第14話 ステータスオープン勇者 クリスタルスライム

冒険者にとってモンスターとの戦いは、経験を積み、己の力量を高めるための手段である。なぜなら、冒険者は達成するための目標があり、それを阻むものがモンスター。そして、モンスターを倒す際にはその倒し方が重要となってくる。

 タカギたち一行はさっそくダンジョンへと仕事に出かけている。町の近くにはまだ未攻略のダンジョンがあり、多くの冒険者たちがそこで稼いでいたのだ。

 ダンジョンには宝物や金貨が手に入り、倒したモンスターによってギルドから報酬ももらえるのだ。冒険者にとっては仕事場なのである。そしてダンジョンは最深部のボスキャラが倒されない限り、モンスターや財宝は再配置されるのだ。

「なんだ、あれは?」

 ダンジョンに潜ったタカギたち冒険者パーティが出会ったのは、グリーン色のジェル状の生物。スライムと呼ばれる生物である。スライムは動きは緩慢であるが、天井から不意をついて落ちてきたり、落とし穴の底で獲物が落ちてくるのを待ったりすることで、食らいついた獲物を捕食する。

 一度、体にまとわりつかれると実に厄介なモンスターである。ダンジョンで遭遇した場合、冒険者は大抵の場合は無視を決め込む。

 向こうから襲い掛かることは稀だし、逃げれば問題ない。倒すとなると剣などの物理的な攻撃は効果がないので、火で焼くか魔法を使うしかない。

 それではコストパフォーマンスが悪いので無視というのが普通なのだ。

 だが、この冒険者パーティは無視をすることができないでいた。なぜなら、スライムは次の階層へ行くべく扉の前に陣取っていたからだ。

「どうする?」

 そう僧侶のホーキンスはドワーフのベルドモットに指示を仰ぐ。動きが緩慢なスライムはぬとぬととうごめている。

「ちっ……面倒だ。グリーンスライムなら火に弱いというからな。松明の火でどかすか」

「いっそのこと、私の火の魔法で焼き払いますか?」

 そう魔法使いのシエラが申し出たが、スライムごときに貴重な魔法を使うのはもったいない。ベルドモットはオイルと松明を使って焼き払う判断をした。

(ステータスオープン!)

 タカギはスライムのステータスをオープンする。


 クリスタルスライム 攻撃力1 防御力1

但し、火のエネルギーを吸収すると増殖して手に負えなくなる。倒すには冷気で凍らせるしかない。


「ちょ、ちょっと待って!」

 タカギはスライムの正体を看破してそう止めた。このスライム、見た目は緑色だからオーソドックスなグリーンスライムと思われたが、どうやらそうではないらしい。クリスタルスライムという透明なスライム。色が緑なのは苔か何かを食べたからであろう。

「止めるな、タカギ」

 そうベルドモットはタカギを制する。手に持った松明を近づけようとする。

「そいつはグリーンスライムじゃない」

 タカギの言葉にベルドモットはすんでのところで松明を止めた。

「なんだと?」

「色が緑色だから典型的なグリーンスライムじゃないの?」

 そう魔法使いのシエラがタカギに尋ねる。タカギの言葉に僧侶のホーキンスもエルフのジゼルも意外そうな顔をしている。タカギは説明をする。

「そいつはクリスタルスライムだよ。色が緑なのは擬態しているから」

「……確かにクリスタルスライムと言うのがいると聞いたことはあるが、お前は区別がつくのか?」

 ベルドモットがそう聞くのも仕方がない。スライムの種類は体の色で判断するのが、常識となっていたからだ。

「一度、見たことがあるのです。信じられないのなら、少しだけ松明を近づけてみてください」

 タカギの指示にベルドモットはそっと松明を近づける。燃える火の熱にあぶられたスライムの表面はぐつぐつと泡を吹き始めた。普通ならここから熱で溶解していくのであるが、このスライムは別の反応を示した。泡が大きくなると体を膨らませ始めたのだ。

「おおお……これは確かに……」

 ベルドモットは松明を遠ざける。タカギの指摘通り、このスライムは熱で増殖するタイプである。ベルドモットは下の階につながる通路に陣取る不気味なスライムの排除に頭を悩ませる。

「タカギの言う通り、こいつがクリスタルスライムだとすると、どうやって倒せばいいのだ?」

 火が効果がないとなると、倒し方が分からない。倒さななければ、ダンジョンの深層部まで行けなくなる。

「こいつは冷気に弱いのです」

「冷気ですって?」

 シエラが首を振った。他のメンバーがシエラに視線を送ったので、それには答えられないとの反応だ。冷気系の魔法は高度であるので、高位レベルの魔法使いでないと扱えないのだ。

「困ったな……」

「我々ではこのスライムを排除できない」

 ベルドモットとホーキンスは諦めたかのような会話をする。ここまでの戦利品が少なかったので、今回の冒険は赤字が確実なのだ。

(しょうがないな……)

 タカギは自分のステータスをオープンした。魔力は400超えの自分のステータス数値からいけば、可能な魔法はたくさんあるのだ。タカギは最初の画面を右手で左へ払う。すると使える魔法一覧が出てくる。タカギは戦士を職業として選んだので、画面いっぱいの使える魔法は全てOFF状態である。

(これをONにする)

 タカギは中級魔法ブリザードを解放した。これでブリザードを発動することができるのだ。

「ボクに任せてくださいよ」

 タカギはスライムの前に出る。右手を開いてスライムへ向ける。

「任せるって、戦士の出番は……」

 ベルドモットはそこまで言いかけて、目の前の信じられない光景に絶句した。駆け出しのシェル階級新米戦士だと思っていた若者が、魔法を発動させているのだ。しかも、パーティの魔法使いシエラでさえも使えない中級魔法である。

「……タカギ、お前は戦士じゃなかったのか?」

 ベルドモットはブリザードの魔法の効果で白く固まり、ひび割れとともに粉々になったスライムを唖然と眺めてそう言った。タカギはその言葉を軽く返した。

「あの、今、急に目覚めたのですよ」

 苦しい言い訳だ。

「急に目覚めたって、ブリザードの魔法は魔法学院でも教えてもらえない中級レベル。魔法大学院レベルですよ」

 シエラの目はタカギを(マジですか。信じられないわよ)と言っている。

「いや、急になんていうか」

 タカギは一瞬だけヤバいと思ったが、まあ、ここはごまかそうと決めた。

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