15石 家族

15石 家族




「くぁー。気持ちの良い朝だ」


 配信をした翌日の朝。

 気持ち良く起床する。

 というか余が余になってから寝付きも良いし、寝起きが気持ちいい。


「最高だ」


 これだけ気持ち良く寝れるので睡眠が楽しみになっている。

 実は神になった影響であまり眠る必要は無いのだが、生活習慣は大事だ。

 それにひとり起きていてもしょうがないので余は眠ることにしている。


「着替えてレイラの朝食を食べるとしよう」


 ベッドから降りて着替えを手早く済ます。

 もう着替えも慣れたものだ。


「行くか……ん?」


 部屋から出ると、隣の部屋のドアが開く。

 隣はレイラとエルミナが寝泊まりしている部屋だ。

 その部屋からエルミナがトボトボと出てくる。

 どうやらエルミナはまだ眠いらしく、寝ぼけまなこを擦っていた。


「おはようエルミナ」


 そう声を掛けるとエルミナはこちらに気が付いて、にへらと笑う。


「あー、ウーちゃんおはよぉ」


 エルミナそう言いながら余に抱きついてくる。


「おっと、危ないぞ?」


「えへへ」


 エルミナは嬉しそうに笑っていて可愛い。


「ほら、ダイニングに行くぞ。きっとレイラが朝食を用意してくれている」


「ウーちゃん連れてってぇ」


 そう言ってエルミナは離れようとしない。


「しょうがないな」


 可愛いことを言うエルミナを抱き上げる。


「きゃー」


 嬉しそうな悲鳴だな。

 そのままダイニングに向かうと、余の予想通りテーブルの上には3人分の朝食が用意してあってレイラが立って待っていた。


「エルミナ……」


 余と抱き上げられたエルミナを見てレイラがやれやれといった感じの表情を浮かべる。


「レイラおはよう」


「師匠おはよぉ」


「おはようございます」


「ほら、エルミナ降ろすぞ」


「うん」


 余はゆっくりエルミナを降ろして立たせてやる。


「ウーちゃんありがとぉ」


「ああ」


「エルミナ、あまりウルオメア様のお手を煩わせてはいけませんよ」


「えー」


「このくらいならいくらでも構わない。エルミナは軽いしな」


「はぁ……」


 レイラがため息をついて、しょうがないなという顔をしていた。


「あ、師匠もウーちゃんにやってほしいんじゃないのぉ?」


「ん? そうなのか?」


「バカ言ってないで、朝食を食べますよ」


「はぁい」


「そうだな。冷めたらもったいない」


 3人でそれぞれの椅子に座ってテーブルを囲む。

 テーブルの上には白米と玉子焼きなどのおかずに味噌汁があって良い匂いを漂わせている。


「さて、食べよう。いただきます」


「いただきまぁす」


「いただきます」


 相変わらずレイラの作る料理は美味しい。

 もう完全にこの世界の料理に慣れているな。

 それにふたりはもう器用に箸を使っているし、馴染んでいる。

 最初はフォークだったのにな。


 あと食事の際とあとに3人で打ち合わせとかをしている所為で自然と食事はみんなで食べるのが当たり前になった。

 なんだか仲良し家族みたいだが、実際そのようなものだ。


「それでエルミナ。配信の反響はどんな感じだ?」


「順調だよぉ。寝る前に見たときはチャンネル登録者数が3万人を超えてたし、ツブヤイターや掲示板ではどこもウーちゃんの話題でいっぱい。次の配信ではツブヤイターのトレンドになるの間違いなしだねぇ」


