「到着ぅ」


「エレベーターは満足したか?」


「うん!」


「そうか」


 エルミナは嬉しそうに笑っていた。


「ウルオメア様、水着売り場は前回の下着エリアとは反対のようです」


 レイラがフロアマップを見てそう言った。

 水着売り場は反対か。


「よし、いくぞ」


 3人で水着売り場に足を運ぶと、そこには親子連れの姿が多くあった。

 多くの子供がワクワクした様子で親と売り場を見て回っている。


「うーむ。どうやらここは水着だけでなく浮き輪やビーチサンダルなども売っているらしいな」


「だから人が多いんだねぇ」


「面倒ですね」


「まぁ余たちは水着とビーチバッグをひとつ買えば良いのだから、とっとと決めてしまおう」


「そうですね」


「はぁい」


 3人で水着売り場を見て回る。


「あ、わたしはこれが良いよぉ」


 そう言ってエルミナが手に取ったのは競泳水着だった。


「……本当にそれが良いのか?」


「うん!」


「まぁエルミナは良いなら良いが」


 なんだか、もったいない気がする。

 というか、ここ競泳水着も普通に売ってるんだな。


「ならエルミナは試着してこい」


「うん」


 エルミナは競泳水着を持って試着室に行った。


「それでレイラはどれにするんだ?」


「私ですか……メイド服では?」


「駄目だ」


 なんでプールにメイド服なんだ。

 メイド服でプールに入る気か?

 流石に駄目だろ。


「そうですか……ならウルオメア様が選んでくれませんか?」


「余がか?」


「はい」


 自信は無いのだがな。

 メイド服で泳がせる訳にはいかないし、しょうがないから選ぼう。

 余はどれがレイラに似合うか、目を凝らして水着を見ていく。

 すると、ひとつの水着が目に留まる。


「アレなんてどうだ?」


 余は緑色の水着を見てレイラにそう言う。


「ハイネックのバンドゥビキニにパレオですか」


「……余にはよく分からんが」


 バンドゥビキニってなんだ?


「早速試着してきますね」


 レイラはそう言って余の勧めた水着を持っていった。


「……あとは余か」


 あまり露出度の高い水着は避けたいが、どうしたものか。

 水着売り場を見て回りながら迷っていると、店員らしき眼鏡を掛けた女と目が合う。


「あ……」


 次の瞬間、その店員がスススっと近付いてきた。


「お悩みですか?」


「まぁな」


 そので店員が余の全身をじっくり見る。


「お客様ならこれがオススメかと」


 そう言って店員が黒のビキニの水着を手に取る。


「クロスワイヤー水着です。お客様のスタイルをしっかりセクシーに見せること間違いなしかと思います。くびれも際立ちます」


「う、うむ。しかし、少し露出度が高くないか?」


「今時は皆さんこれくらいは露出しています。普通ですよ」


「そ、そうか?」


「そうなんです!」


 そのまま余は店員に押されて試着室までやってくる。


「とりあえず試着してみてください!」


「分かった」


 店員に言われるがまま余は試着室に入って水着を試着してみる。


「うーむ。確かにセクシーだ」


 鏡に映る余の姿は店員の言ったようにセクシーだった。


「試着出来ましたかー?」


 そこで試着室の外から店員が声を掛けてくる。


「うむ」


「なら見せてもらっていいですか?」


「……何故だ?」


「ちゃんと試着出来ているかどうか確かめさせてください」


 確かに少し心配だな。


「分かった」


 余は試着室のカーテンを開ける。

 店員は余の水着姿をガン見した。


「……よくお似合いです」


「そうか」


 どうやら問題はなさそうだ。

 ならこれを買うか。

 そう思っていると店員の様子が変なことに気が付く。


「ハァ……ハァ……」


「お、おい。大丈夫か?」


「じゅるり……失礼しました」


 店員はそう言ってカーテンを閉める。

 ……今ヨダレをすすってなかったか?

 カーテンを少し開けると店員は笑顔で立っていた。

 気の所為か。

 カーテンを閉めて、水着を脱ぎ服を着た。

 試着室を出るとまだ店員が立って見ている。


「それで気に入っていただけましたか?」


「ああ。これを買わせてもらおう」」


「ありがとうございます。では、私は帰りますね」


「ん?」


「自分の分の水着は買ったので」


「……んん?」


「では、さようなら。また何時かお会いしましょう!」


 そう言って店員は水着売り場を出ていった。

 そこでやっと気が付く。


「アイツ店員じゃなくて客なのかよッ!」


 いや確かにあの眼鏡の女は一度も自分が店員だとは言っていなかったけども。

 なんで普通に他の客に水着を勧めているんだよ!


 その後はレイラとエルミナと合流して3人分の水着とビーチバッグをひとつ買った。

 そこで時間が13時を過ぎていることに気付く。


「丁度良いし、フードコートで昼飯を食べるか」


「賛成ぇ」


「また出費が……」


「まぁそんな高くないから安心しろ」


「はぁ……分かりました」


 3人でエスカレーターで2階に降りる。

 フードコートには昼過ぎなのに人が多く居た。

 だが、席が少しだけ空いている。


「運良く席が空いているな。レイラは席を取っておいてくれ。余とエルミナで買ってこよう」


「かしこまりました」


「レイラはなにか食べたものはあるか? 一緒に買ってくるぞ?」


「では、私はウルオメア様と同じものをお願いします」


「選ばなくて良いのか?」


「はい」


「分かった。エルミナいくぞ」


「はぁい」


 エルミナと席から離れて店側に行く。


「エルミナはなにが良いのだ?」


「うーん。いっぱいあって迷うよぉ」


「そうだな」


 余は周囲の店をゆっくりと見て決める。


「余はハンバーガーにしよう」


 最近食べていなかったからな。


「ハンバーガーかぁ。まだ食べたことなかったし、わたしもそれにしよぉ」


 そうか。

 エルミナもレイラも外食はしてなかったし、ハンバーガーも食べたことなかったか。

 買ってきたこともなかったしな。


「じゃあ買いにいこう」


 ふたりでハンバーガー店の列に並んで、ハンバーガーセットを3つ注文し、呼び出しベルを受け取って店から離れる。


「ウーちゃん、ハンバーガーは?」


「この呼び出しベルが鳴ったら店に行って受け取るのだ」


「へー」


 エルミナは面白そうに呼び出しベルを見る。

 そのままレイラが取っていた席に行って、不思議そうな顔のレイラにも同じ説明をした。

 しばらくして、呼び出しベルが鳴る。

 席から立ち上がろうとしてレイラに止められた。


「今度は私が行ってきます。エルミナ、付き合ってください」


「はぁい」


 返事する前にエルミナを連れてとっととレイラは注文を取りに行ってしまった。

 待っているだけは嫌だったのだろう。

 すぐにレイラとエルミナがハンバーガーセットを3つ持って戻ってくる。


「結局、全員同じだな」


「仲良しだねぇ!」


「そうですね」


 そう言って3人で笑い合う。

 久し振りに食べたハンバーガーは前に食べた時よりも美味しかった。

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