11石 金稼ぎの方法と巻き込まれた少年

11石 金稼ぎの方法と巻き込まれた少年




 ショッピングモールで買い物をした翌日。

 買った真新しい衣服に身を包んで、リビングでスマホを操作しながらなにか良い情報がないか探していた。

 隣ではレイラが買ってきた生地でメイド服を製作している。

 既にテーブルの上には完成したメイド服が2着乗っていた。

 とんでもない速さだ。

 それでいて質も高い。


「レイラ、一体何着作るんだ?」


「これで終わりです」


「そうか」


 そんな感じで昼を過ごしているとドタドタと足音が聞こえてくる。


「あの子は……」


 レイラが眉をひそめた。

 すぐにエルミナがリビングに入ってくる。


「エルミナ、騒がしいですよ」


「ごめんなさい師匠。でも、良い方法を思い付いたんだぁ!」


「良い方法? なんのことだ?」


 エルミナが急に変なことを言う。


「お金を稼ぐ方法だよぉ!」


「なんだと!?」


 その言葉にソファーから思わず腰を上げた。

 隣に座っていたレイラも手を止める。


「しかも、上手くいけばわたしたちのことがバレても問題なくなるよぉ!」


 バレても問題ない?


「詳しく説明してくれ」


「ちょっと待っててぇ」


 エルミナはそう言ってリビングから出ていくと、数秒で戻ってくる。

 その手にはエルミナが普段使っているノートパソコンが。

 そのまま余とレイラの間に座る。


「師匠、メイド服を一旦どけてぇ」


 レイラがテーブルの上からメイド服をどけると、そこにエルミナがノートパソコンを置く。


「まずはこの画面を見てぇ」


 エルミナがそう言ってノートパソコンの画面を見せる。


「AiTubeだな」


 画面には世界最大の動画投稿サイト【AiTube】のトップ画面が映っていた。


「当然知ってるよねぇ」


「流石に知ってるわ。たまに見るしな」


「私も何度か目にしましたね」


「それで? 動画投稿でもして金を稼ぐのか?」


「ちょっと違うかなぁ。AiTubeには他にも機能があるでしょぉ?」


 そこでエルミナの言いたいことが思い浮かぶ。


「まさか配信か?」


「その通り!」


 エルミナが笑顔で肯定した。


「いや無理だろ。興味があって昔調べたことがあるが、金を得る為の収益化はチャンネル登録者数が1000人以上必要だし、それにもし収益化出来ても有名になられければ……有名?」


 そこで自分の言ったことに引っかかる。


「ウーちゃんは自分たちのことがバレるのを気にしているんだよねぇ?」


「ああ」


「なら、いっそのこと自分からバラせば良いんだよぉ! それでウーちゃんの知名度を利用して配信者として人気になるんだぁ!」


 その言葉に衝撃を受けた。

 確かに余の知名度ならば有名になることは出来るが……。


「……危険ではないか? 本物だとバレれば余たちの力を狙って来る者を居るだろう」


「だから、ウーちゃんはあくまでタオスの冒険に出てくるウルオメアに似ているだけの普通の人間として配信するんだぁ」


「なるほど。ウルオメアのロールプレイ系配信者として活動するのか」


「そう! 現実的に考えて誰もウーちゃんが本物だなんて考えないでしょぉ?」


「確かに」


 そうだ。

 余がめちゃくちゃ余に似ているとしても、本物だなんて考える人間はほとんど居ないはずだ。

 というか普通は居ない。


「それで有名になればお金が稼げるし、外に出ても問題なくなるよねぇ?」


「……いけそうだな」


 そう思ったが、すぐにいくつか問題が頭の中に浮かぶ。


「配信する為の機材はどうする? やるなら性能の良いデスクトップパソコンは必要だし、実写ならカメラ、ゲームならキャプチャーボードが必要だ。それに配信する為の知識だって要る」


