7石 レイラ召喚

7石 レイラ召喚




「だから師匠を呼んでも大丈夫ぅ!」


 レイラが来てくれるなら確かに心強い。

 それに余はエルミナの時と同じようにレイラにも逢いたい。


「分かった。レイラを召喚しよう」


「うん!」


「まずはステータスだ」


 余はスマホを操作して所持一覧からレイラをタップする。

 すると、すぐにレイラのステータスが表示された。


名:レイラ

Rare:UR

Lv:1/100

HP:4000 MP:4500

属性:【風】【闇】

【筋力:B+】【敏捷:S+】【器用:S】

【耐久:B】【魔力:B+】【幸運:B+】


「やはり敏捷が突き抜けているな」


「師匠、ウーちゃんが人間だった頃はウーちゃんよりも速かったからねぇ」


「流石は余とエルミナを鍛え上げた人間だ」


 レイラは元暗殺者らしく速度重視の戦闘スタイルな為、敏捷がS+という人間としては突き抜けた数値になっている。

 そして、どんなことでも器用にこなすので器用も高い。

 魔法の属性も風と闇を持っており、暗闇の中でレイラを見つけるのは困難だろう。

 ただ、それ以外のステータスはそこまで高くない。

 といっても一般兵士に比べたら高い方だ。


「あ! なにか点滅しているよぉ? サブに編成?」


 スマホの画面を覗いていたエルミナがそう言う。


「それが召喚するボタンだ」


 レイラのステータス画面はエルミナの時と同じようにサブに編成するボタンが点滅していた。

 余はそのボタンをタップする。


 『レイラをこの世界に召喚しますか? はい/いいえ』


 そう、画面に表示された。


「レイラを召喚するぞ。準備はいいか?」


「何時でも良いよぉ!」


「よし!」


 余は気合いを入れて『はい』をタップする。

 すると、エルミナを召喚した時と同じように床に光の円が出現した。

 その円の中を線が走り出して、円が魔法陣になる。


「さっきの魔法陣と違う?」


 隣でエルミナがそう呟く。

 魔法陣から光の柱が立ち上る。


「来るぞ!」


 光の柱が消えると、魔法陣の上に公式設定で余より3センチ低いが175センチの長身で、緑色のミディアムヘアの女性が目を閉じて立っていた。

 間違いなく彼女はレイラだ。


「師匠!」


 エルミナが声を上げる。


「ん……」


 その声に反応するようにレイラがゆっくりと目を開く。

 そして黒い瞳が余を捉えた。

 その瞬間、レイラが驚きの表情を浮かべてからその場に跪く。


「陛下……なのですか?」


 その声は震えていた。

 よく見ると身体も震えている。


「ああ……余だ」


 ポタポタと床に水滴が落ちている。

 跪き下を向いていて顔は見えないが、レイラが涙を流しているのが分かった。


「陛下……私は、もう二度とアナタに逢えないと……」


「レイラ……」


 あの何時も冷静だったレイラがこんなに感情を表に出すのを見るのは初めてな気がする。


「また陛下に逢えて……そのお顔をこの目で見ることが出来て大変嬉しく思います」


 レイラを悲しませてしまった苦しみとレイラにまた逢えたという喜びが混じり合う。


「まだ余を陛下と呼んでくれるのか?」


「当たり前です。私にとって陛下は生涯にただひとり」


 その言葉に思わず涙が出そうになってしまうが、それを堪える。


「だが、今の余はもう皇帝ではない。昔のように名前で呼んでくれないか?」


「はい、ウルオメア様」


 レイラは顔を上げて微笑みながら名前を呼んでくれた。


「師匠っ!!」


 そこで我慢出来なくなったエルミナがレイラに飛びつく。

 それを危なげなく抱きとめる。


「エルミナ。アナタもこの場所に?」


「うん! ウーちゃんがわたしたちを呼んでくれたんだよぉ!」


「……そうだったんですか」


 レイラ周囲を見る。


「この場所がどこだか分かりませんが、必ずウルオメア様のお力になります」


「うむ。レイラが居れば頼もしい」


「恐縮です」


 そこでぐぅーと誰かの腹の音が鳴る。


「あはは……朝からなにも食べてなかったからお腹空いちゃったよぉ」


 どうやらエルミナの腹の音だったらしい。


「しょうがないな。大分遅いが昼食にするか」


「なら私が」


 すぐにレイラが声を上げるが、今は無理だろう。


