第13話 ステータスオープン勇者 冒険者ギルドにて
冒険者ギルドを示す剣と盾をあしらった『G』の文字の看板。全く問題なく見つけることができた。
「登録ですか?」
お約束ながら冒険者ギルドの受付嬢は可愛い。タカギは思わず食事に誘いたくなったが、思いとどまった。ゲームの世界と思うと大胆になってしまう自分が怖い。
「はい。冒険者になりたくて村からやってきました……」
タカギは爽やかな少年を演じる。今の自分は33歳のおっさんではない。この世界では17歳のリニューアルした勇者なのだ。
「はい。では、この用紙にお名前を記入してください。文字は書けますか?」
笑顔の可愛い受付嬢はそう心配そうに聞いたが、タカギにとっては問題ない。なぜか、この世界の文字が書けるし、読めるのだ。
「タカギ・ユーマさん……ですね」
「そうです。タカギです」
「不思議なお名前ですね。まるで異世界からやってきた勇者様のようです」
タカギは思わずドキッとしたが、受付嬢の表情からそれがリップサービスに過ぎない言葉だと汲み取った。
「いやあ、勇者だったらよかったのにねえ~」
「クスクス……。皆さん、心の中では自分が勇者だと思っているものですわ。冒険者は危険な仕事ですからね。自分に自信がないとやっていけないです」
「そうだね……」
タカギはそう答えたが、心の中は天にも昇る快感に酔いしれた。
(うい~っ。俺、本当の勇者だもんね~。最強だもんね~。でも、それを知っているのが自分だけって、何だか気持ちえええ~)
言ってしまいたいけど、あえて言わない。というか、この場で言っても信じてもらえないけど、自分が勇者であることは変わりがない。
「それではタカギさん。ジョブ・ミラーで適性を審査します。大丈夫ですよ。これはあなたの潜在能力を測り、職業を決定する際の参考にするものですから」
(はいはい、知ってますよ)
もちろん、このシステムもタカギは承知している。自分が没頭していたゲームと同じだったからだ。だから、事前に自分のステータスに細工をしている。高すぎる数値はボーナスポイントへ戻して平均値にしている。
町を歩いていた若者のステータスを参考にちょっとだけ戦闘に必要な数値を上げていた。
「タカギさん、敏捷性と筋力、体力が平均値以上ですね。なかなかの数字です。戦士の才能がありそうですよ」
受付嬢は少しだけ感心したようにそうタカギに知らせた。タカギはしてやったりと心の中でガッツポーズをした。狙い通りに進んでいる。
「それではタカギさんは冒険者として登録されました。これが冒険者である身分を示すものです」
そう受付嬢は初級冒険者の印であるシェルのタグを渡した。タカギはそれをもらって身に付ける。
「ありがとうございます」
(はいはい……まずは最底辺のシェルから。ここから、怒涛の出世が始まる。勇者タカギの伝説が始まるぜ)
「タカギさん、あそこの掲示板に依頼が掲示されています。やりたい仕事があれば、受付にもってきてください。タカギさんは最下級の冒険者ですから、簡単な依頼から経験を積むとよいです。でも、難しい依頼をやりたいなら、経験豊富なパーティに加えてもらうという方法もありますよ」
そうクセ毛オレンジ髪のギルド受付嬢は説明をした。タカギは好意的な感じを受けるこの受付嬢に笑顔を向けた。
「では、パーティに加わるにはどうすればよいですか?」
これはタカギにとっては切実な問題だ。ステータスは高くてもコミュニケーションを行うのは少し怖い。ギルドの受付嬢と話すのは、ファーストフードの店員と話す感覚だが初対面の冒険者と話すのは違う。ギルドの酒場で自分をパーティの加えてくれと頼むのは、ちょっと敷居が高い。
もちろん、ステータス画面を開き、交渉力の数値にボーナスポイントを振り分けて高い数字にすれば、交渉はうまく行くかもしれないが、心理的に最初に話しかけるハードルが高いと思ったのだ。
人と話さず、ゲームばかりしていたタカギ自身の元から劣等感がそれを阻むのだ。アポ電の仕事のトラウマもある。そんなタカギの心の葛藤を知らないでか、受付嬢は仕事の依頼とは違う掲示板を指さした。
「タカギさん、あそこの掲示板は仲間を募集しているパーティが掲示されています。あそこの中から、これはと思うパーティを選べば探す手間は省けますよ」