「知識なら問題無いよぉ。ほとんど頭に入ってるから」


 流石はエルミナだな。

 この短い間に学んだらしい。


「なら機材は?」


「それもなんとかなるかもぉ。残りの資金はいくらあるのぉ?」


「……10万くらいだな」


 それが生活費を抜いた余の全財産だ。


「なら大丈夫だと思うよぉ」


「どうするんだ?」


「ネットで調べたんだけど、近くにジャンクパーツを多く売っているお店があるでしょぉ?」


「あるな」


 余はあまり行ったことないが。


「そこで安いジャンクパーツを買って、わたしが手を加えてデスクトップパソコンとかの機材を作るんだよぉ」


「出来るのか?」


「任せてぇ! 流石にスーパーコンピュータは無理だけど、高性能なデスクトップパソコンくらいならもう作れるよぉ。ただ、工具はちゃんとしたものを買わないといけないけどぉ」


「十分だ。流石はエルミナだな」


「お手柄ですよ」


「えへへ」


 エルミナがにへらと笑う。


「じゃあまとめるねぇ。わたしはジャンクパーツから機材を作る。師匠は性能はどうでも良いから配信で使うウーちゃんの衣装を作ってぇ」


「分かりました」


「ウーちゃんは配信開始に向けてツブヤイターで宣伝してぇ」


「分かったが、あんまり効果は無いと思うぞ?」


「それでもやらないよりはマシだよぉ」


「まぁそうだな」


「それで配信に関してはウーちゃんがメインで機材とかシステムの管理はわたしがするよぉ。師匠はウーちゃんのサポート役ねぇ」


「はい」


「じゃあ行動開始だねぇ!」


 すぐに余たちは近くのジャンクパーツを売っている店に行く。

 買い物カゴの中に見てもなにに使うか分からないようなジャンクパーツをエルミナがどんどん入れていく。

 値段はどれも1000円以下と安い。

 こんなものから機材が作れるとは普通は思えないが、余はエルミナを信じているので問題ない。

 ついでにこの店では新品の工具も売っているので、それも買う。

 3人で大量に買ったジャンクパーツと工具の入った袋を両手に持って帰宅したらすぐにそれぞれ作業に移る。

 レイラは余が配信で着る衣装作り。

 エルミナは配信で他に必要なものをネットで注文したあと空き部屋でジャンクパーツを使って機材を作る。

 そして余はツブヤイターにアカウントを作って宣伝だ。


「アカウント名はウルオメア・ファゴアットでいいな。説明はそれっぽくしておいて……」


 そうしてツブヤイターのアカウントが出来た。


ウルオメア・ファゴアット

この世界に来てしまったファゴアット帝国の元皇帝だ。AiTuberとして活動することにした。


 ついでにツブートもしておく。


『1週間くらいを目処にAiTubeで配信をする予定だ。皆の者、期待して待っているように』


「これで良いか。……なんか余のすること少ないな」


 ふたりは頑張っているのにな。

 まぁ今はじっくり待とう。







「ハァ、ハァ、ハァ」


 夕方の街の中を制服姿の少年――瀬川隆盛は背後を気にしながら走り続ける。

 背後からはふたりの強面の男が追い掛けてきていた。

 走る隆盛と男たちを街の人々は怪訝な表情で見ている。


(クソッ。今日は厄日だ!)


 こんな状況になってしまったは30分前の出来事が原因だった。


 普段通りの帰り道。

 何時も通る道で隆盛は普段とは違う光景を目にした。

 ひとりに美少女がふたりの男に絡まれている。

 周りの人間は見て見ぬ振り。


(おいおい。誰も助けてやらないのか?)


 そう隆盛が思っているとあることに気が付く。

 美少女は隆盛が通っている高校の制服を着ていたのだ。


(同じ学校の生徒か。でも、あんな生徒見たことない。あんなに可愛いなら目立つと思うんだけど)


 そう思いながら隆盛は迷っていた。


(助けるべきか?)


 一応隆盛は多少の武術の心得があったが、それでなんとか出来るかは不安だ。

 そうやって迷っていると絡まれている美少女と目が合ってしまう。


「はぁ……面倒だ……やるか」


 意を決して隆盛は男たちに近付いていく。


「おい、アンタたち」


「なんだぁ?」


 男たちが振り返って隆盛を見る。


(うっ)


 あまりの強面に一瞬威圧されたが拳を握って耐える。


「なんの用だ、クソガキ?」


「俺たちは今忙しいんだよ」


 男たちの視線が美少女から外れた瞬間、美少女は駆け出した。


「なッ!?」


 とてつもない速さで駆けていく美少女の姿はすぐに見えなくなった。

 そのあまりの速度に男たちも棒立ちで見ているだけだ。


「……マジか」


 隆盛はゆっくりと後ずさってから走り出した。

 当然のように男たちは額に青筋を浮かべながら隆盛を追い掛け始める。


 こうして30分も隆盛は逃げ続けていた。

 しかし、これ以上は流石にキツイ。

 空も暗くなってきた。


(一か八か、裏道に入って撒くか)


