13石 配信開始

13石 配信開始




 レイラが作った夕食を食べてから配信に備える。

 といっても余がやることはそんなになく、ほとんどエルミナがやってくれているのだが。


 そうしていると配信時間が近付いてきたので配信部屋に移動する。


「エルミナ、準備はどうだ?」


「なんの問題も無し! 完璧だよぉ」


「よし」


 余はレイラの作った衣装姿でカメラの付いたモニターの前に座る。

 よく見るとさっきは無かったマイクが置いてあった。


「マイクは必要だよな」


「ギリギリまで調整してたんだぁ」


「なるほど」


 そこでツブヤイターやAiTubeの配信ページが気になった。

 宣伝の効果は出ているのだろうか?


「このパソコン余が操作しても良いんだよな?」


「良いけど、言ってくれればわたしが操作して画面を出すよぉ」


「そうか。じゃあツブヤイターと配信ページを出してくれ」


「はぁい」


 エルミナはパソコンを操作すると余の目の前のモニターにツブヤイターと配信ページが表示される。


「お! 配信に5人待機しているな」


 ツブヤイターの方は反応ないが配信の方には人が居る。

 宣伝もまったく無駄ではなかったか。


「ウーちゃん、本番前に1回テスト画面出していい?」


「テストか……確かにやった方がいいな」


「じゃあモニターに出すねぇ」


 エルミナがそう言うとモニターにグリーンバックを背にした余が映っている。

 試しに少し動いてみるが問題なくモニターの余も動く。


「ちゃんと映っているな」


「そうでしょぉ」


「ただ画面が少し寂しくないか?」


 今は余がただ映っているだけだ。


「うーん? ウーちゃんが映ってるだけでインパクトあるけど、なにか欲しいのぉ?」


「あー、あれだ。枠を作ってテロップとか流したらいいんじゃないかと思うぞ」


「チャンネル登録お願いしますとかぁ?」


「そうだな。とりあえずツブヤイターのIDを載せてツブヤイターのフォローとチャンネル登録よろしく頼むってテロップを入れてほしい。出来るか?」


「ちょっと待ってねぇ」


 エルミナがカタカタとキーボードを叩くと、画面の下に枠が表示されて余のツブヤイターのIDが載って『ツブヤイターのフォロー&チャンネル登録よろしく頼む』というテロップが流れ始めた。


