第11話 ハーレム勇者 夢のまた夢
3か月が経った。
サイトウはフラフラしながら、何かから逃げるように部屋を出た。この3か月で容姿が変節し、髪が真っ白になっている。
サイトウは震える手で柱の陰に隠れた。城の中は広い。人一人ならこうやってすぐに身を隠すことができるが、それは一時しのぎにしかならないことも知っている。
「サイトウ……」
不意に後ろから話しかけられて、サイトウは体をビクッと震わせた。そして、恐る恐る後ろを振り返って表情を和らげた。
「ジゼルちゃん……」
「隠れてどうするつもり……」
「ジゼルちゃん、今になって亡ぶ前のリッチが言っていたことや君が忠告していたことを理解できたよ……もう遅いけど……」
口をわずかに開けてサイトウはそう小声で言った。3か月前の凛々しい勇者の姿はそこにはない。
女の嫉妬は尋常ではない。
サイトウに群がっていた女の子たちは、やがてサイトウを巡って醜い争いを始めた。そして、毎日のようにサイトウに結婚してと迫る。最初は適当なことを言って、彼女らと遊んでいたサイトウであったが、ついに追い詰められた。
一応、身分を考えてマルガリータ姫を正妻にしてあとは側室というところで、話をまとめようとしたが、マルガリータが途中で側室など認めませんと拒否し、それに反対する女の子たちとの対立。最後はサイトウを巻き込んでの血なまぐさい抗争にまで発展してしまった。
勇者に与えられた無敵の力も、自分を慕う女の子たちに使うことができず、今は城の一室に監禁されていたのだ。
ジゼルは旅の支度を終えている。背中には愛用の短弓に矢筒。マントに背負い袋。この3か月間、サイトウが行くところには付いて行ったエルフの少女だ。
「ハーレムは男の側から見れば、うらやましい世界かもしれない。だけど、女の側から見ればとんでもない世界。サイトウ、もしお前が好きな女の子が逆ハーレムで多数の男を囲っていてお前がその中の一人であったら、同じことをしたのではないか。彼女を独り占めしようと他の男と戦うのであろう」
「……たぶん」
「わたしがサイトウといるのはここまで。わたしの忠告に従わないから、こういう結末になる……」
「ジゼルちゃん……君はどうして……他の女の子たちと違うの……」
サイトウはそうジゼルに問うた。自分の周りの女の子の中で、唯一、自分と距離を置いていたからだ。ジゼルは淡々とこう答えた。
「わたしは勇者には恋はしない。わたしは勇者ウォッチャーだから……」
「勇者ウォッチャー……?」
「……勇者サイトウ……あなたのことはわたしの記憶に刻まれる。勇者といえども、女には弱いものだ」
ジゼルはそういうとバルコニーから去った。サイトウはふうっと息を吐いた。そして、その瞬間、気配を察知して体を硬直させた。
「見つけたわ……サイトウさん」
そこにいたのは女神官のルミィ。手に光るものを持っている。
「ルミィ……」
「私の物にならないのなら……」
「うっ……」
サイトウは腹に痛みを感じた。慌てて傷口を押える。血の熱さが手の平に伝わる。勇者の力を使えば防御できたが、ルミィ相手に使えなかった。
「あああ!」
柱の陰からフラフラと出たサイトウをジャスティが見つけた。
「ずるいぞ、ルミィ、サイトウさんはあたいのものだ。あたいのものにならないのなら、殺してしまう」
剣を抜くジャスティ。
「うあああああああっ……」
通りかかったメイドが叫び声を上げた。
「きゃああああっ~サイトウ様が、勇者様が~」
勇者は血の海に静かに横たわっていた。その魂は天へと召され、亡骸だけがポツンと横たわっていた。
人々は語り継ぐ。勇者様は悪との戦いで命を削り、神に召されたと。
しかし、その本当の理由は誰にも語られていない。
ざんねんな勇者 その1 ハーレム勇者
圧倒的な力と優しさで多数の女を無意識のうちに引き寄せる。しかし、女によって最後は身を滅ぼす。
勇者ウォッチャー ジゼル・ハートレイヤー
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