第12話 ステータスオープン勇者 勇者転移する

 高木悠馬は勇者である。

 彼が日本で暮らしていた時は、ゲーム好きでいつもスマホでゲーム三昧していた高木。得意なゲームはファンタジーRPGである。

 現実世界では安月給で細々と暮らすちっぽけな存在であったが、ゲームの世界では周りから賞賛される勇者であった。みんなが羨む装備品をひけらかし、クエスト達成報酬とモンスター退治で蓄財した莫大なお金が彼に優越感を与えていた。

 そんな高木はゲームと同じ世界に転移した。

(ここはどこだ?)

 なんてタカギは思わなかった。その世界は自分が活躍していたゲームの世界に似ていたからだ。普段から現実よりゲームに世界の方に入り浸っていた時間が長かった彼には、違和感なんてなかった。

「ステータスオープン……」

 タカギはごく自然にそう叫んだ。そして当然のように目の前にゲーム画面が映し出された。そこには自分の能力が数値化された情報がある。

勇者 タカギ・ユーマ レベル285 攻撃力580 防御力550 魔力480 敏捷性590 知力580 体力618……。


 数字が羅列する。タカギは『勇者』と記された自分のステータス画面に満足した。異世界に転移したのなら当然の結果である。

「一つ気に食わないのは、数値が999とかじゃないことかな」

 異世界転移した勇者のステータスなら、数値はMAXがお約束だ。「999」かもしれないし、「99999999999999999」かもしれない。そういう結果が欲しかったが、やがてタカギは自分の数値に満足することになる。

「あと年齢か……」

 タカギは33歳であった。いい年である。おっさんと言われかねない年である。だから、タカギはステータス画面を操作した。

「年齢を変えられるぜ……33は消去して……これくらいにするか」

 タカギが書き換えた数字は「17」。あまり若いと馬鹿にされるから、このくらいが一番だと思ったからだ。日本で言えば、進路もまだ本格的に考えなくていい年齢。十分大人で自由に動ける年齢だが、法律的に縛られない年齢。17歳と言うのはそのギリギリにあたる数字なのだ。

「今日から俺は17歳」

 数値を入れたとたんに、タカギの肉体は若返る。身長は少しだけ縮み、体重は大幅に減った。脂肪が筋肉に変わり、顔が引き締まって肌質もよくなった。誰がどう見ても若い肉体へと変化した。

「うおおおっ。これラッキー」

 年齢だけでなく、性別も変えられそうであったが、それは止めた。下手に女に変えたら男に言い寄られる。日本でのタカギは女性には全くもてなかったが、女は好きだったからだ。この世界では自分がもてる予感がする。だとすると、男のままがいい。

「それじゃ、行くとするか」

 どこへ行けばよいかもステータス画面を開けば分かる。マップを開く機能があるからだ。西へ向かえば町があることが分かった。

異世界に転移した郊外の森から、歩くこと1時間。大きな町にたどり着いた彼は、町を歩く屈強そうなおっさんのステータス数字がせいぜい100を超えるか超えないかということを知ったからだ。どう考えても自分のステータスはとんでもなく高い数字だと思われた。

 もちろんそれだけではない。ステータス画面を左へ移すと今度は習得した魔法や剣技が分かる。画面いっぱいの文字は相当な強さを物語っていた。

さらに持ち物も多い。所持するお金に関しても金貨の枚数を示す数字は8桁。この世界の物価からすれば、数十年は何もせずに暮らせる所持金である。

(やべえ……俺って……)

「俺って最強じゃねえか!」

 実際には数値が500台であるから、MAXと思われる999の半分と考えれば最強と言うわけではないは、初期段階のモンスターにはほぼ無敵である。

それにこの数字は任意に移動できる。借りおきのボーナスポイント枠に数値を移せば、攻撃力10、防御10とか、わざと少なくすることもできる。少なくしたポイントを他に振り分ければ、敏捷性をとんでもなく上げたり、魔力を上げたりすることもできた。

 つまりタカギは自分のステータスを自由に操作することで、自分の強さをデザインすることができるのだ。さらに敵対するモンスターや道行く人間のステータスも見ることができる。これによって、戦いでは有効な作戦を立てられるし、相手をする人間の能力も分かるから接し方も分かるのである。

(それにステータスを確認すれば、存在するかもしれない自分より強い奴との戦いは避けられる。勝てる相手と効率よく戦ってレベル上げすれば、この世界最強も夢じゃない)

 タカギは自分の置かれた境遇に満足した。元いた世界では安月給で働く営業サラリーマン。売れもしない投資用マンションを売るべくアポ電をして断わられる毎日。それと比較すれば、この世界は自分に優しい。

「それじゃ、最初に行く場所はあそこしかないよね」

 そんな高木はお約束のように、冒険者ギルドに向かった。どの町にも冒険者ギルドはある。これはゲームならお約束だ。そしてどう考えても日本語じゃない文字の看板。これがなぜか読めるのも問題ない。

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