16石 カレーライス

16石 カレーライス




 ゲームパッドが入ったビニール袋片手に電気屋から寄り道もせずに真っ直ぐ自宅に帰宅する。


「ふたりは配信部屋だな」


 手洗いうがいを済ませて配信部屋に入る。

 中ではエルミナとレイラがパソコンに向かっていた。


「ただいま」


「おかえりぃ」


「おかえりなさいませ」


「それでゲームパッドは買えたぁ?」


「ああ。これで良いか?」


 余は買ってきたゲームパッドが入ったビニール袋をエルミナに手渡す。

 エルミナはビニール袋の中からゲームパッドをひとつ取り出して軽く確認する。


「うん。これで大丈夫だよぉ


「よし、ならこれでレイラが練習を始められるな」


「そうだねぇ」


「ありがとうございます」


「じゃあ早速、師匠にはゲームの練習をしてもらうとして、わたしはもうちょっと調整するねぇ」


「うむ。ふたりとも任せたぞ」


「任せてぇ!」


「お任せください」


 エルミナは豊かな胸を叩き、レイラは真剣な表情で答えた。

 特にレイラは気合十分だな。

 ふたりはそれで良いとして余はどうしようか。


「余はなにかやることがあるか?」


「ウーちゃんはご飯の時も言ったけど、ツブヤイターの確認をしておいてねぇ」


「分かった」


「あとはゆっくりしていて良いよぉ」


「そうか。じゃあリビングに居るな」


「うん」


 ふたりを配信部屋に残して余はリビングに移動する。

 そのままソファーに横になってスマホを取り出す。


「さて、どうなっているのやら」


 スマホを操作してツブヤイターを開く。

 とりあえず余のアカウントを確認。


「おお、フォロワー数が随分と増えているな」


 フォロー数1に対してフォロワー数が2万を超えている。

 どうやら順調にフォロワー数が増えていっているようだ。

 ちなみにフォローしているのはタオ手の公式アカウントだけ。


「良い感じだ」


 今見ている間もフォロワー数がジワジワと増えていっている。

 余の認知度は広がっていっているな。


「次は配信タグでエゴサしてみよう」


 ツブヤイターで#ファゴアット帝国放送局で検索する。

 すると、かなりの数のツブートがされていた。


「多いな」


 数は1万件以上。

 流石にすべては見切れない。


「とりあえず話題のツブートから見ていこう」


 話題のツブートを上から順番に見ていく。

 どれも『リアルにウルオメア様が現れた』とか『リアルウルオメア様だ』といったツブートばかりだ。

 見たツブートは批判的だったりしなければ、いいねをしておく。


「次は最新のツブートを見るか……ん?」


 最新のツブートにして更新すると変なツブートが流れてくる。


『ウルオメア!ウルオメア!ウルオメア!ウルオメアぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ウルオメアウルオメアウルオメアぁぁぁわぁああああ!!! 』


『あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん

んはぁっ!ウルオメア・ファゴアットたんの紫色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!

間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!きゅんきゅんきゅい!!』


『アニメのウルオメアたんキレイだったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!! アニメ2期放送されて良かったねウルオメアたん!あぁあああああ!きれい!ウルオメアたん!きれい!あっああぁああ! 』


『タオ手にも実装されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!! ぐあああああああああああ!!!タオ手なんて現実じゃない!!!!あ…アニメもよく考えたら… ウ ル オ メ ア 様 は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!』


『うぁああああああああああ!! そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!タオスぅぅぅぅぅ!!』


『この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?昨日の配信のウルオメア様が僕を見てる?配信のウルオメア様が僕を見てるぞ!ウルオメア様が僕を見てるぞ!ドヤ顔のウルオメア様が僕を見てるぞ!!』


 という感じでひとりの人間がスレッドを使ってツブートしていた。

 ちなみにまだ続いている。


「これって確かネットで有名なコピペじゃなかったか?」


 それを改変したのか。

 結構面白いな。

 コイツが誰なのか気になったので、とりあえず一連のツブートをいいねしてからアカウントに移動する。


「アカウント名は『さけるイカ@元ガチャ神』か」


さけるイカ@元ガチャ神

ウルオメア様ガチ勢。タオ手は引退して配信者のウルオメア様を全力で応援してます。現在ウルオメア様の為に行動中!