「いや、レイラはエルミナに今の状況を聞いておけ。流石にレイラでもこの世界でいきりなり食事を作ることは無理だろう」


「?」


 レイラは不思議そうな顔をしている。


「ふふっ。エルミナ頼んだぞ」


「任せてよぉ」


 エルミナに説明を任せて余はキッチンに向かう。


「さて、どうしたものか」


 この家で余は一人暮らしだった。

 自炊なんてほとんどしない所為で食材が無い。

 今、この家にあるのはカップラーメン3個。


「今はこれしかないか」


 余はヤカンに水を入れて湯を沸かす。

 時計を見ると丁度17時だった。

 昼食はこれでいいが、夕食はどうするか?


「外に買いに行くしかない……か」


 顔を見られて騒がれる可能性もあるが、まぁ暗くなってから行けば大丈夫か。

 そこでヤカンから湯気が吹き出す。


「湯が沸いたか」


 3個のカップラーメンに湯を注ぐ。


「5分待ち」


 時計を見ながら完成を待つ。


「そろそろだな」


 カップラーメンを1個ずつ4人掛けのテーブルの上に移動する。


「余は箸でいいが、ふたりはフォークか」


 何時も使っている箸とフォークふたつを取り出して、それぞれのカップラーメンの前に置く。


「さて、エルミナの説明は終わったか?」


 7、8分しか経ってないが、あのエルミナとレイラなら大丈夫だろう。

 そう思いながらリビングに向かう。


「あ、ウーちゃん」


 リビングに入ってきた余にエルミナがすぐ近付いて来る。

 レイラはなにか言いたげな様子だ。


「ウルオメア様」


「待てレイラ。聞きたいことは多いだろうが、それは食事しながらにしよう。付いて来い」


「分かりました」


 ふたりを連れてダイニングに向かう。


「うわぁ。いい匂い」


 すぐにカップラーメンの匂いにエルミナが反応した。


「さぁそこに座ってくれ」


 ふたりをテーブルの前の椅子に座らせて余は対面に座る。


「早速食べよう」


「毒味を」


 何時ものようにレイラがそう言ってくる。


「要らん要らん。理由は分かるだろ」


「……分かりました」


 すぐに退いた。

 この世界は余の方が詳しいからな。


「いただきます」


 ふたりが不思議そうな顔で見てくる。


「いただきますっていうのはこの国で食事をする前に言う言葉だ」


「なるほどぉ。いただきます」


「いただきます」


 エルミナとレイラはそう言った。

 余がカップラーメンの蓋を剥がすとふたりも見よう見まねで蓋を剥がす。


「熱いから気を付けろよ」


「うん」


「はい」


 エルミナはすぐにフォークを器用に使って麺を口に入れた。


「あふぃ……けど美味しいぃ!」


 それを見てレイラも器用にフォークを使って麺を口に入れる。


「確かに美味しいですね」


 大丈夫そうだな。

 余も箸でカップラーメンを食べる。

 レイラも見ているし、流石に啜りはしないが。


「本当に異世界なのですね」


 しばらく、カップラーメンを食べているとレイラがポツリと呟いた。


「師匠信じてなかったのぉ?」


「信じていなかった訳ではないですが」


 そこでレイラが真剣な顔で余を見る。


「エルミナに聞きました。この世界の男性と同化したと」


「ああ」


「本当に悪い影響は無いのですね?」


「エルミナにも言ったが、多少性格が男らしくなったくらいだ。問題ない」


「そうですか」


 どうやら余のことが心配だったようだ。

 これ以上、このことを聞かれてもしょうがないし余が言いたいことを言おう。


「レイラ、強引にこの世界に呼んでしまってすまなかった」


 余はレイラに頭を下げる。


「頭を上げてください!」


 慌ててレイラがそう言った。

 余はゆっくり頭を上げる。


「私はウルオメア様が居なくなってしまって生きる意味を失いました。ウルオメア様の居ない世界に意味なんて無いんです」


「レイラ……」


「だから、私を呼んでくださってありがとうございます」


 そう言って今度はレイラが頭を下げた。


「ふっ。なんで余がレイラに頭を下げられるんだ。これからも頼りにしているぞ」


「はい」


 レイラは頭を上げて微笑んだ。

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