 そう考えた隆盛は建物と建物の間の道に入るが……。


「嘘だろ」


 行く手をフェンスが塞いでいた。

 フェンスの上には有刺鉄線が張られていて登れない。


「クソガキ! やっと追い詰めたぞ!」


 その声に隆盛は振り返る。

 そこには強面の男たちが肩を上下させながら立っていた。


「手間取らせやがって!」


「くッ! お前らしつこいんだよ!」


 隆盛も男たちが30分以上追い掛けてくるとは思っていなかった。


「当たり前だ! お前の所為で極上の獲物を逃しちまったんだからなぁ!」


「せめてお前を気が済むまで殴らなきゃ気が済まねぇ!」


 男たちは血走った目で隆盛を睨み付ける。


「クソ野郎どもが……」


 隆盛はそう呟いてジリジリと後ろに下がる。

 しかし、背後にはフェンス。

 逃げ場はない。


「やるしかねぇ」


 隆盛は覚悟を決めて構えた。

 それを見た男たちも構える。

 どうやら男たちも素人ではないらしい。


(そりゃそうか)


 隆盛としては男たちが見掛け倒しだということを多少期待していたのだが、その期待は崩れ去った。


(まずは人数を減らす。狙うなら近い方の男。俺が撃てる最高の一撃を撃ってそれでダウンさせるしかねぇ)


 そう考えた隆盛が気合を入れて手前の男の殴りかかる。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 過去最高の速度で放たれる右の拳。

 決まったと隆盛は確信する。


「ふっ」


 しかし、隆盛の最高の一撃を男は鼻で笑って左手で掴んだ。


(なにッ!?)


 そのまま男は隆盛の頭を掴んで膝を腹に叩き込む。


「ぐッ!?」


(重い!!)


 吐き気を感じながら隆盛は地面に倒れこむ。


(息が……クソッ。こいつら俺よりも腕がかなり上だ)


「チッ。たった1発でこれかよ」


「お前が腹に膝を入れるからだろ。まあまだ殴れるか」


(外道が)


 男が隆盛の胸ぐらを掴んで強引に起き上がらせる。


(なにか……なにか隙がないか)


 隆盛はまだ諦める気はなかった。

 男たちを必死に睨みながら頭の中で考える。


「生意気なクソガキだな」


 次の瞬間、隆盛は己の目を疑った。

 ズドンという音を立てて謎の女が空から降ってきたのだ。


(……は?)