 どうやらコイツは余のガチ勢で応援もしてくれているようだ。


「お?」


 そこでさけるイカが新しいツブートをした。


『ウルオメア様が僕のツブートをいいねしてくれた!?』


 余がいいねしたことに驚いているようだ。

 そこで余はコイツをフォローしたらどうなるのか気になったのでフォローしてみる。

 すると、再びツブートがされた。


『信じられない! ウルオメア様がフォローしてくれた! ウルオメア様が見てくれている! ウルオメア様! 僕はウルオメア様の為に頑張って行動中なので、待っていてください!』


 やっぱり面白いな。

 とりあえず返信しておこう。


『お前面白いな。名前を覚えておいてやる。行動とかよく分からんが、まぁ頑張ってくれ』


『そんなことを言ってくれるなんて感激です!! 頑張ります!!』


 速攻で返信があった。

 余はそれをいいねしてツブヤイターを閉じる。


「こんなもんでいいか。面白い奴も見つけたしな」


 さて、やることは終わってしまったし、次はなにをしようか。

 そう思っているとエルミナがリビングにやってきた。

 余は身体を起こしてソファーに座る。


「エルミナ、調整は終わったのか?」


「うん。バッチリだよぉ。ウーちゃんの方は?」


「余もツブヤイター確認が終わったところだ」


「そうなんだぁ」


「面白い奴が居たからフォローしておいたが、構わないよな?」


「大量にフォローとかしなければ良いよぉ」


「なら大丈夫だ」


 そこでエルミナが余の隣にやってきて座る。


「それで誰をフォローしたのぉ?」


「見るか?」


「うん」


 余はスマホを操作してもう一度ツブヤイターを開く。

 そして、さけるイカのアカウントに移動する。


「さけるイカ? ……ふーん? ウーちゃんのことがすごい好きなんだねぇ」


「そうらしい。ちなみにこれが余の見たツブートだ」


 そう言って余はさっきのコピペ改変をエルミナに見せる。


「うわぁ……これって有名なコピペだよね」


「それを改変したやつだ。よく知ってるな」


「ネットのあらゆることを調べて頭に入れたからねぇ」


「流石はエルミナだ」


 空いている手でエルミナの頭を撫でる。


「えへへ。といってもこれは偶然目にしたことがあるだけなんだけどぉ」


「そういうことか」


 流石にエルミナでもなんでも知っている訳ではないからな。


「それでこの行動中って書いてあるのは具体的になにをしているのぉ?」


「さあな。よく分からん」


「ちょっとだけこの人の前のツブート見てみようよぉ」


「いいぞ」


 余はさけるイカのツブートを遡る。

 すると、部屋ひとつを使った余のグッズ部屋の写真が載せられていた。


「これ全部余のグッズか」


「この人すごいねぇ。わたしも欲しいかもぉ」


「すごいのは確かだが、別にエルミナには要らないだろ。余本人が居るのだから」


「それはそうだけど、やっぱり少しくらい欲しいよぉ。このぬいぐるみとか」


 そう言ってエルミナが写真に写った余のデフォルメされたぬいぐるみを指差す。


「うーむ。意外と可愛いな」


「でしょぉ?」


 そんな会話をしながら、さけるイカのツブートを見ていく。

 それでいくつか、さけるイカついて分かったが行動については分からなかった。


「もういいか?」


「そうだねぇ。詳しくは書いてないみたいだしぃ」


 余はツブヤイターを閉じた。

 そこでレイラのことを聞くことにする。


「それで、レイラの様子はどうだ?」


「最初はボロボロに負けてたけど、わたしが部屋を出る頃には上位に残るようになってたよぉ」


「そうか。流石はレイラだ」


「師匠はなんでも上手くこなせる器用さがあるからねぇ。たとえゲームだって師匠ならすぐに手足のように操作出来るようになるよぉ」


「その通りだな。レイラなら出来ないことはほとんどないだろう」


「うん!」


