8石 当面の方針
8石 当面の方針
謝罪も終わったことだし、気になっていたことを聞こう。
「レイラ、帝室メイド隊を辞めたんだって?」
「はい。ウルオメア様が封印されたあと、ラトア様もお元気になり、私が居る必要は無くなりました。私が仕えるのはウルオメア様とウルオメア様のお母様だけですから」
「そうか」
エルミナに聞いていた通りだな。
「そういえば師匠はなんでメイド服姿なのぉ?」
「そういえばそうだな」
今のレイラはメイド服を着ていた。
メイドを辞めたのならなんでメイド服姿なんだ?
「メイド服は私の普段着ですから」
「えぇー」
どうやらレイラはずっとメイド服を着ているようだ。
レイラらしい。
「メイド服姿以外のレイラは想像出来ないな」
「確かにぃ!」
エルミナと顔を見合わせて笑った。
そうして全員カップラーメンを食べ終える。
「美味しかったぁ」
「確かに美味しい食事でした」
ふたりは満足したようだ。
スープまで飲み干しているしな。
「ごちそうさま」
「それが食事を食べ終えたあとに言う言葉ぁ?」
「そうだ」
「不思議ぃ」
「さて、じゃあ片付けてしまうか」
「お手伝いします」
「大丈夫だ。この容器は使い捨てなのだ。だからあとは捨てるだけ」
そう言うとふたりとも驚いた表情を浮かべる。
まぁアッチの世界では使い捨ての容器なんて珍しいからな。
「へぇ!」
「驚きました。それだけの資源などの余裕があるということでしょうか」
「その内、慣れていくだろう。とりあえず見ていろ」
余は空になったカップラーメンの容器をキッチンに持って行って軽く洗う。
「なるほど。そこから水が出るのですね」
後ろを付いてきたレイラが手元を見て言った。
「帝国にも似たようなのが有っただろう?」
「はい。といっても数は限られていましたが」
「まぁな。それで洗ったこの容器をゴミ袋に入れて捨てるだけだ」
余はキッチンに置いてあるゴミ袋にカップラーメンの容器を突っ込んで封をした。
「楽ですね」
「使い捨てならこんなものだろう」
興味深そうにキッチンを見ているレイラと一緒にダイニングに戻ってさっきの椅子に座る。
「さて、まだ色々と説明しなければいけないことはあるが、とりあえず今後の方針を話そう」
「それなんだけど、さっき師匠とも話したんだよねぇ」
どうやらふたりで先に話していたようだ。
「ウルオメア様はこの世界で生きていくつもりなんですよね?」
「ああ」
「つまり元の世界に戻るつもりは無いと?」
「そうだ。ふたりには悪いと思うが、余は元の世界に戻るつもりも無いし、戻る方法も無いからな」
「いえ、それは良いのです」
「わたしも師匠もウーちゃんに付いていく気だからねぇ。ただ、時間は掛かると思うけど戻ろうと思えば戻れるかもぉ?」
「なに?」
エルミナのその言葉に驚く。
「わたしの予想ではウーちゃんの持っているスマホで召喚する時に現れた魔法陣を研究していけば、何時かは戻れると思いよぉ。ただし、その為には何回もガチャをする必要があるし数年は無理だと思うけどぉ」
「……なるほど」
魔導技師で天才であるエルミナなら考えられるか。
「ならば、一応エルミナにはその魔法陣を研究してもらうか。なにかに使えるかもしれんしな」
「分かったよぉ」
「さて、話を戻すが余の方針はこの世界で生きていくこと。これは理解出来るな?」
「はい」
「うん」
「ならば、ふたりにはこの世界のことを学んでもらう必要がある」
「確かにそうですね。今も周りには分からないものだらけですし」
「まぁそれは時間を掛ければなんとかなるだろう。特にふたりは頭が良いしな。それでふたりに一般常識を学んでもらったあとは別々のことをしてもらう。レイラはメイドとして余たちの世話など」
「はい」
「エルミナにはこの世界の機械関係を任せる。その空いた時間に魔法陣の研究も頼む」
「任せてよぉ」
「ただ、問題がいくつかある」
「それはなんですか?」
「まず余たちの知名度だ」
「知名度……ですか?」
「ああ。エルミナにも聞いたと思うが、この世界では余たちの世界は架空の物語として語られている。特に余たちのことはかなり有名だ」
「まさか……その物語のメインはあのクソ野郎とウーちゃんの戦いなのぉ?」
「流石はエルミナだ。察しが良いな。詳しく話すと物語の主人公はタオスだ」
「チッ」
即座にエルミナが舌打ちをしてレイラが苦々しい顔になる。
「タオスが余を討ち果たすまでが前半。そして穢れ神の地上侵攻から余の封印までが後半の物語だ。そしてその後から現在に至るまでが番外編のような感じで展開している」
「なんか変な感じぃ」
「先ほど、かなり有名だとおっしゃりましたが、具体的にはどれほどなのですか?」
「年寄りは知らない人間が多いだろうが、その手の物語が好きな若者はほとんど知っている。しかも、この世界ではその手の物語を好きな人間が多い。さらに興味の無い人間も周りの影響で多少の知識があったりする」
「それは……かなり厄介ですね」
「そうだ。余たちの存在がバレて騒がれるのは避けたい。上手く立ち回らなければ身動きが取れなくてなるだろう」
