6石 ガチャで出たものたち

6石 ガチャで出たものたち




「何故そうなる?」


「だってガチャがどういうものか知りたいし、どういう風に人が召喚されるのか見たいのぉ。それに、もうひとりくらい居た方が良いと思うんだぁ」


「だが、さっきも言ったように人間は出にくいのだ。たった3回では出ないぞ?」


「大丈夫だよぉ」


「なにがだ?」


「だって、ウーちゃんは昔から運が良かったじゃない」


「それはそうだが……」


 確かに余のステータスの幸運はEXではあるが、現実でどう作用するのか分からない。

 ゲームで幸運は命中率や回避率、クリティカル率に関係していた。


「それに、ウーちゃんなら必要な時は絶対に失敗しないってわたし知っているものぉ」


 エルミナにそう言われると弱い。


「分かった。回そう」


「やったぁ!」


 嬉しそうにエルミナが飛び跳ねた。

 それを横目に見ながらスマホの画面をガチャ画面に切り替える。

 すると、すぐにエルミナがスマホ画面を覗いてきた。


「帝国ピックアップガチャ?」


「このガチャではファゴアット帝国関係のもののみが出るということだ」


「そうなんだぁ。なら王国のクソ野郎は出ないんだねぇ。良かったぁ」


「ク、クソ野郎?」


 そんな言葉がエルミナから出てきたことに驚いてしまう。

 てか、そのクソ野郎ってまさか……。


「そのクソ野郎っていうのは……タオスのことか?」


「うん。今はしょうがなく帝国は王国と協力しているけど、わたしはあのクソ野郎がウーちゃんを殺したことを絶対に許さないんだからぁ」


 エルミナは真顔でそう言って、すぐに笑顔に戻った。


「エルミナ……すまない」


 彼女にそんな悲しみを感じさせてしまったことに胸が痛む。


「ウーちゃんが謝ることじゃないよぉ。それに今は一緒に居られるからいいんだぁ」


「……そうか」


「だから、今はガチャを回そう!」


「ふふっ。そうだな」


 再びスマホの画面に目を移す。

 そして、召喚ボタンを指差す。


「ここを押すと召喚されるのだ」


「ふーん……へー」


 興味深そうにエルミナがじっと画面を見る。


「こういう機械に直接触って操作出来るのはすごいねぇ。どんなものが出るのかなぁ」


「いくぞ?」


「いいよぉ」


 余は召喚ボタンをタップした。

 召喚画面は通常の光を放って円形が回転する。


「これは駄目だな」


「もう分かるのぉ?」


「見てろ?」


 画面から光が消えると装備がひとつ表示されていた。


「【帝国式魔導拳銃】……レアリティはNか」


「帝国式魔導拳銃ってあのオモチャ?」


「あのオモチャだな」


 帝国式魔導拳銃は今から50年以上前に開発された魔導兵器のひとつ。

 当時、帝国で使われていた実弾の銃では性能に限界が出ていた上に弾の費用も馬鹿にならない為、代わりになるものが必要だった。

 そこで、実弾の代わりに魔力を弾にして発射するというコンセプトのもとに開発されたのが、この帝国式魔導拳銃。

 だったのだが、実用されることはなかった。

 というのも帝国式魔導拳銃には大きな欠陥があったのだ。

 開発当初、帝国式魔導拳銃は魔力の少ない一般兵士にも使えるように大気中の魔力を魔石にチャージするタイプだったのだが、それでは一発を発射するまでに3日も掛かることが分かってしまう。

 そこで己の魔力を魔石にチャージすることに変更したのだ。

 そして実戦配備を考えて魔石のコストも抑えた、その結果、並の兵士が持つ魔力では一発分をチャージするのが精一杯で、逆に魔力を多く持つ人間が大量に魔力を込めると魔石の容量をオーバーして中の回路がぶっ壊れるというデリケートな魔導兵器になってしまった。