「……それで? エルミナ自身じゃなくてレイラに助っ人を任せたのはレイラの為か? エルミナなら配信の制御をしながらゲームだって出来ただろ」


「あはは……分かっちゃうかぁ。流石はウーちゃん」


 エルミナは恥ずかしそうに笑う。


「レイラだって理解しているさ」


「そっかぁ。恥ずかしいなぁ」


「なにも恥じることはない。エルミナはレイラの悩みに気が付いて、それを解決する為に頑張ったのだ。胸を張れ」


「うん」


「それに恥ずかしいのは余の方だ。こんなことを言っている余がレイラの悩みに気が付かなかったのだから」


「そんなことないよぉ。ウーちゃんが気付かないことをサポートするのがわたしたち家族なのぉ。そうやってお互いを支え合うんだよぉ」


「エルミナ……」


「ウーちゃんが言っていたように困っていたり悩んでいたら助ける。それがわたしたち家族なんでしょぉ?」


「そうか……そうだな」


 エルミナの言う通りだ。


「よし!」


 余は気合を入れてソファーから立ち上がる。


「ウーちゃん?」


「エルミナ、今日はふたりで夕食を作ろう。レイラの為に!」


「うん! ……でも、ウーちゃん料理出来るのぉ?」


「ふっ……出来ぬ!」


「えぇ? わたしだって自信ないよぉ」


「しかし、料理は気持ちだ! やるぞ!」


「お、おー」


 ふたりでキッチンに移動して家にある食材をチェックする。


「ジャガイモに人参……玉ねぎか」


「お肉もあるよぉ」


「うむ。ジャガイモ、人参、玉ねぎ、肉で料理初心者でも作れるようなものと言えば……」


「ものと言えばぁ?」


「カレーライスだな」


「カレーかぁ。でも、カレールーが無いよぉ?」


「カレールーは余が買ってくる。その間にエルミナは余のスマホでカレーのレシピを見て料理を進めておいてくれ」


「分かったよぉ。あ、ご飯はどうするのぉ?」


「あ……」


 炊飯器はあるが自分で使ったことないぞ。


「パックの白米も買ってくる」


「それが良いねぇ」


「では、早速行ってくる」


「いってらっしゃぁい」


 余は財布をポケットに突っ込んで家を出た。

 目指すは駅前のスーパーだ。

 ショッピングモールは混むからな。


 驚かれない程度の速さでスーパーにやってきた。


「む? スーパーも混んでいるな」


 スーパーの出入り口では人が多く出入りしている。

 ショッピングモールもあるのに混むのだな。


「しょうがない。とっとと買って帰ろう」


 そう思ってスーパーに入る。

 しかし、どこになにが売っているのか分からんな。

 案内がないか辺りを見回す。


「あ、お姉ちゃん!」


「ん?」


 そこで片手に手提げ袋を持った子供に声を掛けられる。

 その子供は昼間電気屋で会った由亞だった。


「由亞ではないか」


「1日に2回も会うなんて偶然だね!」


 そう言って嬉しそうに近寄ってくる。


「そうだな。由亞はおつかいか?」


「うん! ……お姉ちゃん、もしかしてまた探してるの?」


「よく分かったな」


「だって、電気屋さんの時とおんなじようにキョロキョロしてるんだもん」


 どうやら電気屋の時と同じことをしていたようだ。


「良かったらあたしが案内してあげる!」


「いいのか?」


「うん!」


 由亞は相変わらず良い子だ。


「それでお姉ちゃんはなにを探しているの?」


「カレールーと白米のパックだ」


「それならこっちだよ!」


 すぐに電気屋の時と同じように由亞が余の手を引いて歩き出す。


「このスーパー詳しいのか?」


「たまにお母さんにおつかいを頼まれて来てるんだぁ」


「偉いな」


「えへへ」


「それにしても由亞とまた会って、しかもまた探しものを手伝ってもらうとはな」


「運命だね!」


「そうかもな」


 そうして歩いていると、カレールーが置いてあるコーナーに着いた。