「そうか」


 もうチャンネル登録者数3万人か。

 個人として考えるとかなり早いな。

 まぁこれも余たちの予想通りなんだか。


「ウーちゃん。あとでツブヤイターをチェックしておいてねぇ。配信タグでエゴサして適当にいいねしといてぇ」


「確かに必要だな。分かった」


 ツブヤイターにどんなことが書かれているのか見るのが楽しみだ。


「あと次の配信でプレイするゲームだけど、ウーちゃんはキーボードとマウスでやるのぉ?」


「……ああそうか。PCゲームだから操作方法がキーボードとマウスなのか」


 それじゃあ上手く操作出来ないかもしれないな。

 余はコントローラー派だから。


「ウーちゃん難しいでしょぉ?」


「ああ。ただでさえ初見のゲームなのにコントローラーじゃないのは厳しいな」


「エルミナ、なんとかならないのですか?」


「簡単だよぉ。パソコンに接続出来るコントローラー……ゲームパッドっていうんだけど、それを買えばいいんだぁ」


「なら買いましょう」


「……ただお金がかかるからぁ。ジャンクパーツから作ろうにも時間が無いし……」


 申し訳なそうにエルミナが余を見てくる。

 そうか。

 エルミナは出費が増えることを気にしていたんだな。


「大丈夫だ。資金ならまだある。そのゲームパッドはいくらなんだ?」


「繋ぎでいいから2000円くらいの安物でいいかなぁ。ウーちゃんの反応速度にはどうせ付いていけないしねぇ」


「それくらいなら問題ない」


 確かに少し力を出したら余の身体に機械が付いていかないだろうな。


「終わったらわたしがジャンクパーツと組み合わせて性能が良いのを作るよぉ……ただ、2個欲しいんだぁ」


「ん? どうしてだ?」


「次の配信では師匠にもウーちゃんと一緒にゲームをしてもらおうと思ってぇ」


「私ですか」


 レイラもゲームを?


「詳しく話してくれ」


「うん。色々考えたんだけど、やっぱりインパクトは必要だし、なによりウーちゃんには勝ってほしいから最初は初見でグダグダだけど最後は勝てるようになってほしい」


「確かに初心者が勝利したらインパクトは強いだろうな」


「ウーちゃんなら少し練習すればいけると思うんだぁ。でも、初見で始めてほしい……そこで助っ人を呼ぶのぉ」


「それが私ですか」


「そう! 師匠には事前に配信でプレイするゲームを練習してもらって、配信でウーちゃんとチームを組んで戦ってもらう」


「なるほど」


「流れとしては最初はウーちゃんひとりでプレイしてもらってある程度出来るようになったら謎の助っ人として師匠を呼ぶ。あとは勝つだけぇ! 時間が残ったらリスナーとチームを組んでもいいしねぇ!」


「うむ……悪くないな」


「でしょぉ?」


「ただ、ひとつ問題がある。それはレイラがゲームをやったことのない初心者だということだ」


 召喚されてからレイラがゲームをプレイしたなんて話は聞いてないしな。


「それはそうなんだけど……師匠なら出来ると思うんだぁ」


「うーむ……確かに」


「やらせてください」


 そこでレイラが力強い瞳で余を見てそう言った。


「私はエルミナのようには出来ません。なので、私の出来ることならやりたいです。それがウルオメア様の為なら、なおさらです。ウルオメア様がやれと言えば私はなんでも出来ます。だから、ウルオメア様はただ一言私に命令してくれればいいのです」