 その後にもっと良い魔導兵器が開発されたので、結局帝国式魔導拳銃が実戦で使われることは無かった。


「それって召喚出来るんだよねぇ?」


「ああ、多分な」


「じゃあ召喚してぇ」


「別にいいが、こんなものどうするんだ?」


「この世界には魔導が存在しないんでしょぉ? じゃあ一応魔導兵器であるそれがこの世界来たらどうなるのか気になるのぉ」


「なるほど」


 確かに気になるな。

 魔導兵器がこの世界で使えるのか。

 まぁ魔法が使えるのだから使えるとは思うが。

 所持一覧から帝国式魔導拳銃を表示してタップすると『帝国式魔導拳銃をこの世界に召喚しますか? はい/いいえ』と表示された。


「やはり召喚出来るな」


「やったぁ」


「よし、召喚だ」


 余は『はい』をタップする。

 すると、床に魔法陣が現れてその上にポンっと帝国式魔導拳銃が召喚された。

 なんかエルミナの時と違って随分と簡単だな。


 エルミナがじっと帝国式魔導拳銃と魔法陣があった床を見ている。


「うーん。一瞬しか見えなかったけど、あの魔法陣がどういうものか分からなかったよぉ。間違いなく召喚関係だと思うんだけどぉ」


「エルミナに分からないのなら誰も分からないな」


「召喚専門の魔導技師なんて帝国には居ないからねぇ」


「帝国以外なら居るのか?」


「王国なら召喚専門の魔法師が居るからねぇ」


「ああ王国の魔法師か」


 確かに王国の魔法使いなら召喚専門も居るだろう。

 だが、ガチャでは王国の者は出ない。

 それにそこまであの魔法陣について知りたい訳ではない。


「よっと……うーん」


 エルミナが床の帝国式魔導拳銃を拾ってジロジロ観察する。

 知ってはいたが、帝国式魔導拳銃は普通の拳銃よりも少し大きいくらいで別に光線銃のような見た目はしていない。

 ちょっと残念だ。


「間違いなく魔導兵器だし、どうやら問題なく使えるねぇ」


「そうか」


 やはり普通に使えるか。


「暇つぶしには良いかもぉ」


「外で見られるなよ?」


「なんでぇ?」


「この国では許可のない武器の所持は禁じられているからな。見つかると治安組織が飛んでくるぞ?」


「ふーん? 変な国だねぇ」


「確かにな」


 余やエルミナの常識からするとそうだろう。


「じゃあガチャの続きをしようかぁ」


「まだやるのか?」


「だって、まだ誰の権利も出てないでしょぉ?」


 エルミナは余が誰かを当てるのを疑う様子もなく笑顔で言う。

 しょうがないな。


「じゃあもう一回やるか」


「うん」


 余は再びスマホの画面をガチャに切り替える。


「あ、そういえばさっきのガチャの時、なんで駄目だって分かったのぉ?」


 そこでエルミナがそう聞いてきた。


「ああそれは光の色で分かるのだよ。金色や虹色だと人物の権利が出る」


「へぇ」


 エルミナはそれを聞いて笑顔でスマホの画面を覗く。


「じゃあ次は見られるねぇ」


「……いくぞ」


 召喚ボタンを人差し指でタップする。

 円形が回り始めて――虹色に輝いた!


「なにぃ!?」


「やったぁ!」


 ここでURキャラクター確定だと!?

 余の幸運EXが作用しているのか!