 ただ、いくつも種類がある。


「いっぱいあるな。なにを買おうか」


「うちで何時も食べてるのはこれだよ」


「ならそれにしよう」


 由亞が指差したカレールーを手に取る。


「次はこっち」


 次に白米のパックが売っている場所に着く。


「どれも同じにしか見えんな」


 とりあえず4食セットを手に取る。


「これで良いの?」


「ああ。助かったぞ」


「いいよー。レジはあっちね!」


「悪いが出口のところで少し待っててくれるか?」


「? うん、いいよ」


 不思議そうな顔をして由亞は歩いていった。

 それを見てから近くに売っていたペットボトルのオレンジジュースを1本手に取ってレジに向かう。

 レジは結構混み合っていた上に支払いだけセルフで行うタイプは初めてだったので少し時間が掛かった。


「由亞、待たせて悪かったな」


「ううん、いいよー」


「じゃあこれ、お礼だ」


 余はビニール袋からオレンジジュースを取り出して由亞に手渡す。


「いいの!? あ、でも……」


 由亞の表情が曇る。


「どうした?」


「お兄ちゃんが簡単にお金を貰っちゃダメだって」


「なら、大丈夫だな。それはジュースだ」


「あ、そっか!」


 すぐに由亞は笑顔になった。


「じゃあ余は急いで帰るから、またな」


「うん、またねー」


 そうして余は由亞と別れて家に急いで帰る……常識的な速度で。


「ただいま」


「あ、おかえりぃ」


 キッチンに行くとエルミナがフライパンで肉を炒めていた。

 まな板の上には一口大に切られた野菜が乗っている。


「よし、交代するぞ」


「はぁい」


 エルミナと交代して肉を炒める。


「えっとぉ……次は野菜を入れるんだってぇ」


「分かった」


 余はフライパンに野菜を加えて炒める。


「玉ねぎが透き通るくらいまでだってぇ」


「まだだな」


 しばらくして玉ねぎが透き通ってくる。


「次は鍋に水と具材を入れて煮込むらしいよぉ。わたしが入れるねぇ」


「よしきた」


 エルミナが鍋に水を入れて持ってくる。

 そこに炒めた具材を入れて煮込む。


「15分くらいかなぁ」


「カレールーはそのあとか」


「そうだねぇ」


 ふたりでジッと鍋の前で15分待つ。


「カレールー投入だ」


 鍋にカレールーを入れておたまでかき混ぜて溶かす。


「次は溶かしながら10分待ちだよぉ」


「分かった」


 そうしてカレーが完成した。


「出来たぞ!」


「良い匂いだねぇ」


「これで不味い訳がないな。よし、白米を温めて皿に盛ってカレーをかけるぞ」


「はぁい」


 ふたりで温めたご飯を皿に乗せてカレーをかけた。

 それをダイニングのテーブルに乗せる。


「完璧だな」


「だねぇ」


「余はスプーンを用意するからエルミナはレイラを呼んできてくれ」


「はぁい」


 キッチンからスプーンを持ってきてテーブルに乗せるとエルミナがレイラを連れてきた。


「ウルオメア様? これは一体?」


「レイラが頑張っているからな。集中出来るようにエルミナとふたりで夕食を作ってみたのだ」


「すごいでしょぉ?」


「私の為に……ウルオメア様、エルミナ……」


 そう呟いたレイラの瞳が潤んでいた。


「さあ、そこに立ってないで座って食べよう」


「きっと美味しいよぉ」


「はい」


 3人で席に着いてスプーンを手に取る。


「いただきます!」


「いただきまぁす」


 同時にカレーを口に入れた。


「「辛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」」


 口から火が出そうなほど辛かった。


「ふふっ」


 そんな余たちを見てレイラは嬉しそうに微笑んでいた。

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