「レイラ……」


 そんなことを思って悩んでいたのか。


「レイラ」


「はい」


「レイラには家事などで余たちをサポートしてくれて助かっている」


「……」


「だが、それでもまだ足りないというなら余はレイラに言おう。しかし、命令ではない。これは余からのお願いだ。レイラ……やれるか?」


「かしこまりました……必ずご期待に応えてみせます」


 レイラは椅子から立ち上がってから、その場に跪きそう答えた。

 そこでエルミナが優しげな瞳でレイラを見ていることに気が付く。

 そうか、エルミナはレイラの悩みに気が付いていて、それで今回ことを提案したのだな。

 それに気付けない余はまだまだだ。

 余は椅子から立ち上がってレイラに近付く。


「エルミナもおいで」


「ウーちゃん?」


 不思議そうに近付いてきたエルミナと跪くレイラを余は両手で抱きしめた。


「ウルオメア様?」


「困ってたり悩んでいたら相談するのだ。そして誰かが困っていたり悩んでいたら助ける。余たちはもうかけがえない仲間で家族なのだから」


「ウーちゃん……」


「家族……そうなのですね。私たちは家族なのですね」


「ああ」


「マイメア様に言われたことがあります。何時かあなたも家族を作りなさいと」


「母上がそんなことを」


 余は母上に会ったことはないが、優しい人だったのだろうな。


「それが私の夢のひとつになっていました」


「そうだったのか」


 もっと早く言葉にすれば良かった。


「余はとっくにレイラを家族だと思っていたぞ」


「わたしもだよぉ」


「そうだったんですね……」


 レイラは余とエルミナを抱きしめ返す。


「これが私の家族。家族は……暖かいものですね」







 結局、2時間くらい3人で抱きしめあっていた。

 これで余たちの繋がりは今まで以上に強くなっただろう。

 とても嬉しいことだ。

 レイラポツポツとエルミナはドバーッと泣いていたしな。

 余もめちゃくちゃ泣きそうだったが、恥ずかしかったので必死に堪えた。


 そんな余は現在ひとりで外を歩いている。

 目的は次の配信で使うゲームパッドだ。

 エルミナの話では電気屋に売っているらしいので、この間服を買ったショッピングモールに向かっている。

 あそこの5階が電気屋だったからな。


 ちなみにエルミナは次の配信に備えてプレイするゲームの設定を弄っている。

 レイラは余がゲームパッドを買ってくるまで、プレイするゲームの動画や攻略wikiを見て知識を蓄えているらしい。


 周囲の注目を集めるのはしょうがないと思いつつ、特に問題も起きずにショッピングモールの電気屋に着いた。

 相変わらず人が多い。

 エスカレーターで5階に昇ると電気屋はそんなに混んではいなかった。

 もちろん人が居ない訳ではないが。


「さて、ゲームパッドとやらはどこにあるんだ」


 とりあえずゲームコーナーに行けばいいかと思った余はフロアマップを見てゲームコーナーに向かう。

 何故かゲームコーナーには小学生くらいの子供が多く居た。


「うーむ。ここにはなさそうだな」


 ゲームパッドなのにゲームコーナーじゃないのか。

 そこで子供たちが余をジッと見ていた。

 とりあえずドヤ顔をかましておく。

 そこで子供のひとりが余に近付いてくる。


「お姉ちゃん、なにか探しているの?」


 どうやら余がなにかを探してるのが気になったらしい。


「うむ。ゲームパッドというものを探しているのだが……分かるか?」


「分かるよ! こっち」


 そう言ってその子供は余の手を引いて歩き出した。


「おお? 案内してくれるのか?」


「うん。困ってる人がいたら助けてあげなさいってお父さんが言ってたから」


「そうか……良いお父さんだな」


「うん!」


「それにお主も良い子だ」


「ほんと?」


「ああ」


 そうして歩いているとゲームパッドが並んでいる場所に着いた。


「ここだよ!」


「おお! 助かったぞ。ありがとうな」


「どういたしまして」


 余は2000円くらいのゲームパッドをふたつ手に取ってレジに向かう。

 子供も付いてきた。

 丁度良い。

 レジで5000円札で会計を済ませ、お釣りの300円を片手に子供に近付く。


「お姉ちゃん買えたの?」


「ああ。お主のお陰だ。そういえば名乗ってなかったな。余はウルオメアという、よろしく頼む」


「あたしは由亞だよ!」


「じゃあ由亞にこれをやろう」


 そう言って300円を由亞に手渡す。


「あ、お金!」


「それで好きなものを買うと良い」


「いいの!?」


「お礼だ」


「ありがとうお姉ちゃん!」


「ああ。じゃあ余は帰るぞ。じゃあな」


「またねー!」


 由亞に見送られて余は電気屋を出ていった。







「由亞ー」


 ウルオメアを見送った由亞を呼ぶ声が聞こえてすぐに由亞の兄がやってくる。


「あ、お兄ちゃん」


「こらっ。勝手に行くなよ」


 そう言って由亞の兄の隆盛が軽いゲンコツを落とす。


「えへへ」


「それで欲しいものは買えたのか?」


「ちょっとだけお金が足りなかったけど、お姉ちゃんを助けたらお金をくれて買えるようになったんだ」


「はぁ?」


 隆盛は由亞に詳しく話を聞いて頭を抱えた。


「由亞、簡単にお金を貰ってはいけないぞ……」


「分かった! でも、お兄ちゃんどうしたの?」


「いやちょっとな」


 隆盛は由亞から聞いたお姉ちゃんの名前のことで悩んでいた。


(ウルオメアって……まさかあの時の? 本物なのか? くそっ分からない。結局雄二に相談出来てないし。追い掛けるか? いやでも……)


 少年、隆盛の悩みは続く。

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