12石 配信準備

12石 配信準備




 行動開始から数日が経過した。

 今もエルミナは食事の時以外は空き部屋に籠って機材を製作している。

 レイラは2日で余の衣装を完成させた。

 完成した衣装は余が皇帝だった頃によく着ていた服装にそっくりだ。

 もちろんただの服なので特別な性能はなにも無い。

 余はツブヤイターで適当にツブートしているが宣伝になっている気がしない。

 一応多少の反応はあるが、どれも批判的なものだ。

 まぁ当たり前だろう。

 動画や音声などは載せてないしな。


 あと食事の際に3人で色々話し合っているのだが、そこで今エルミナが作業している空き部屋を配信部屋にすることにした。

 他に空いてる部屋がないので必然的にそうなる。

 そしてAiTubeのチャンネル名を余の名前ではなく国名の【ファゴアット帝国】に決めた。

 これはいずれ余だけではなくエルミナやレイラにも配信に出てもらう予定だからだ。

 理由は余以外にもエルミナとレイラにそっくりな人間が居るということをアピールする為。

 そうすれば外に出て顔がバレてもなんとかなるはず。


 そういう感じで今はエルミナの機材完成待ち。

 レイラは何時もように家事をしているし、余はスマホを見て暇を潰している。

 正直やることがなくて暇だ。


「レイラ、暇だ」


 リビングのソファーに寝転がりながら掃除機片手に掃除しているレイラに言う。


「それは良いことじゃないでしょうか?」


「ん? どういう意味だ?」


「ウルオメア様が平和な帝国の皇帝だった頃はとても忙しくて、よく暇が欲しいとおっしゃってたじゃないですか」


「あー、そういうばそんな頃もあったな」


 余が皇帝になったばかりで戦争が起きる前の頃。

 皇帝の引き継ぎや各地のお披露目に他国の大使の挨拶、下から上がってくる大量の報告書などの書類仕事で忙し過ぎた時期があった。

 その頃はよく暇が欲しいと口にしていたな。

 まぁしばらくしたら仕事は減って書類仕事にも慣れて楽になったが。


「なので、ウルオメア様が暇だと感じるのは良いことなのでしょう」


「そうかもな」


 結局、皇帝だった頃は暇なんて無かった。

 仕事に慣れてすぐに王国との戦争を始めたからな。


「これも平和な証拠か」


「そうですね」


 そこでドタバタと足音が聞こえてきた。

 レイラが眉をひそめる。

 なんか前も同じことあったな。

 そう思っているとエルミナがリビングに入ってくる。


「エルミナ」


「師匠ごめんなさい! でも、機材が完成したのぉ!」


「おぉ」


 どうやらエルミナが機材を完成させたようだ。


「早く来てぇ」


 そう言ってエルミナが余の手を引く。


「分かった分かった」


 エルミナに手を引かれながら元空き部屋に入る。

 部屋の中には大きな箱と少し小さな箱があった。

 前は無かったテーブルがあってその上にモニターやキーボード、マウスが2セット置いてある。

 どうやらあの箱がパソコンらしい。

 一部の壁には緑色の布が掛けられている。


「これがわたしの作ったパソコンだよぉ!」


 そう言ってエルミナが大小ふたつの箱を指差す。


「なんでふたつあるんだ? しかも片方デカイし」


「大きい方はわたし用だよぉ。配信中はわたしがそのパソコンを使って制御するからねぇ。小さい方はウーちゃんがパソコンを使ってゲーム配信する時とかの為に作ったんだぁ。どっちも性能は高いけど、大きい方のパソコンの方が処理速度とか性能が上だよぉ」