「それにぃこの世界ならアレもあるんじゃない?」
「アレ?」
「魔導映写機だよぉ」
「アレですか。アレは慣れるまで面倒なんですよね」
魔導映写機。
帝国で開発されて、重要施設に少数使用されていたカメラのデカイやつだ。
「確かにある。この世界ではカメラという名でかなり小型化されている上にそこら中に設置されている」
「それは危険ですね」
「ああ。隠密行動が得意なレイラでも知識無しでは対処出来ないだろう」
レイラが思わずため息をついた。
「でもぉ今のウーちゃんなら力で全部強引にどうにか出来るんじゃない?」
「確かに余ならば世界征服だって可能だろうな」
「それをウルオメア様は望まれないと?」
「ああ。一度は皇帝として覇道を進んでいた余であるが……この世界では普通に生きてみたい」
そこでレイラとエルミナが顔を見合わせて笑顔になる。
「なんだ?」
「別にぃ」
「それがウルオメア様の望みならば」
変な奴らだな。
だが、ふたりはとても嬉しそうな様子だ。
よく分からないが、まぁいいか。
「余たちのことがバレたら困るのは分かったと思う」
「はい」
「うん」
「そして次の問題。活動資金だ」
「そういえば、ガチャの時もお金について言ってたねぇ」
「ああ。現在は余と同化した諏訪葵の父親が余を養っている状態だ」
「その父親は?」
「現在外国で仕事をしているから簡単にバレはしない……はずだ。しばらくは、定期的な父親からの資金提供と貯めていた分の資金で3人分の生活費はなんとかなる」
「でも、それじゃ駄目なんだよねぇ?」
「いずれは尽きる。だから資金を稼がねばならない。ガチャにも金が掛かるしな。だが、外での長時間労働はバレる可能性がある。それにもし働こうと考えても今の余たちには身分を証明するものがない」
「それはマズイですね」
「身分を証明するものなら、レイラとエルミナがこの世界に慣れれば偽造でもなんでもして手に入れられるだろう。しかし、今のところ資金を稼ぐ方法が思いつかん」
「ウルオメア様でも難しいですか」
「うむ。余の知識もこの世界のすべてが詰まっている訳ではないからな。だから、この問題は3人で時間を掛けて考えよう。まだ時間はあるからな」
「かしこまりました」
「それはいいんだけど、買い物はどうするのぉ?」
「食事などの生活用品は通販でなんとかする」
「通販?」
「機械で品物を注文すると家まで運搬してくれるサービスだ」
「へぇ。便利だねぇ」
「それでなんとかなる。ただ、問題は衣服だろうな」
「この世界の服のサイズは分からないからねぇ」
「生地があれば私が作りますが?」
「流石にレイラでもいきなりは無理だ。余にもこの世界の女性の衣服の知識は無い。実物を店で見て買うのが一番だろう」
「危険では?」
「だが、一度は行く必要がある。ただ、その一度で当分の衣服を買う。その為にふたりは一般常識を学べ。数日後に服を買いに行く。もちろん顔は隠してな」
「かしこまりました」
「まとめるぞ。当面の方針はレイラとエルミナのふたりはこの世界の知識を学ぶこと。そして資金の稼ぎ方を考えること。あと数日後の買い物に備えること」
「頑張るぅ!」
ふたりとも頷いた。
「じゃあまずはこの家を案内するか」
その後、余はレイラとエルミナに自宅を案内しながら使い方などを説明する。
元々機械に馴染みがあり、頭も良いふたりは一度の説明ですぐに理解した。
流石に帝国と違っていて何度も驚いていたが。
今はふたりにテレビを見せて余は自室に戻ってきた。
「ふぅ……さて、親父殿にメールをしなければな」
ガチャをする為には課金するしかない。
ただ、普通に小遣いで課金するから許してと頼んでも許してはくれないだろう。
そこで自分で金を稼ぐからその金で課金するのを許してと頼む。
まともに稼いだことのない余が稼いだ金だけで課金する……そう頼めば許してくれるかもしれない。
「五分五分だな」
まぁまだ稼ぐ手段は無いのだが。
「とりあえずメールをしよう」
スマホを取り出して先ほどの内容で文字を打ち込む。
そして送信。
「うお!?」
速攻で返事がきた。
内容は『うーん。まぁあれから時間も経ったし許してあげてもいいよ。ただし! 生活費で課金したのが分かったらまた禁止だからね!』とのこと。
「意外と簡単に許してくれたな」
もっと細かく聞かれるかと思った。
「というか、返事が速すぎるだろ」
親父殿は本当に謎だ。
「今日の出来事もこのスマホが原因かもしれないし」
まぁこのスマホが原因だったら親父殿がもっと色々言ってくるし、そもそもそんなものは送ってこないだろ。
「結局、なにが原因なんだろうな」
……考えても仕方がないか。
今はこれからのことを考えよう。
「はぁ……気が重い」
ただ、エルミナとレイラに逢えたのは嬉しかった。
「エルミナは可愛いし、レイラは綺麗だ」
余も美人だしな。
そう思うとこれからのことが楽しみになってきた。
「よし、頑張るぞ」
余は部屋を出てふたりのもとに向かった。
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