「こんな感じで良いかなぁ?」


「うむ。良い感じだが……まだなにか足りない気がする」


「なんだろぉ?」


「うーむ」


 余はモニターを見ながら今まで見たことのある配信の画面を思い出す。

 テロップも流したしツブヤイターのIDも載せた……。


「あぁそうだ。配信用のツブヤイターのタグを作ってなかったな」


「なるほどぉ。なににするのぉ?」


「そうだな……『#ファゴアット帝国放送局』にでもするか」


「良いねぇ。早速載せておくよぉ」


 エルミナがすぐに画面に#ファゴアット帝国放送局と表示させた。


「これでどう?」


「うむ。これで良いだろう。レイラから見てどうだ?」


「綺麗にまとまってますし、見やすいです」


 レイラがエルミナのパソコンのモニターを覗いてそう言った。

 どうやらレイラから見ても問題ないようだ。


「よし、これで配信しよう。配信までは……あと5分か。エルミナ、打ち合わせ通り配信が始まったらBGMを流してファゴアット帝国の国旗を1分ほど表示してくれ」


「分かってるよぉ。既にAiTubeのフリーBGMで良さげなのを見つけてあるからぁ」


「うむ。レイラはなにがあってもいいようにエルミナの近くで待機だ」


「かしこまりました」


 これであとは配信時間を待つのみ。


 ――そして、配信時間の21時になる。


「よし、配信開始だ!」


「いくよぉ!」


 すぐに配信が開始された。

 BGMが流れてファゴアット帝国の国旗が表示されている。


『始まった』『一体どんなのが出てくるのやら』『どうせしょうもないやつだろ』『期待はしていない』


 視聴者数は6人しか居ないが、既にコメントがいくつか流れている。

 大体期待していないような感じのコメントだ。

 すぐにお前らの度肝を抜いてやる。


 そして1分が経過し、BGMの音量が小さくなってファゴアット帝国の国旗が消えて余の姿が配信される。


「皆の者、余はファゴアット帝国元皇帝ウルオメア・ファゴアットだ」


 まずは軽く名乗る。


『ファッ!?』『こマ?』『ウルオメア様じゃん!』


 すぐに驚きのコメントがいくつも流れる。

 当然だろう。


「初めましてだな。よろしく頼む」


『似すぎでしょ!』『完成度高過ぎる』『声もマジもんじゃん』『どうなってんの?』


 掴みは上々か。

 ここからは事前にふたりと打ち合わせた通りにいく。

 最初は見ている者たちに情報を拡散させて出来るだけ視聴者数を増やす。


「皆の者は余のことを知っているだろう」


『当たり前だろ』『ウルオメア様すこ』『え、本物?』


「さて、色々説明したいところだが何回も説明するのは面倒だ。なので、よかったら情報を拡散して視聴者数を増やしてくれ。そうだな……とりあえず視聴者数が100人になったら説明を開始しよう」


 100人ならいけると踏んでいる。


『気になる』『ツブヤイター開くわ』『すでに開いてる』『拡散します』『もう拡散済みだわ』『知り合いに声をかける』


「よしよし、いいぞ」


 とりあえず腕を組んでドヤ顔で待つ。


『うはっ』『お手本のようなドヤ顔』


 ジワジワと視聴者数が増えていく。

 その間もコメントは流れ続ける。


『これって公式か?』『めちゃくちゃ気合い入っているしあり得るか』『タオ手の2周年記念イベントかもしれんぞ』『でも、タオ手の公式に情報ないぞ』


 フフフ、もっと話題にするが良い。

 そして3分で視聴者数100人を突破。

 しかし、それで止まることはなく、どんどん増えていく。


『今北産業』『ファッ!? ウルオメア様やんけ!』『これCG?』『Vtuberってやつ?』『いや、こんなCGあり得ないだろ』


 よし、視聴者数も増えたし次に進もう。

 次はふたりと事前に決めた設定を話す。


「うむ。視聴者数が100人を超えたな。では、説明を開始するぞ」


『お願いします』『なにが始まるんだ』『めっちゃ気になる』『マジもん?』


「今から1ヶ月前のことだ。神々に封印されていた余の前に突如謎の穴が現れた」


『そういえば封印されてたな』『謎の穴?』


「余はその穴に吸い込まれたのだ。そして気が付くとこの世界にやってきていた」


『マ?』『じゃあ本物?』『コスプレに決まってんだろ』『声も似てるし気合い入ってんな』『そういう設定ね』『ロールプレイ系か』


 予想通り余を本物だと思う人間よりコスプレしてロールプレイしていると思っている人間の方が多いな。

 良い感じだ。


「余は右も左も分からぬ中、この世界の言語を学び生活を始めた」


『面白いな』『どうやって生活始めたんだよ』


「この世界に来た原因であるあの謎の穴の正体も分からぬ以上、元の世界に戻れないと考えた余はこの世界で生きることを決意する。といった感じだ」


『なるほどね』『帰り方分からないからここで生きるのね』『本当に本物?』『てことはウルオメア様は神様って設定か』


 ここで視聴者数が1000人を超えた。

 よしよし伸びてるぞ。

 ここで次の設定だ。


「さて、皆の者は何故余がこうして配信を始めたのか気になっていることであろう」


『もち』『確かに』『なんでだ?』『これだけウルオメアに似ていたら人気出るからだろ』『どうせ金』


「もちろん、この世界で生活する為の資金を稼ぐという目的もある。だが、1番の理由は同胞を見つける為だ」


『やっぱ金か』『1番の理由?』『同胞ってなんだ?』


「余がこうしてこの世界に来れた以上、他にもこの世界に余が居た世界から誰かが来る可能性がある訳だと考えた。そこでその者……つまり同胞を保護しようと思ったのだ。余が大変だったからな。その為には余が有名になる必要がある。それで配信を始めたのだ」