「ふ~ん……」
タカギはどうするか迷った。ソロで冒険するという考えもあったが、一人でダンジョンに入るとか、野営をするとかはちょっと怖いと思ったのだ。もちろん、どんなモンスターが出てきても、それを倒す自信はあるのだが、暗い所に一人でいるのはタカギ本体の精神が拒否をする。
タカギは仲間募集の張り紙を見る。この町はそれほど大きな町ではないので、募集案件も多くはない。5枚の張り紙があるだけであった。
(なになに……これは魔法使い募集……これは神官……戦士はあまりない……)
戦士は剣さえ持てば、誰でもできる。特殊な能力はいらない。だから、冒険者を志すものは向き、不向きを問わず戦士にはなれる。もちろん、戦士として生き残るには、才能と努力。剣技を身に付け、経験を積み重ねる必要があるのは、どの職業でも同じだ。
タカギは戦士として登録されている。これはステータス画面で魔力を低めに変更したため。なれる職業には『戦士』しか表示されなかった。
「おっ……。このパーティ、戦士を募集している……」
タカギが手に取った1枚の張り紙。前衛で戦える戦士を一人募集していることが書いてあった。
「あの……この張り紙ですが……」
タカギはその張り紙をもって受付嬢のところへ行く。受付嬢はそれを見ると、酒場エリアに目を移し、依頼人の顔を見つけると手を振った。
「ベルドモットさん、パーティの加入希望者が来ましたよ」
「おう!」
そう荒々しい声の持ち主は、長い顎髭の小男。背は低いが筋肉質のがっしりとした体。鎖帷子と鉄のかぶと、そしてバトルアックスを装備している。そして典型的な種族を示す髭。
(これがリアルのドワーフか……)
タカギはやって来るがっしりした筋肉男を見ながら、そのステータスを確認する。
ベルドモット 種族ドワーフ 職業 戦士 34歳 男
攻撃力158 防御力140 魔力0
くさりかたびら 鉄の斧 鉄のかぶと 旅人の服
ウッド階級レベル7 頑固な性格のベテラン冒険者である。
「なんだ、シェル階級って、初心者かよ。しかも、装備も整ってないズブの素人じゃないか」
そうドワーフはタカギを見てそう貶したが、目はタカギの全身をくまなく観察している。言葉とは裏腹に興味を持ちつつあるようだ。
「お前、名前はなんて言うんだ?」
ドワーフ男はそうつっけんどんに質問してきた。
「タカギ……タカギ、ユーマです」
「タカギ……変な名前だな。俺はベルモット。見て分かる通り、ドワーフ族の戦士だ」
「東の島国にそんな名前の人間が多く住むらしいから、東の出身じゃないの?」
そう言ったのはドワーフの後ろからやって来る女性。こちらは人間のようだ。格好からして魔法使いだろう。タカギはステータスをオープンする。
シエラ 種族 人間 職業 魔法使い 29歳 女
攻撃力35 守備力58 魔力154
ウィザードローブ 樫の杖 魔法使いの帽子
ストーン階級レベル18
(魔法使いのお姉さんきれいだなあ……)
タカギの意識は魔法使いの女性に釘付けだ。さらに後ろには僧侶らしき男とエルフの少女がテーブルに座ってこっちを見ている姿が目に入った。魔法使いの女性がそこから歩いてきたので、きっとパーティの一員なのであろう。
「時間もないことだし。この人、何だか使えそうに思うのよ。今回はお試しで採用するということでどうかしら?」
そう魔法使いの女性(シエラ)は、タカギを頭のてっぺんから足先までを見てそう言った。ドワーフが頷くとタカギに手を差し出す。
「シエラと言います。職業は魔法使い。階級はストーンよ。今日からよろしく」
「タカギ……タカギ・ユーマです。こちらこそ、よろしくお願いします」
タカギは差し出された右手に手を添えた。女性の手に触れるのは久しく記憶にないから、心臓がどきどきしてしまう。
「他のメンバーも紹介するわ」
そう言うとシエラはタカギをテーブルへと誘う。先ほどから様子を伺っていた僧侶の男とエルフの女の子がいる。
「こちらが僧侶のホーキンスさん」
「ホーキンスです。アリエラ教の司祭です」
そう言って男は右手を胸に当てた。これが他人への挨拶なのであろう。アリエラ教というのがどういうものなのかは、タカギには分からない。
(そういう場合は、ステータスオープン!)