「誰が出る?」


 そして、結果が表示される。


「【レイラ】!?」


「うわぁ! 師匠だぁ! やったぁ!」


 エルミナが身体全体で喜びを表現する。

 それも当たり前だろう。


 レイラ。

 彼女は帝国のメイドだ。

 ただのメイドではない。

 メイドの中でもひと握りのエリートしかなれない帝室メイド隊のメイドのひとり。

 しかも、レイラはその帝室メイド隊のメイド長だ。

 帝室メイド隊は家事だけでなく、いざという時に主人を守る為に戦闘も出来なければならない。

 その帝室メイド隊のメイド長であるレイラも当然戦闘が出来る。

 その腕前は超一流。

 帝国でも上から数えた方が早いくらいだ。

 それにレイラは家事や戦闘だけでなく、あらゆることを涼しげな顔でこなす、とても器用な人物。


 それほどまでの有能な力を持つ理由は彼女の過去にある。

 レイラは元々世界有数の暗殺組織のメンバーだった。

 幼い頃から暗殺組織にどんな環境でも入り込めるように育てられた結果、レイラはなんでも出来るようになったのだ。

 そんなレイラが帝室メイド隊に入ったのはある暗殺依頼が原因だった。

 その暗殺依頼とは帝国の皇后の暗殺。

 余の母上の暗殺依頼だった。

 母上を暗殺する為にその実力で帝室メイド隊に入り込んだ。

 そしてレイラの思惑通りに母上付きのメイドになった彼女は暗殺の機会をうかがう。

 しかし、レイラはすべてを包み込むような優しさを持つ母上と過ごす内に母上に情が移ってしまった。

 苦悩する彼女にある日母上はレイラが己を狙う暗殺者だということに最初から気が付いていたことを明かす。

 レイラが暗殺者だと気が付いていてもなお彼女に優しく接する母上に説き伏せられたレイラは感動し、忠誠を誓う。


 しばらく平和な日々が続いていたが、レイラの暗殺失敗に気が付いた暗殺組織が焦って腕利きの暗殺者を数人、母上に向けて送り込んだ。

 レイラはそれをなんとか撃退したのだが、母上は毒を受けてしまう。

 どうすることも出来ず、母上は亡くなった。

 母上は力尽きる直前にレイラに自身のお腹の子のことを託す。

 亡くなった母上のお腹から産まれたのが余であった。

 暗殺組織をひとりで残滅したレイラはメイド長まで上り詰めて余の世話をするようになったのだ。


 そう、レイラは余とエルミナを育て上げた女傑である。

 余は彼女を尊敬しているし、エルミナは彼女を師匠と呼んで慕っている。

 当然、そんな彼女も余とタオスの最終決戦に参戦していた。

 エルミナとタオスたちの戦闘中にタオスの暗殺を狙っていたのだが、失敗して意識を失う。

 レイラが気が付いた時には余は死んでいた。


「レイラ……」


「師匠が来てくれるならなんの心配もなくなるよぉ!」


「それは……そうだが」


「どうしたのぉ?」


「レイラを呼んでいいのだろうか?」


「え?」


「今の帝国は大変で、余の妹である【ラトア】が頑張っているだろう。メイド長であるレイラもラトアを支えるので手一杯なはずだ。そんな状態でレイラを呼ぶ訳には……」


 そうして悩んでいるとエルミナが不思議そうな表情を浮かべたあとすぐに笑顔になる。


「あ、そっかぁ。ウーちゃん知らないんだぁ」


「なにがだ?」


「師匠は帝室メイド隊辞めたんだよぉ」


「なに?」


 レイラが帝室メイド隊を辞めた?

 あのレイラが?


「一体何故?」


「元々ウーちゃんが殺されたあとに帝室メイド隊を辞める気だったらしいんだぁ。ウーちゃん以外に仕える気はないってねぇ」


「レイラが……」


「でも、ウーちゃんが最後まで気にかけていたラトアちゃんのことが気になってメイド長を続けてたんだぁ。それでラトアちゃんが元気になったからもう大丈夫だと思ったらしくて帝室メイド隊を辞めてどっか行っちゃったぁ」


「そんなことがあったのか」


 あのレイラがメイドを辞めるとは。

 本当に余は思われていたんだな。


「今は他の人がラトアちゃんを支えているから大丈夫だと思うよぉ」


「そうか……」

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