 隆盛は訳も分からず思考が停止してしまう。

 男たちは音に反応して背後に振り返る。


「なんだぁ?」


「誰だお前」


 怪訝そうな顔で謎の女を男たちが見る。


「助ける気なんて無かったのだが、気が変わった」


 その謎の女の声は凛としていてどこか力強く、そしてどこかで聞いたことがあるような気がした。


「なに言ってやがる?」


「見どころのある少年だからな。ここで消えるのは惜しい」


「頭おかしいんじゃねぇか」


 そこで謎の女が自分を助けるつもりだということに隆盛は気が付いて思考が戻ってくる。

 隆盛が見たところ謎の女は自分よりも身長が高いが、身体は細く男たちをどうにか出来るとは思えない。


「バカッ! 早く逃げろ!」


 ハッとした隆盛がすぐにそう言うが謎の女は無視して、被っていた帽子とサングラスを外して地面に置く。

 露わになった謎の女の顔を見て隆盛は目を見開いて絶句した。

 隆盛はその女を何度か見たこともあるし、知っていたからだ。

 しかし、それはあり得ない。

 何故なら彼女――ウルオメアは架空の存在だからだ。

 だが、実際に存在している。

 そこで隆盛は彼女がウルオメアのコスプレをしている誰かだという可能性を考えた。


「さて、極上の獲物とやらが目の前に来たらどうするんだ?」


 微笑を浮かべながらそう言った彼女の顔を見た男たちがニヤついて舌舐めずりする。

 隆盛を放り出してふたりで彼女に近付いていく。


「そりゃもちろん」


「俺たちのものだ」


 彼女は気持ちの悪い視線向けながら近付いてくる男たちの頭に手を当てる。


「?」


「はい終わり」


 それだけで男たちは地面に倒れた。

 なにが起きたのか隆盛には理解が出来ない。


「……」


 理解不能な出来事に隆盛は地面に倒れたまま顔を上げてポカーンとしていた。

 彼女は地面に置いておいた帽子とサングラスを拾って装着する。


「さて、少年。余はもう行くが大丈夫だな?」


「え?」


「ふむ。大丈夫そうだな。では励めよ」


 それだけ言い残して彼女は空に飛び上がって消えていった。

 もう隆盛には訳が分からない。


 その日の夜。

 隆盛はベッドの上で寝転がりながらずっと考えていた。


(長身に紫の髪で金色の瞳。服装は現代風だが間違いなくタオ手のウルオメアだ)


 しかし、ウルオメアはあくまでソシャゲのキャラクターだ。

 だから最初はコスプレだと思った。


(あれがただのコスプレだとは思えない。空から降ってきたり空に飛び上がったり、アスファルトにヒビを入れるのが普通の人間に出来る訳がない)


 なにより男たちの意識を手を当てただけで一瞬で奪うなんて無理だ。


(あれは本物?)


 隆盛は悩み続けて、結局明日の学校でタオ手に詳しい友人にウルオメアのことを聞くことした。


 翌日、隆盛は何時ものように学校に登校して自分の教室に入る。


「おはよう、隆盛」


 すぐに仲の良い友人の鈴鹿雄二が声を掛けてくる。


「おう、おはよう」


 返事を返して自分の机に着いてから前の席の雄二に声を掛けてる。


「なあ雄二?」


「なんだ?」


(いきなりウルオメアは実在するのか? なんて聞けるはずもないし、まずはどういうキャラクターなのか教えてもらおう)


「ウルオメアってのはどういうキャラクターなんだ?」


「お? とうとう隆盛もタオ手に興味を持ったか」


「あれだけCMをやっていれば気になる」


 実際にテレビでタオ手は2周年記念のCMを多く流していた。


「ちょい待ち」


 そう言って雄二がスマホを取り出す。


「まぁ分かると思うけど、これがウルオメアだ」


 雄二はスマホの画面を見せてくる。

 そこにはウルオメアが映っていた。

 やっぱり昨日の女と瓜二つだ。


「隆盛はどのくらい知っているんだ?」


「あー。確か帝国の元皇帝だったか?」


「そのくらいか。今は時間がないから簡単に説明するが、ウルオメアは作中で最強レベルのキャラクターだ。実際にアニメの1期ではラスボスだったしな」


「ラスボス? じゃあ倒されたのか」


「だが、2期の最後では神として復活して主人公と協力するんだ」


「神!?」


 驚いて隆盛は声を上げる。


(だが、神なら現実に現れたって……いやいやいや冷静になれ。あくまで作中の話だ)


「俺も当時は驚いたぜ。1期でラスボスだったウルオメアが神になって復活するなんてな。元々強かったウルオメアはそうして作中最強レベルのキャラクターになった訳だ」


「当然人気もあるんだよな」


「当たり前だろ。シリーズ通してトップレベルの人気キャラだ。だから今回タオ手の2周年記念で実装されたことでみんな騒いでんだよ……っと、今はここまでだな」


 そこで教室に担任の先生が入ってきた。

 結局、隆盛は昨日のことについて相談することは出来なかった。


「みんな席につけー」


「ういー」


 みんなが席に着いたらのを確認した先生は笑みを浮かべる。


「今日はなんと転校生が来ることになった。お前ら喜べ、美少女だぞ!」


「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!」」」


 突然の言葉に教室が騒めいたあと生徒たちが雄叫びを上げた。


(美少女ねぇ……)


 正直、昨日の出来事があって隆盛は美少女というものに嫌な予感がしていた。


「よし、入ってきていいぞ」


 先生がそう言うと扉からひとりの女生徒が入ってくる。

 見た目は確かに美少女だ。

 ただ――


「あぁぁッ!」


 隆盛は思わず立ち上がって声を上げる。

 何故なら教室に入ってきた美少女が、昨日男たちに絡まれていた美少女だったからだ。

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