タカギがステータスを開くと、ホーキンスのステータス画面が見える。
ホーキンス・アトキンソン 種族 人間 職業 僧侶 36歳
攻撃力119 防御力158 信仰心200
冒険者レベル ウッド階級レベル3
アリエラ教とは水と緑の神アリエラを主神とした宗教。
(ほう……。僧侶の場合、魔力でなくて信仰心になるのか……。神の奇跡を起こすには、信仰心のポイントを消費するらしい)
タカギはホーキンスの挨拶に軽く頭を下げて応える。そして、最後の一人はタカギは興味があった。なぜなら、その人物は『エルフ』だったのだ。まだ、14,5歳としか思えない容貌。少女エルフはお約束のように美少女であった。
「こちらがジゼルよ。見ての通り、エルフ」
ジゼルという名前のエルフは、タカギに視線を送ると少しだけ頭を下げた。タカギもつられて頭を下げる。
(エルフだ、エルフだ~。やべえぜ、やばかわえええぜ~)
タカギの表情はまっとうであるが、心の中は大フィーバーしていた。ファンタジーRPG好きなら、エルフ少女はレギュラーメンバーからは外せない。
もちろん、タカギはステータスをオープンする。
ジゼル・ハートレイヤー 種族エルフ 職業レンジャー 年齢39歳
攻撃力130 防御力120 魔力35
冒険者レベル ウッド階級レベル21
(ほう~。やっぱりエルフは年齢がわからん。39って、ドワーフのリーダーより年上じゃん)
見てくれはどう見ても13,4歳にしか見えない。やはりエルフはおそるべしである。そして、そのエルフはタカギに向かって不思議そうに聞いてきた。
「タカギ……タカギは勇者なのか?」
「ゆ、勇者~っ。タカギが?」
エルフの少女の言葉に魔法使いのお姉さんシエラが馬鹿にしたように反応する。タカギは少し、ステータスを偽ったことを後悔したが、ここで自分の凄さがばれてしまうのはやはりよくないと自分を抑え込んだ。
「いや、俺が勇者なんて何の冗談。それともエルフの君には、俺がそんなに強く見えるのかなあ?」
ちょっととぼけた感じで言い放ったタカギ。その軽さに周りもタカギが勇者であるという可能性を否定してしまう。
「そりゃそうだ。勇者なんか、こんなところに来るわけがねえよ」
リーダーであるベルモットがそういうと、周りもそうだろうと納得する。タカギは胸をなでおろした。本当は最強の勇者であることを公開したかったが、ここは自制心を働かせる。
(ふふふ……。俺の能力は君たちよりもはるかに上ですよ~。でも、俺は弱いふり。ああ、何だかこの優越感は最高だぜ……)
タカギは何だかうれしかった。自分が本当は強いのに、それを隠して偽っているというのは、快感である。
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