『ほぉ』『面白い設定だ』『ウルオメア様は仲間を探している訳か』『流石は皇帝だな』『おっおい待てい。ウルオメアは元皇帝ゾ』


 そこであるコメントが流れる。


『これってまさかこれからもウルオメア様以外のタオ手のキャラが配信に出てくる可能性があるってことじゃね?』


 そのコメントで一度流れが止まり、爆発した。


『うおおおおお!』『マジか!』『そういうことか!』『可能性はあり得るな』『でも、ウルオメア様ほどのクオリティーは難しいだろ』


 余は心の中で笑う。

 ここまでは完全に3人で予想していた通りの流れだ。


「さて、もう残り時間が少なくなってきた」


『嫌だ』『もっと見たい』


「ここで少しだけお前たちの質問に答えようと思う」


 次の瞬間、大量の質問が流れる。


「よし、適当に選んで答えていくぞ」


 といっても事前に答える質問は決めているのだが。


「まずは『魔法は使えるのか』だな。悪いが魔法は使えない」


『そりゃそうだろ』『やっぱりな』『当たり前だろ』


「余の身体には魔力があるのだが魔法は発動しなかった。おそらくこの世界の大気に魔力が無い所為だと余は思う」


『はぇ〜』『そういう感じか』『そういえば設定でタオ手の世界の大気には魔力があるんだったな』『よく設定が練られている』


「では次だ。『ウルオメア様は神になったはずですけど、なんで人間の姿なんですか?』か。簡単だ。今は神の力を抑えているのだ」


『じゃあ神になれるのか』『見たいなー(チラッ』


「すまんが期待には応えられない。今ここで神の力を解放したらパソコンが吹き飛ぶし、視聴しているお前たちになにか影響があるかもしれないからな」


『草』『無難だな』『それならしょうがない』『ウルオメア様がパソコンってww』『ウルオメア様の口からパソコンって言葉が出るのが面白いな』『ww』


「よし時間的に次が最後の質問だな」


『俺の答えてくれ』『いや俺の』『バカ言うな。ウルオメア様は俺の質問に答えてくれるに決まっているゾ』


「最後の質問は『配信環境はどうやって整えたのか』だな。これは余の支援者のお陰だ。この世界で最初に出会った人間が余を手助けしてくれているのだ」


『そんなの居るのか』『そういう設定なだけかもしれん』『俺も支援者になりたい』『ウルオメア様に会いてぇ』


 こんなとこだな。


「さて、配信終了の時間がやってきた」


『いかないで』『延長してくれ』『もっと見たいゾ』


「悪いが時間は決まっているのでな。次回の配信は明日……と言いたいところだが、事情があって2日後になる」


 これもふたりと打ち合わせして決めた。

 余の認知度が広がるのを少し待とうということだ。


「次回はゲーム配信をするぞ。余は初見だが皆の者も知っている人気のゲームだ。是非見に来てくれ」


『なんだろ?』『ゲーム配信ね』『初見プレイか』『ぐだぐだになりそう』『絶対見るわ』


「さて、当たり前だがチャンネル登録とツブヤイターのフォローをよろしく頼む」


『おk』『もうしたわ』


「あと#ファゴアット帝国放送局でツブートすると余が反応するかもしれないからな」


『よっしゃ任せろ』『R18』


「では、皆の者また会おう。さらばだ」


 そこでBGMの音量が上がり画面がファゴアット帝国の国旗になる。

 そして配信が終了した。


「ふぅ……」


「ウーちゃんお疲れ様ぁ!」


「お疲れ様です」


「どうだった?」


「完璧だよぉ」


「流石はウルオメア様です」


「そうか」


 どうやら打ち合わせ通り行けたようだ。


「最終的な視聴者数は2900人。最高数は3000人を超えてたよぉ。チャンネル登録者数は1600人で今も増えてるよぉ!」


「上々だな」


「うん。最初の知名度ゼロの状態から考えれば上出来だよぉ」


「では、次の配信までに反応がどうなるかだな」


「ウーちゃん楽しそうだねぇ」


「ウルオメア様が楽しそうでなによりです」


 正直、楽しみでしょうがない。

 これからどうなっていくんだろうな。

 余はチャンネルページを見ながらそう思った。

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