「なるほど。配信自体は全部そっちの大きいパソコンでエルミナがやってくれる訳か」


「そういうことぉ。編集とかも全部任せてぇ」


 余はそんなに詳しくないから有り難いし心強い。


「次はこっちを見てぇ」


 そう言ってエルミナが小さい方のパソコンの前に連れてくる。


「ここが普段ウーちゃんが配信する場所ねぇ」


 よく見るとこっちのモニターの上にカメラが設置されている。


「なるほど。あのカメラで余を撮影する訳か」


「そういうことぉ。で、背後の布はグリーンバックねぇ。一応、配信中に合成とか出来るけど今は使わないかなぁ」


「ほぉ」


 リアルでグリーンバックなんて初めて見たな。

 これで緑の部分を消して背景を作れるんだろう。


「流石はエルミナだ。よくこれだけの機材をあのジャンクパーツから製作出来たな。よくやってくれた」


 エルミナが出来るとは信じていたが、本当に出来たのをこの目で見ると驚く。


「えへへ」


 エルミナがにへらと嬉しそうに笑う。


「作るは楽しかったし、この世界の機械って面白いけど、ちょっと物足りないかなぁ」


 エルミナの才能ではこれで物足りないらしい。

 凄まじいな。


「これで配信が出来るのですね?」


 部屋の入り口に立っていたレイラがそう聞いてくる。


「テストも終わってるし、もちろん出来るよぉ。あとはチャンネルを作るだけ」


「よし、なら今夜早速配信をしよう!」


「うん!」


「はい」


「とりあえず最初は雑談配信でいいよな?」


「そうだねぇ。最初だし30分くらい説明とかコメントに反応とかしていればいいかなぁ」


「ならゲーム配信とやらは次ですか」


「うん。次回からパソコンで出来る人気のゲームをすれば良いと思うよぉ」


「とりあえず、まずはチャンネルを作ってツブヤイターで告知をしよう」


「はぁい」


 エルミナが大きい方のパソコンの前に座る。

 そしてボタンを押すと電源が入りモニターにデスクトップ画面が表示された。

 立ち上がりまでめちゃくちゃ速い。


「速いな」


「1秒以内を目指したからねぇ」


 常識が吹っ飛びそうだ。

 エルミナはすぐにマウスとキーボードを操作してAiTubeにアクセスする。


「じゃあ【ファゴアット帝国】でチャンネルを作成するねぇ」


「やってくれ」


「はぁい」


 エルミナがとんでもない速さでキーボードを叩いて、すぐにチャンネルが作成された。


「アイコンとヘッダーはどうするのぉ?」


「あ……忘れてた」


 よく考えたらツブヤイターも設定してなかった。


「ふふふ。ウーちゃんらしくない失敗だねぇ」


 面白そうにエルミナが笑う。

 レイラはよく分かってなさそう。


「しょうがないだろ。初めてなんだ」


「そうだよねぇ。それでどうするのぉ?」


「うーむ。チャンネルのアイコンはファゴアット帝国の国旗じゃ駄目か?」


「多分大丈夫だと思うよぉ。じゃあ、わたしがちゃっちゃと作っちゃうねぇ」


「出来るのか?」


「イラストとかは無理だけど自国の国旗くらいなら流石に描けるよぉ」


「よし、頼んだ」


「うん」


「ヘッダーは良いのが決まるまではとりあえずそのままにしておこう」


「分かったよぉ。それでツブヤイターの方は?」


「あのカメラは使えるのだな?」


 余は小さい方のパソコンのモニターの上のカメラを見て言う。


「問題ないよぉ」


「じゃあレイラが作ってくれた衣装を着てグリーンバックの前で写真を撮ろう。背景は適当に合成してくれ」


「良いねぇ。じゃあ早速起動!」


 エルミナがそう言うと小さい方のパソコンが自動で起動した。


「どうやったんだ?」


「小さい方はこっちで全部操作出来るようになってるんだぁ」


「なるほど。じゃあレイラは衣装を持ってきてくれ」


「かしこまりました」


 すぐにレイラが衣装を持ってきたので、それに着替えてカメラの前に立つ。


「ウーちゃんポーズとってぇ」


「ポーズか……」


 とりあえず腕を組んでドヤ顔をする。


「ウルオメア様らしいですね」


「良いねぇ。じゃあ撮るよぉ」


 そうして腕組みドヤ顔写真が撮られ、エルミナが背景をそれっぽい画像と合成した。


「じゃあツブヤイターのアイコンに設定しちゃうねぇ」


「ん? そのパソコンからも出来るのか?」


「出来るよぉ」


 そう言ってエルミナが余のツブヤイターのアイコンの画像を設定した。


「……まだパスワード教えてないと思うのだが」


「インターネットのセキュリティって甘いよねぇ」


「……」


 エルミナの奴、ハッキングしやがった。

 そんなことまで出来るのか。


「まぁいい。ついでにツブヤイターにAiTubeチャンネルのURLを載せといてくれ」


「はぁい」


「じゃあ21時から配信を開始するからふたりともそのつもりでな」


「うん」


「はい」


 リビングに戻った余はスマホでツブヤイターを開いて宣伝ツブートをする。


『やっと配信準備が整ったぞ!

 今夜21時から配信を開始する!

 30分ほど雑談などをするから楽しみにしているのだぞ!

 配信ページ:xxxxxxxxxxxxxxx』


「これでよし。さぁどうなるか」


 余は初めての配信にワクワクしていた。

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